キ:神様と聖女と精霊とか不死鳥とかの話
小休憩を挟んでから、神父様の授業が再開される。
子供たちも飲み物を飲んでから、大人しく座ってわくわくしながら続きを待っているようだった。
絵本の読み聞かせみたいな気分なのかな?
シスターが「今の内に色々片付けるわよぉー!」って遠くで叫んでたのが聞こえた。子育てって大変そうだもんね。
「では……次は異世界開拓を始めた後をお話をいたしましょう」
狭い故郷に見切りをつけて、新天地へ向かう事にした開拓神と王国だけど……それはもちろん、どこでもいいってわけにはいかなかった。
余所の世界にも神様がいて、許可も無しに乗り込んで行ったら、それは結局故郷で心配された侵略と同じ事になってしまうから。
だから神様と王国は、いくつもいくつも世界を探して交渉した。
「そうしてある日、色よい返事をいただけた世界がありました」
それがここ、ヒト族のいないこの世界。
「故郷と違い、この世界にはたった一柱の神しかおられません」
その神は、『生誕』を司る神だった。
司るのが『生誕』のみでありながら、森羅万象を産み落とし全てを己が物とする、とても力の強い神。
「その神様から、三神と王国はとても歓迎していただけました」
『どうか逞しい人の子らに、この世界で生きてほしい』
入植を請うつもりが、逆に請われる勢いだったらしい。
「今思えば、『滅び』に抗うためだったのでしょうな」
ですよねー
とはいえ、利害は完全に一致した。
生誕の神が生み出した世界は、無限に広がり続ける果ての無い場所。
そして人類のいない、他の国の存在しない場所。
世界の狭さに耐えられなかった開拓神と王国にとっては、これ以上ない好条件だった。
「こうして、我々は新天地の開拓を行っているわけです。……さ、何か質問はありますか?」
子供たちは何度も聞いている話なのか、問われた僕らに視線が向いた。
「……えっと、この教会はどの神様を祀ってるんですか?」
「こちらの主神である生誕の神と、分け身がやってきている開拓神・技術神・豊穣神、以上の四柱となります」
あ、全部なんだ。
神父様が姿絵をみせてくれた。
RPGの主人公みがある冒険者って感じの開拓神。
大量の書類を持っているインテリ感がある技術神。
そしてムキムキマッチョな半裸でイチゴにキスしてる豊穣神。
「……あれ? 生誕の神様のは無いんですか?」
「まだ聖女様ですらお姿を拝見させていただいておりませんので」
……ってことは、他の神様は実際に見て描かれた姿って事かな。
かなり神様との距離が近い設定のファンタジーだねぇ。
そして聖女様の話が出たから、ついでに聞いておこう。
「聖女様は……どういう存在なんでしょう?」
「神々は、それぞれが必要と思った時に一人、己の力を貸し与えるための聖人・聖女を選びます。聖人・聖女は精霊と共に神の望みを叶えるのが役目です」
ふむふむ、代行者って感じなのかな。
「現在この教会におられる聖女様は、こちらの世界の生誕の神の聖女になります」
「他の三神の聖人・聖女はいないんですか?」
開拓の神様の聖女なんて、一緒に開拓してそうなものだけど。
「開拓神の聖人様は、入植地ピリオノートの先代騎士団長様ですね。お年がお年ですので、ラッセル・コールビート現騎士団長に引継ぎを行い引退されております」
あら、御老体だった。
ちなみに存命。ちょいちょい冒険者に混ざってモンスター討伐とかしてるらしい。引退とは?
「技術神の聖人様は、御自身が手掛けた異世界への扉が開いたのを確認された後にお亡くなりになられています」
おおん……使命を果たした感がすごい。
王国首都には偉人として石像が作られたって。
「豊穣神の聖女様は、今代は他国のお方ですので、王国の異世界開拓には関わっておられません」
なるほどねー
あとは、ちらっと精霊の話が出たし、精霊の事も聞いておきたいなぁ。
「精霊は神様とは違うんですか?」
「精霊は世界の管理人のような存在です。神は神域から現世を見ておられ、現世で実際に理を動かすのが精霊です」
神父様が言うには、王国本土の世界では、ひとつの属性につき精霊が一体だった代わりなのか、色んな神様がいたのと同じくらい色んな精霊がいたらしい。
「こちらの世界では、精霊が七種類しかおられないようですな」
火を司る、炎の精霊
水と氷を司る、青の精霊
風と雷を司る、空の精霊
土と石を司る、大地の精霊
草と木を司る、緑の精霊
光と生命を司る、命の精霊
闇と死を司る、死の精霊
「それ以外の、例えば『時』や『夢』といった属性は精霊がいないようでして……どうやら似て非なる幻獣として存在しているようなのです」
「幻獣」
幻獣ってここに入るんだ。
……あれっ、不死鳥ってどこに入るんだろ?
「不死鳥は……精霊じゃないですよね? 幻獣ですか?」
「不死鳥の間の不死鳥様とお話させていただきましたが……精霊でも幻獣でもありませんでした。この世界において、不死鳥様は特殊な存在のようです」
精霊や幻獣よりは神に近く、けれども神では無い。
強いて言うのなら、人のいないこの世界の聖人・聖女に近い。
「神獣……とでも呼ぶのが丁度よいかと思います」
「神獣」
「はい。数を増やし力を鍛える事で神の『再生』の力を確たるものにし、時に他の世界へとはばたいて神の耳目となる。この世界の不死鳥とはそういう存在です」
へぇー、神獣かぁー……
(神獣に、めっちゃノリと勢いでフッシーて名前つけちゃったよ)
(あー……まぁ、本鳥は気に入ってたから)
どうか神様に怒られませんように!