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ユ:図書館へ寄贈


 ざっくりとだが、救出した本の一通りのチェックは終了した。

 とりあえず、開いた途端にヤバい物がコンニチハするような本は無かった。相棒の【解析】でも変な魔力は見えなかったから、そこは安心していい。

『神の傑作たるヤーンボールシープ』も……特に洗脳されるような内容ではなかったとだけ言っておく。詳細? 知らなくていいアレは。


 とはいえ、開いて仕掛けが無いことを確認しただけで、俺と相棒の二人だけだと言語の壁や色褪せなんかはどうしようもなかった。


「さすがに翻訳とか復元はできないから、写本作ったら図書館に寄贈して専門家にお任せだねぇ」

「だな」


 文字が掠れている本も、なんやかんや復元する方法はあるのかもしれない。それこそ俺達の知らないスキルがある可能性もある。

 案外、そういう作業が好きなプレイヤーが嬉々として修復するかもしれないしな。



 * * *



 そういうわけで、写本を作り終えた俺達は、いつもの変装姿で図書館までやってきた。

 インベントリの中身は一旦全部本に置き換えて、なんとか全部持って来ている。


 まずは司書さんに声をかけて、寄贈は受け付けているかを確認。


「はい、受けておりますよ。特に開拓地は本が少ないですから歓迎しております」

「言語がわからなかったり、掠れて読めなくなってる本とかは復元とかしてますか?」

「貴重な書籍の可能性がありますので、出来る限り行っております」


 この時点で、俺達が珍しい本を手に入れた事を察したのだろう。

 司書さんは目に見えてそわそわと期待し始めた。


 ……この反応なら大丈夫だろう。


 俺と相棒は顔を見合わせて頷いて、本をカウンターに乗せ始めた。


「まずは、これがそのまま読める本です」

「……『まずは』?」


 キョトンとする司書さんをスルーして、次の山を乗せる。


「で、これが読める言語なんですけど掠れて読めない本」

「は、はい?」


 わけがわからないという顔をする司書さん。


「で、これが読める人がいるかもしれない言語で書かれている、掠れていない読める本」

「……えーっと?」


 そろそろ司書さんが目を白黒とさせはじめた。


「で、これが読める人がいるかもしれない言語で書かれている、掠れて読めない本で……」

「……あの」


 この辺から、積み上げる本は目に見えて多くなる。


「で、ここからが読めなさそうな言語で書かれている、掠れていない読める本」

「待ってください! ちょっと待ってください!!」


 最も数の多い山を前に、司書さんからストップがかかった。


「これ全部ですか!?」

「まだ出ますけど」

「まだ!? 全部いただいていいんですね!?」

「どうぞ」

「ありがとうございまぁす!!」



 ──称号『司書のお気に入り』を取得しました。



 ……称号が出たかぁ。


 いや、それはまぁいい。

 そんなことより、俺達は本がナイナイされないように釘を刺さないと。


「あの、この本なんですけど……できれば沢山の冒険者が読めるように、ここに並べて欲しいんですよ」

「それはもちろんですとも! ……ただ、読めない物をそのまま並べてもしかたありませんので、ギルドへ復元や翻訳の依頼を出してからにはなります」


 ……ん? この言い方だと、プレイヤーへのクエストになる感じか?

 修復はともかく、翻訳も??

 専門家は……まさかいない??


 ……そうか、そもそも本の絶対数が少ないから、書籍に関する専門家なんて司書がいいところか。

 ってなると『誰か出来る人いませんかー?』ってギルドに依頼を出す事になるよな。

 ……俺達は、とんでもない高難易度クエストを世に解き放ったのかもしれない。


 いや、でも……仕舞い込まれて見ることも出来なくなるよりは……いい……のか?


(暗号解読得意な人がいるといいねぇ)

(……うん)


 いるといいな……いるか? そんなヤツ?

 いやでもインターネットにはちょいちょい野生のプロがいるからな……ゲームの暗号も解読してる猛者がたまに攻略動画とかでいるし……案外いけるのかもしれない。


 ……それはひとまず置いておいて、俺達は司書さんに確認しておきたいことがあった。


「あの……この図書館って、本国よりも本が壊れやすいとかってありますか?」

「おや、よくご存知ですね?」


 ああ……やっぱりそういう影響があるのか。

 本を滅ぼしていた『滅び』の居場所と繋がっているっていうのは、まぁそういうことだよな。


「環境が違うからなんですかね……とはいえ修復でなんとかなる範囲ですから、大丈夫ですよ」


 把握しているなら、そこまで深刻な問題でもない、か?

 ここの司書さんは本好きらしいから、うっかり復元不可まで放置することも無いだろう。

 ……滅びに抗うって言うのは、こういう日々の日課が大切なのかもしれない。


 そういう感じで、俺達は本を司書さんに託して図書館を後にした。


 ……どうしても読みたいヤツは頑張ってくれ。

 俺達は……やれる事はやったぞ。


 このゲームは基本的に、プレイヤーが知恵や工夫で重要情報へのルートをこじあける事を良しとしており、それによってゲームが有利になる事はイコールご褒美という認識です。


 なのでこの無理ゲーな本達も、解読に成功すれば有益な情報も出るようになってはいます。

 もしも誰にも解読出来なかったなら、その場合はゲーム全体の進行度を見て、ちょうど良さそうなタイミングで『本国で翻訳に成功しましたー』みたいな感じで情報が公開されます。

 本を救出しておらず、ロストしていた場合も同様です。

 ただその場合、情報を得られるのはもっとずっと後になったでしょう。


 そしてプレイヤーが頑張ったことによりゲームが有利になると、その分展開が多少なりと早まるので、難易度高めの穴埋めを運営が別途御用意する必要が出てくるわけです。

 頑張れ、運営。

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― 新着の感想 ―
いつか運営が10べぇだあぁああああとか言い出さないよね?大丈夫だよね?
人間運営「加速3倍……持ってくれよオレの自我!」
運営AIちゃん「ほーん頑張ってるプレイヤーさんいるやん。ほな、もうちょい難易度上げてもいいかあ・・・」
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