ユ:蜂の城へ
嵌められた。
……まぁ、ここまで来たら別に断るつもりは無かったけどな。
とはいえ、『絆』の幻獣なんて存在のクエストを反故にしたら、他NPCとの関係性がどうなるか分からないのは怖い。
やらないっていう選択肢は無かった。
「蜂のお城ってどこにあるんですか?」
「ここから右羽を朝日へ向けて進んだ所よ。地面の段差の隙間を抜けた先にある大きな枯れ木だから、すぐにわかるわ」
……北、だな?
ん? ブリックブレッド北東の蜂の巣?
(……ダンジョンかもしれない)
(え?)
(蜂の巣ダンジョン、俺達が蝶の山に行ってからそこそこ後に見つかった所)
(へぇー、そんな所あったんだ?)
毒対策が必要だけどドロップ品と経験値が美味しいって、新しい【火魔法】訓練のメイン狩場になってたはずだ。
……ただ、今回行くのは対話目的で、狩りじゃない。
「……俺達、蜂と話は出来ないが?」
「あら、そうだったわね」
うっかりって顔で、フクロウが「ホッホゥ!ホッホゥ!」と何かを詠唱した。
俺と相棒に、何かキラキラとした光がかかった。
「それで、少しの間は蜂のお城の者達と会話ができるわ」
……限定的な翻訳状態。蜂の巣以外は普段と変わらないし、時間をかけすぎると効果が切れるのか。
効果だけ貰って他の事に使うような真似は許さないって感じだな。
「……じゃあ、サクッと行ってくるか」
「うぇ~い」
「よろしくね」
梟幻獣と大量のニードルバードに見送られながら、俺達は蜂の巣を目指して移動を始めた。
* * *
「【ツリークリエイト】!」
森の中を、出てくる植物系モンスターを倒しながら進む。
ここは大街道で繋いだ四方の街よりは外側になる。だから敵のレベルがピリオ周辺よりやや高くなってはいるが、奈落制圧戦でのレベルアップのおかげか、特に苦戦はしなかった。ネビュラを呼ぶのはダンジョンに着いてからでもいいな。
相棒が魔法で敵の動きの妨害をして、俺が弓で撃つ。
または、俺が闇魔法で敵の妨害をして、相棒が木魔法で倒す。
どっちも妨害は得意だから、臨機応変に対応できるのがいい。
うっかり誰かと遭遇しても問題ないように、籠のついていない箒を振り回しながら相棒が口を開いた。
「ダンジョンでもそうじゃなくてもさ、ゲームの蜂って近付いたら問答無用で襲ってくるイメージ無い?」
「あるね」
森を進みながら、気になる事を共有する。
「……話、してくれるかな?」
「……まぁ、それをなんとかしろってクエストなんだろうけど」
夫婦揃って、そんなリアル説得技能の持ち合わせは無い。
正直、俺達向きじゃないよな、このクエスト。
とはいえ。
「とにかく事情を話すしかないんじゃない?」
「だよねー」
出来る事やってダメだったら、正直にそう報告するしかない。
そうして歩いていくと、わかりやすい切り立った崖に到着した。
「ここかな」
「ここだね」
ダンジョンの入口らしく、明らかにプレイヤーがそこそこいるし。
他プレイヤーからすると、俺達はかなり変な方角からやってきたらしく少し驚かれた。
まぁ、わざわざ森を掻き分けて遠回りしたりしないよな。
普通はブリックブレッドから有志の目印を頼りに平地を真っ直ぐ通ってくる。
……ってことは、やっぱりここは件の蜂の巣ダンジョンで合ってるって事だ。
ここのダンジョン前もパーティの休憩所になっていて、テント張ってキャンプしているプレイヤーの会話が聞こえてくる。
「ヌーさん今日もいたー!」
「うわマジだ。ヌーさんて適正レベルとっくに超えてません?」
「俺最近ここに住んでるから」
「マジで!?」
「そんな蜂蜜好きなん?」
「俺は蜂蜜ドカ食いするためにこのゲームやってるんだよ? 医者に甘い物止められてるから」
「うそでしょ!?」
……マタギみたいな熊獣人がなんかすごい事を言っている。
まぁ、リアルで食べられない物を食べるためにフルダイブVRゲームを始めたっていうのは割とよく聞く話だ。
どうしても生肉を安全に食いたくて牧場レストランゲームを作ったグループが記事になったりしてた記憶がある。
あとは酒飲みがリアルの酒量を減らすために使うとか。
あの熊もその口か……とか考えていたら、聞こえてくる会話は思いがけない方向に飛んでいた。
「きみらもここで野宿するつもりなら気をつけなよ。ここの蜂って外にも出てくるのがデフォだけど、なんか最近出てくる数が多いから」
「え、それスタンピードってやつじゃないんです?」
「ううん、一応ピリオの兵士にも伝えたけど、違うって」
「……じゃあなんなんですかね?」
「なんか色々説明されたけど覚えてないや。蜂には興味無かったから」
「えー!?」
「ヌーさん、まじヌーさん」
その覚えてなかった部分が俺達のクエストに関わりある所のような気がする……というか蜜が少ないのって、ヒトがこうやって荒らしてるからだったりしないか??
……できれば突入前に情報が欲しかったが無い物ねだりをしてもしょうがない。
(入ろう)
(はーい)
ダンジョンへの入り口をくぐり、俺達は個別フィールドへと移動した。