キ:本日の営業は終了でーす!
出かけてたらうっかり遅くなりました。
何回か占いをしていると、霊蝶ちゃん自動書記のイメージを好きな文言で登録出来るようになった。
どんなのにしようかなー……自動書記だけど、オバケが書いてるイメージだから、僕の中からはコックリさん的な感覚が抜けてないんだよね。
……だから、こんな感じかな。
「【霊蝶さん、束ねられた知恵、助言をくださいな】」
フワリと霊蝶ちゃんがペンに止まって文を書く。
……この霊蝶ちゃんは、霊蝶ちゃんの形を借りてるイメージなのか、それとも本当に霊蝶ちゃんが友情出演しているだけなのか。どっちなんだろうねぇ?
スキルレベルも最初の内はホイホイ上がる。
ただ、文言がわかるようなわからないような感じだから、内容に変化があるのかはいまいちよくわかんないや。
まぁ占いなんて、結局のところ受けた本人次第なのはリアルもゲームも一緒。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
お互いなんとなく楽しめればそれでいいのだ。
* * *
しばらく誰も通らない時間が続いてから、門から出てきたのは男女のペア。
男は腰に剣を吊って鎧を着ているわかりやすい剣士スタイル。
女の子はお胸の自己主張が激しいゴシック系魔法使いで……おや? 黒いリボンの巻かれたその杖は、僕の作った箒では?
その女の子の方が、僕らの方を見て、男の襟首を掴んでビタッと止まった。
当然男は首を引っ張られてたたらを踏む。
「おわあっ!? なんだ、どうした?」
「…………」
うう〜ん、デジャヴ。
もしかしなくてもフリーマーケットの時のお客さんじゃあなかろうか。
女の子は男を引っ張って僕らの店にやって来た。
「なんだ、占い? エミリーそういうの好きだよなー……あれ? このリンゴ……」
「…………」
注意事項やリンゴを見てブツブツ言っている男を無視して、真顔のエミリーちゃんは躊躇いなく僕に3リリーを支払った。
まいどどーも。
「【霊蝶さん、束ねられた知恵、助言をくださいな】」
霊蝶が止まって動き出したペンを、熱心に見つめるエミリーちゃん。
ふふふ、この子無表情だけど、目が口程に物を言うタイプだね。目がキラッキラしてるよ。
「『恐れるなかれ。手を伸ばせば繋げる距離』……?」
「……」
なぁにこれぇ?
まさかこの二人へ恋の後押しじゃあございませんよね?
エミリーちゃんはチラッと期待のこもった目で男の方を見たから同じ事を考えたかもしれない。
一方、男の方は……
「あ! アレだろ、アレ! この前見つけた子猫の事だきっと!」
「……」
うん……言ってる事はあってるんだろうけどね……エミリーちゃんの視線に気付きもしねぇや。なんて純朴で朗らかな笑顔でございましょ。
スンッとなっちゃったエミリーちゃん……頑張れ。
男の方は前のリンゴのおかげで食堂の裏メニューを見つけて、そこからさらに珍しいクエストに発展した事を話し、嬉々としてまたリンゴを買った。
そうそう役に立つ事ばっかり出ないと思うけどねー。
……あ、そうだ。
エミリーちゃんは僕が占いに使ってる雑貨が好きかもしれない。
せっかくだから、ガラスペンはサウストランクの雑貨屋さんで買いましたよーって事を紙に書いて一緒に手渡し。
ふふふ、ほら見たまえ。口元が微かに微笑みましたよ。
君も魔女好きっぽいからねぇ、お裾分けだぁ。
もうガラスペンの店は書いて貼っておこう。
* * *
初心者向けで始めた占い屋さんは、今のところは思い通りの営業ができている。
人の少な目な所で、のんびり回数こなしてスキルレベル上げてる感じね。
そもそもリアル1週間の占われクールタイムが発生するからか、【占術】スキルの序盤はかなりスキルレベルが上がりやすくなってる気がする。体感ね。
だからまぁ、ずっとじゃなくても長い事演奏してる相棒も疲れてきただろうし、そろそろ一段落してもいいかなーって思い始めた頃だった。
「おおお? 何あれー?」
なんだか聞き覚えのあるような無いような声。
目をやると、ウェイトレスっぽい装備を着た可愛い女の子がこっちに向かって来ていた。
(……なんか見覚えあるけど、誰だっけ?)
(配信者だよ。麺食メン子)
(あー……僕らがチンジャオロースお勧めしちゃった子?)
(そうそれ)
生きてたんだ!
……いや、リスポーンするゲームだから生きてるのは当たり前なんだけどね? 心折れてなかったかーって。
僕が内心でしみじみしていると、前までやって来ていたメン子ちゃんが注意事項を読み終わっていた。
「占いお願いしまーす!」
はい、まいどどーも。まいどーも。
「……【霊蝶さん、束ねられた知恵、助言をくださいな】」
霊蝶ちゃんがペンを動かすと、すごいすごいと大はしゃぎするメン子ちゃん。
サラサラと書き出されたのは……
「……『汝、生き急ぐことなかれ。手に手を取るのも冒険のひとつ』?」
直球!!
こんなドストレートに『ちょっと死に戻り過ぎてませんか? パーティとか組んでみましょう?』みたいな文言出るんだ!?
……いや、こんな文言出るくらいにこの子が死に過ぎなのかもしれない。
火の玉ストレートを受けたメン子ちゃんは……フラフラと後ろによろけて座り込んだ。
「だってそんな……アタシ、コラボ配信とか普段やんないし……パーティ組むような相手なんて……」
そこに肩に乗っているコメント読み上げオウムがパカパカとクチバシを動かす。
「え? 登録メンバーの皆と? ……でも、参加出来る人と出来ない人と出るじゃん。参加出来ない人、寂しくなっちゃうでしょ?」
パカパカ、パカパカ。
ひっきりなしに喋るオウムは、画面の向こうのファンの声を必死にこの子に届けていた。
何を言われているのか僕には聞こえないけど、メン子ちゃんの目にうるうると涙が浮かんで来るのは見えた。
「みんな……いいの? アタシ絶対皆の前でイケメンに突進するよ? アクションそんなに上手じゃないから絶対皆の足引っ張るよ? 見てるだけならともかく、一緒に遊んだらイライラするかもしれないよ?」
パカパカ、パカパカ。
心なしか、オウムがイケメンみたいなキメ顔をしたような気がした。
「み、みんなぁ〜〜〜!!」
ギャン泣きしてオウムを抱きしめるメン子ちゃん。
パカパカパカパカパカパカ、すごい速さで喋るオウム。
(イイハナシカナー?)
(……相棒、撤収準備するよ)
えっ?
(生配信で映ったってことは、人が来る)
(アッ)
そういえばそうだね!?
たぶんファンとの感動シーン真っ最中なメン子ちゃんの邪魔にならないように、僕らは音を立てずにアイテムをインベントリに放り込んでいく。
──そこへ駆け込んで来たのは見覚えのあるアカデミック感を感じる数人!
籠はいらねぇ! 取っとけ!
リンゴを籠ごとそっちにぶん投げると、お返しに代金が飛んできた。
キャッチして、相棒と一緒に風切り羽で拠点に帰還!
本日の占い屋さんは店じまいです!
お疲れ様でした!!