ユ:王国本土と神様の話
鉢やプランターを乗せる棚を作ってストロングベリーを並べつつ、俺達は話の流れで出てきた神様の事を話していた。
「……本土の王国の事も、意外と関わってきそうだな」
「あー、確かに?」
王国本土はプレイヤーが立ち入れないから、てっきり雰囲気設定だけの存在なのかと思っていた。
でも向こうの祭りだの神様だのがどうのこうのでこっちに影響が出るなら、ある程度知っておいた方がいいのかもしれない。
「そういう話なら……やっぱり教会かな?」
「だろうね」
それなら二人で行ってみるか。
ついでに、シイタケさんに変装衣装のアップグレードなんかも頼みに露店広場も行こう。
相棒はイチゴ買った直後でまた出かけることになるけど。
そう言うと、相棒は怪訝な顔をした。
「お出かけデートが嬉しくないわけないじゃん」
「そう?」
実に助かる。
* * *
シイタケさんにメッセージを投げたものの、ログインしていないのか返事が無かったので、俺達はまず教会へと足を向けた。
ピリオノートの東寄り。
孤児院が併設されている教会だ。
大街道敷設イベントでは、俺達が大量の食材を納品した場所。
西洋の教会と言うと、彫刻で飾られている豪華絢爛な物もよくあるが、ここは実にシンプルでスッキリとした建物だ。
頑丈さ重視というか、機能美というか、権力者が見栄っ張りを頑張った感じが無いというか。
開拓地では、まだ大きな権力争いが起きて無いってだけかもしれないけどな。
開け放たれた正面の扉から中へ入る。
イベントの時も用事は外で済んでいたから、中に入るのは初めてだ。
香が焚かれているのか、独特の落ち着く匂いがする空間。
石造りの聖堂は薄暗く、ステンドグラスから差し込む光に照らされた祭壇が浮かび上がって見える。
十字架こそないが、絵に描いたような教会の聖堂だ。
神父っぽい人がいたので、相棒が神様全般についての解説をお願いできるか尋ねると、笑顔で了承してくれた。
神官系の職業希望者が来た場合は必ずそういう関係の話をするので、よくある業務の一環らしい。
「知りたいと思ったその時こそが、あなた方にとっての神に近づくべき時なのです」
おお、それっぽい事を言っている。
聖堂だとお祈りしたい人の邪魔になるかもしれないので移動する。
天気がいいので、外のテーブルと椅子を使ってお茶をいただきながら聞くことになった。
* * *
「まずはそうですね……身近な所で言う本国の神々のお話をしてから、こちらの世界との違いをお話しましょうか」
「「よろしくお願いします」」
お茶が届いてから、神父は話し始めた。
「我々が生まれ育った世界には、とても数多くの神々がいらっしゃいます」
王国本土がある世界は。主神を頂点に、色んな事象それぞれに神がいる。多神教の世界らしい。
国によってどの神様を尊ぶか違いがあって、神様同士の仲が悪いからという理由で仲の悪い国もあるとか。
あまりにも神の数が多いから、全部を解説していくのは難しい。
……というか、よほど上位の神官でもないと、神職でさえ全部を覚えている者はいないらしい。
なので今回は、王国の歴史と、そこに関わる神様の話をメインに聞く事になった。
「我らククロスオーヴ王国は、冒険者であった初代国王が開拓神の力を授かって興した国と伝えられております。そこに田畑を広げて豊穣神を、険しい未開の地を人の領域とするべく技術神を、それぞれ助力を希い、お力を授かって発展した国です」
そんなククロスオーヴ王国は、未開の土地に乗り込んでは領土を拡張するのが趣味みたいなところがあり、あれよあれよと言う間に曖昧だった他国との国境を綺麗に決めるところまで広げ切ってしまったのだとか。
(開拓馬鹿だ!)
(うん、間違いない)
開拓神も豊穣神も技術神も、王国の開拓事業に大いに満足していたのだが。当然のように他の神から苦情が入る。
「やりすぎだ、と。特に森の神と、森の神を崇めるエルフの国から苦情が入りました」
道を伸ばして村を作って畑を作れば、当然森は切り開かれる。
途中途中にあったエルフの小集落は、きちんと話し合いの末に吸収しているので問題にはならなかったのだが。
森の神としては縄張りが削り取られているような状態だ。それは面白くないだろう。
「開拓神と森の神は……まぁ控えめに申しましても仲がよろしくはございません」
だろうな。
「豊穣神が間に入ったりなどいたしましたが……まぁ他の神々もですね、開拓の名目で領土を広げる戦争など起こされてお気に入りの国が滅ぼされてはかなわぬと森の神の側に立ち、主神に訴えたのです」
その頃には豊かな大国となっていたククロスオーヴ王国は、当の国が戦を好まない気質であっても脅威に思われたらしい。
神聖国より、『これ以上、周囲に領土を拡張するのはやめろ』と、主神の神託が下った。
「主神は絶対です。とはいえ、それでは開拓神の在り方そのものを否定するのも同じ事」
開拓神としては死活問題。
そして開拓神の気質に染まり切った国王も国民も面白くない。
そこで一計を講じたのが技術神だった。
「開拓神の本質は新境地を切り開く事。それは技術神と大変相性が良く、二柱は力を合わせて王国の技術者に干渉し、異世界へと繋げる魔法を作り上げました」
なんという力技。
異世界という新境地を開拓した開拓神は、『これで文句ねぇだろ!!』と他の神々に啖呵を切って、半ば出奔する勢いで王国と異世界開拓計画を推し進めたらしい。
(やんちゃ坊主がすぎる)
(それな)
「父である主神を含め、他の神々は頭を抱えたそうですよ!」
「でしょうね」
それを誇らしげに言うあたり、この神父も大概だ。
だが、実際文句のつけようがなかったらしい。
あっちの世界はそれほど広くはなく、にも関わらず神が多い。
開拓の神など、早々に開拓場所が無くなって消滅すると思われていた。
役目を失いゆく神は、その外見から老い始める。
だが、開拓神は老いなかった。
国が他国の国境沿いまで広がっても老いなかった。
だから他の神々は、生きるために他の神の領分へ攻め入るつもりなのではと恐怖していたわけだ。
しかし違った。
開拓神は己の力で、自分が生きる新天地を切り開いた。
さすがにそれに否を唱えるのは、開拓神に死ねと言うのと同じ事だ。
主神を含め、そこまで言う神はいなかった。
王国を取り巻く国々も、神々がお手上げなら大国相手に何を言うこともできなかったらしい。
国境線維持の調印の場で『こっちに迷惑かけないでくださいよ!』みたいな事を言うのが精々だったとか。
「さて、かなり簡潔にまとめましたが……ここまではよろしいですかな?」
「「「「「「はーい」」」」」」
いつのまにか集まっていた孤児院の子供達と一緒に、良い子の返事をする。
「では、水分補給をしたら、こちらの世界の神様のお話をしましょうね」
「「「「「「はーい」」」」」」
どうやら後半も合同授業らしい。