ユ:これが、真の光属性
総合評価が2万超え、評価者数が1000人超え、ブックマークが5000超えてました。えらいこっちゃ……
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『感情が瀕死とか呪術の対極案件じゃん。無理だわー』
『え、えっと、私、そういうのはバッドエンド直行するタイプなので』
『私も何故かヤンデレエンド引きがちなのよねぇ、なんでかしら?』
『自分は身内からもKYの評価を得ているのでやめたほうがいいぞ!』
これはひどい。
異境同盟の同盟チャットで返ってきた返事はご覧の有様だった。
まぁ、俺達も含め、皆で遊ぶためのクランの便利機能を『煩わしい』って言っちゃう集団だからな……薄々そんな気はしてた。
閉口する俺の横で相棒も苦笑いだ。
そんなわけで、頼みの綱は唯一NOを出さなかったカステラソムリエさんとなる。
『集合知ってか、数の力に頼る気はあるんだな? 同盟以外のプレイヤーがそこに出入りするのは構わないか?』
『そこは全然気にしないかなぁ』
別に俺達の拠点じゃないなら、どこのダンジョンに誰が入ろうが気にしない。
……いや、愉快犯的なプレイヤーがこの使徒に悪心を吹き込んでピリオが崩壊するのはさすがに勘弁してくれと思うから、こうして秘匿状態で相談してはいるんだが。
カステラさんは先日βの信用できるプレイヤーに相談の上、『また敵が沸く結晶みたいなのと遭遇したら、奈落送りにして被害を抑える』って方法を『今後も取れるならとる』って事を夾竹桃さん含めた同盟面子に納得させてくれていた。
β勢とのやりとりも含めて、実にありがたい。
『じゃあ、前にも相談したβの信用できる馴染みの一人に声かけて連れていくわ。そっちはどうする? 場所と方法教えてもらえれば勝手に行くけど?』
『ん-、気になるし危ないからご案内はしたいんだけどねぇ』
『パーティ組まないと一緒に入れないだろうから、名前割れるよ?』
『だよねー』
そこが問題なんだよな。
『ちなみに、連れてくるのって誰なのか訊いてもいいです?』
『お嬢。カトリーヌお嬢様』
『あ、なんだあのお嬢様かー』
あのお嬢様なら、不死鳥の霊を呼ぶ方法を頼んでもいないのに秘匿してくれた実績がある。
『お嬢様なら名前バレしてもいいかな』
『面識あるの?』
『有るような無いような? とりあえず不死鳥の籠のあれそれ黙っててくれたから、口が堅い人って印象はある感じ』
『ああ、なるほどね』
カトリーヌお嬢様は、すぐに連絡がついたらしい。
図書館の前についたら連絡を貰う事にして、一度戻っていた俺達は図書館内で待機するべく急いでピリオに飛ぶ。
(……そういえば、あそこって中からは出られる?)
(出られるよ。入って来た位置に同じ鏡があるから、同じようにノックしたら戻る)
(なら大丈夫だね)
スティックが無いと死ななきゃ出られないような場所は、さすがに他人をご案内できないからな。
* * *
到着の一報が入ったので、俺が【隠密】を使いながら外に出てカステラさんとお嬢様をパーティに入れて同フィールドの図書館に招き入れる。
お嬢様は、お嬢様の不死鳥が入った小さな鉄の籠を腰に下げている白銀の鎧姿だ。装飾が多くて、実にお嬢様感があった。
お嬢様は、人好きしそうな笑顔でこっちに会釈する。
「お久しぶりです」
「……どうも」
「嫁さんは?」
「危ないんで、先に入って足場作って待ってます」
フェアリーのカステラさんは飛んでるから大丈夫だろうけど、お嬢様はたぶんヒューマンだからな。
その当のお嬢様は、何故かキラキラと憧れのような物を含んだ目でこっちを見て来た。
「嫁さん……奥様……本当にご夫婦なのですね。ステキですわ」
……お嬢様は、恋に恋するお年頃か?
先導して、二人を鏡の前に連れてくる。
ノックをして吸い込まれるように中に入ると、体は相棒が展開しているネモの足場に受け止められた。
「いらっしゃーい」
あまりにも使徒が無反応だから、こそこそする必要が無いと判断した相棒が普通にお出迎え。
奇妙な感触の足場におっかなびっくりしていたお嬢様は、相棒を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「お久しぶりです」
「どーもー」
とりあえず二人に現状分かっている事を説明する。
「初めて聞くお話ですわね。少なくとも、私は存じ上げなかった場所ですわ」
「フルダイブ系のゲームは壁を片っ端から殴ってまわるような奇行プレイするとNPCに嫌われるのがほとんどだからなー。鏡を叩くとか、まずやらないだろ」
「初心者がうっかり入ったりしませんか?」
「個別フィールドだからって壁殴るような初心者は、鏡に手出す前に司書に摘まみだされるわ」
ああ、あの司書そういう仕事もするのか。
「回収したっていうここの本はどうするつもり?」
「自分用に写本作ってから、この図書館に寄贈しようかなって。そうすれば他プレイヤーの図書館にも実装されるかもしれないし」
「なるほど、予備とっておけばNPCがナイナイしてもなんとかなるか」
「うん。ナイナイされたらそれこそ写本で増やして露店で売るよ。まぁ呪いの本とか無いかどうか確認してからだけど」
「助かりますわ」
話ながら案内した、座り込む使徒の前。
お嬢様は痛ましい顔をして、しゃがみ込んで手を伸ばした。
「……心を壊したNPCと似た表情をしていますわ」
「どう思う? この夫婦は、時間をかけて心を癒す系の事ができるんじゃないかと見立ててるみたいだけど」
「……わかりません。でも、私もそうできればいいと思います」
お嬢様は立ち上がると、どこか切なげな、それでも晴れやかな笑顔で振り返った。
「使徒だからといって、このような状態の方を切り捨てたくありませんわ。今の段階で出会う事が出来るようになっているのも、きっと意味があるはず。私と、私のクランメンバー一同、手を尽くさせていただきます」
(なんという光属性)
(これはお嬢様ですわ)
カステラさんが真っ先に話を通す相手に選んだのも納得の眩しさ。
もしRPだとしても、これが言えるなら悪い方には転がらないだろう。
具体的にはお嬢様率いるクラン『麗嬢騎士団』が定期的に訪れて、様子を見ながら心を取り戻すように話しかけを行う。
とりあえずは公開しないまま活動を続けて、もしも迷い込んだ誰かから情報が広まったら、その時は状況と方針を公開して協力を募る。
……という事になった。
「俺もたまには様子見に来るようにするよ。で、ヤバいレイド戦とか起きそうになったら、すぐに連絡してほしい。ガルガンとか呼ばないといけないから」
「もちろんですわ」
ピリオノートが爆発するのは俺達も避けたいが……突然呼ばれるガルガンチュアさんはそれでいいんだろうか。
とはいえ、俺達にできる事はやっただろう。
依頼人に該当するNPCがいないからかクエスト表記が出ないから、これであっているのかどうかはわからない。
ただクエストが出てしまえば、『これが正解なんだ』と思ってしまうだろうから。そこを悩みつつ進める必要がある仕様なのかもしれない。
これがどう転ぶのか、わかるのはずっと先の事。
やる気満々なお嬢様に後を託して。
俺達は、いつもの二人のペースに戻る事にしたのだった。