ユ:山へ向かって山から山へ
ログインまだです。
今日の夕飯はアボカドディップのバゲットと水餃子スープ。
スープはポン酢を入れて少し酸味のあるさっぱり風味だ。
あとは真紀奈が帰ってきたら盛り付けて完了。
待ってる間に、ネットで情報集めでもするか。
……エフォは公式から夏イベントの情報が出た。
ざっくり言えば、ピリオ南で海が見つかって、そこで楽しむためのイベントだ。
水中での動きが有利になったり水魔法耐性が上昇する水着装備を作るクエスト。
その材料をドロップする海辺の敵の討伐クエスト。
夏らしい食べ物関係のクエスト。
他にもイベントがいくつか。
とは言え、大街道敷設イベントの時みたいに、事前準備で得をするようなものではなさそうだ。
開催まではまだ時間もある。
ひとまずは、昨日見つけた島の探索に注力していいだろう。
……さて、帰ってきたな。
「ただいマンボウ〜、腹ペコでマンボウが死にます」
「おかえり。死なないで手洗いうがい済ませておいで」
「はぁ~い」
* * *
食べて色々済ませてログイン。
今日は、昨日確認した占いの示す先っぽい島に向かう。
「メンバーどうする? そもそも道中戦闘あるかもだし、ジャックとデューは連れてくよね?」
「うん。マリーも戦えないわけじゃないみたいだし、ジャックの回復も必要だろうから連れていこう」
「オッケー」
オバケ三兄弟と、俺はネビュラを連れて行く。
ベロニカは留守番してもらって、もしも拠点に何かあったら俺達の所に飛んで来てもらう事にした。
今回はフッシーもコダマ爺さんも杖に入れて連れて行くからな。拠点の家畜の見張りをしてもらう。
「じゃあ行ってくるねー」
「気を付けるのよ!」
「ベロニカもな」
まずは森を抜けて、山の登り始めあたりまで徒歩で進む。
「ここも道作りたいねぇ。時々木の根に躓きそうになるし」
「オレ達で伐採だけでもしてオク?」
「あー、やっておいてもらえると助かるかも?」
「だね。木材は適当に転がしておいてくれればいいから」
「ワカッター」
ついに他の島への遠征だからな。
この先何度もあちこち行くだろうから、道はあると助かる。
向かってくる鹿を片付けながら、山の麓に到着。
待ち構えていたワンパンベアを、サクッと片付けて先へ進む。
「まさかワンパンベアをワンパン出来る日が来るとは……」
「一気にレベル上がったからな」
スキルレベルの上がった今なら、【急所攻撃】が入れば即死も可能だ。
さて、いざ山の頂上へ行くわけだが。
青森県と渦巻きを合体させてドリルを生やしたような形の山は、徒歩で登っていたらちょっと時間がかかり過ぎる。
なので、俺とデューがネビュラに乗って駆け上がってもらい、相棒とジャックとマリーは箒に乗ってフッシーに飛んでもらう。
「わぁ……すごいです。本当にとんでます」
「フッシー爺チャン、ガンバレー!」
「二人とも落ちないでねー」
……うん、まぁ大丈夫だろう。
MPポーションもあるから、飛びながらの補給も出来るはずだ。
「じゃあ、こっちも行こう」
「よろしくお願いいたしマス!」
「うむ、行くぞ」
前と同じように、道中の敵を全部無視して走り抜ける。
今回も特にボスのような敵も無し、俺達は無事に山頂で合流した。
「すーごい景色! 紫の海のパノラマー!」
「スッゲー! デュー、マリー、次はベロニカと一緒にここまで来るのを目標にしよーヨ!」
「はいジャック兄様!」
「是非ニ!」
俺達がログインしてない間は、ちょくちょく狩りに出てるらしい三人。仲が良くて何よりだ。
……それじゃあ、声を聞いて敵が集まる前に移動するか。
「西は……あっちか。ってことはこの光だな」
「コレに触ればいいの?」
「らしいよ」
「では自分が先行いたしマス」
タンク担当のデューが前に出る。
ここは素直に任せよう。
鎧の指先がそっと光の粒子に触れると……光がキラキラとデューの鎧を取り巻き始めた。
「ヌ……オ、オオオッ!?」
フワリとデューの体が浮かぶ。
そしてそのまま、シューッと滑るように、光の粒子をなぞってデューは西の島の山頂へと飛んで行った。
「めっちゃシュール」
「早く追いかけよう」
一人にしておくのは危ないからな。
次々と光に触れて、触れた先から浮かび飛んで行く。
なんだこの……現実味の無い飛行は。
「なにこれぇ、変な感じ〜」
「それな。あんまり爽快感が無い」
「夢の中で飛びたくないのに飛んでた時の感じに似てるー」
「どんな夢?」
強いて言うなら、スキー場のリフトが一番近いかもしれない。
勝手に運ばれて身動きの取れない感じだ。
それでも飛んでいるから、そう時間はかからずに西の島に着いた。
デューも特に何事もなく立って待っている。
「皆、何ともない?」
相棒の問いかけにも、『異常無し』の返答。
「じゃあ続けて行こうか」
山頂から山頂に飛ぶのは楽でいいな。
そのまま次の光に乗れる。
西へ3、北へ1
俺達は目的地まで、不可思議な空の旅を続けた。