キ:占い道具を買いに。
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今日の僕らは、ついに何の予定も無い日。
のんびりゲーム内朝ご飯を食べながらお話しつつ、今日の予定を考える。
目玉焼きうめぇ。
「公式夏イベントかぁ~、でももう少し先だね?」
「だね」
「……海は気になるけど、イベントはあんまり興味が沸かないかも」
「なんで?」
「水着に興味が無い」
元々露出が多い服が好きじゃないのだ。長袖長裾大好き。スカスカすると寒くて落ち着かないし。
だから水着なんてその最たる物よ。
着なくていいなら着たくない。
「まぁわかる。俺も相棒の水着姿とか他の男に見せたくない」
二人で頷き合う。
まぁ水着を着なくてもね、夏は楽しめるから。
「この『エンペラースイカ品評会』とかは普通に見たい」
「……これか、いいよ」
「花火期間は一週間あるからー、これは休みで時間とれる日に見に行こう?」
「狙いは平日昼間」
「……人で混むから?」
「そう、人で混むから」
「花火だもんねぇ~」
花火は混むものと相場が決まっている。
「『出張露店広場』だって、これは何かあるのかな?」
「……単純にイベントアイテムのやりとりしやすくするための場所提供じゃない?」
「あー、確かに買い物の度にピリオと往復するのはダルイね」
転移オーブがあってもね。面倒なものは面倒だから。
「……うん、当日お祭り気分で見るだけでも楽しめそう」
「それこそ何かやりたくなったらやればいいよ」
「だねー」
次のイベントはまったり参加で行こう。
……前もまったりだったって? なんのことかな。
「でもそれなら、前もってしておく事も特に無いかな?」
「無いね」
「じゃあ……今日はお買い物行こうかな」
「何か欲しいの?」
「占いのペンとかインクとか紙とか」
「ああ、そうだった。紙はちょっと待って、考えてる事あるから」
「うん? わかった」
あとついでに、ジャック達が伐採してくれた木も売ろうかな。
「俺はここの木でちょっと作ってみたい物あるから、少し残しておいて」
「はーい。じゃあ相棒は今日はその作業?」
「だね」
「買い物は行かない?」
「いってらっしゃい」
ですよねー、知ってた。
* * *
今日のお買い物は、いつもの民族系衣装で変装してのお出かけ。
木材売るのもそうだし、占いもリンゴと一緒にやりたいなって考えると、結局この格好でやりそうだしね。
怪しい民族系のオバケ占い師……有りだと思います。
まずはサウストランクに転移して木材を売りに行く。
前に来たのは精霊キークエストの時だったね。
工房の多い立派な街並みは変わってないんだけど……なんか、あちこちに蛇を模した飾りが増えた気がする。
街灯代わりのランプとか、ちょっとした柱とかに蛇の彫刻があった。
大森林に蛇精霊が住んでるからかな?
お店のショーウィンドウにも蛇の形の商品が並んでいるから、名物として売り出してるのかもしれない。
……周りの森がイタズラで迷いの森にされてたのにね?
なんというか、商魂逞しいなぁ。
さて、街のあちこちに立っている看板のおかげで、買い取りセンターはすぐにわかった。
声変わりシロップを飲んで、中へ。
「いらっしゃいませ」
「木材の買い取りお願いします」
そう言うと、受付のお姉さんは僕の杖をちらっと見た。
「木材の種類を確認させていただいてもよろしいですか?」
僕はインベントリから微睡の森の木の枝を渡して見せた。
「ありがとうございます。奥へどうぞ」
……お姉さんの笑顔が三割増しになった気がする。
きっとこの人も商人に違いない。
案内された倉庫で売る分の木材を出して、査定と換金。
なんか途中でサウストランクの主の行商人パピルスさんが駆け込んできて、挨拶だけしてまた駆け出していったりって事もあったけど。まぁ特に問題なく取引は完了。
……たまに思うけど、こういうゲーム内で忙しく大商人やっちゃう人って、リアルで何してる人なんだろう?
そんな商才あるならリアルでも商売してそうな気がしちゃうけど。でもそれならわざわざゲーム内でまで仕事する? とも思うし……まぁリアルとゲームは違うのかな?
ま、本気で知りたいわけじゃない。不思議なだけ。
換金を終えて、街をのんびり歩く。
……ここ、職人募集してて工房が多いだけあって、生活雑貨もたくさん売ってるんだよね。
ピリオの露店広場はプレイヤーの店だから、やっぱりメインは装備と家具が多い。そういう意味では、前のフリーマーケットは掘り出し物が多かった。
うん、占いに使う物はここで探してみようかな。
工房は小店舗がついている物がほとんどみたいで、大きな所はショーウィンドウがある店もある。
ペンとインクは……何の店にならあるかなぁ?
あっちは鍛冶屋さん。こっちは仕立て屋さん。そこは靴屋さん。
防具屋さんに家具屋さん……ここはカフェだねぇ。
カート販売の花屋さんを通過した所で、とある看板が目に入る。
『錬金術雑貨~幽世堂~』
ほほーう?
『幽世堂』と来ましたか。
オバケ感ありますねぇ、【死霊魔法】を使う身としては気になる響き。
そしてこれがホラーな外観の店なら全力で見なかった事にするんだけど……看板がね、すごい繊細な金属の細工物で綺麗なのよ。
怖い感じゼロ。
これはアレじゃあないですか? メルヘン系ワンチャンあるんじゃないですか?
よし、ちょっと覗いてみよう。
開けてみて怖い店だったら、申し訳ないけどそっ閉じUターンする。
はい、オープン……おおおー!
お店の中は、絵に描いたようなメルヘンの雰囲気だった!
ふわりひらりとかけられたビロードの布。
神秘的な装飾の飾り物。
何に使うのかわからない道具がたーくさん!
お邪魔しまーす!!
店員のお姉さんに三度見された気がするけど、商品に夢中な僕は全然気にならなかった。
色んな種類の薬瓶がありますなぁ!
え、この指輪って杖代わりになるんです?
うーわー、なんてファンタジーな香炉なんだ!
水晶の中に刻印が切り抜かれた金属板が入ってる!?
ああー! ガ、ガラスペンじゃないですかー!!
テンションぶち上がったまま一通りの商品を眺めて、正気に戻ってからお買い物。
紫色の軸にオレンジの花が咲いてる綺麗なガラスペン。
繊細な細工のあるインク壺。
刻印が刻まれてる謎素材の筆記用下敷き。
この辺をお会計に持って行って、店員さんに訊いてみる。
「あのー、何か面白いインクありませんか?」
どうせならね、風変わりな物使って占いを演出したいじゃないですか。
店員さんは少しの間考え込んだ。
「……この辺とかいかがでしょう?」
店の奥から出してくれたのは、鮮やかな緑色のインクだった。
「『パウダープランツ』っていう生命力がとても強い草を磨り潰してインクにしたものなんですが。『燃やさない限り粉にしてもそこから草が生える』っていう由来の通り、書いてからリアル一週間ほど経つとインクから草が生えます」
なにそれ面白い。
しかもリアル一週間なら、ちょうど占われのクールタイムくらいじゃん。
「これください」
「あっ、これでいいんですか!? ありがとうございます」
「……これって瓶の中で草が生えたりします?」
「生えます。なので生えたら磨り潰してください。そうしたらインクに戻ります」
ワイルド。
品物を全部包んでもらって、お姉さんに見送られながら外へ。
「ありがとうございましたー……」
へっへっへ、良い物が買えたぞぅ。
僕は直感に従った場合の買い物運は良いのだ。悩むと初期不良品とか引くけどね!




