キ:帰ってくるために生まれた君へ
ログインしました。
僕ら、最近ゲーム内が忙しかった気がする。
イベントあたりから色々クエストが来たりお誘い受けたりと、珍しくアグレッシブに動いた気がするのだ。
同盟仲間の拠点の転移オーブ登録もしたりしたから、転移先も一気に倍になった。
……ちょっとね、のんびり楽しんでいた勢としては中々に高カロリーな日々だったと思うわけですよ。
「なので今日は、のんびりお散歩気分で相棒の占い結果を確かめに行きたいと思います! いかがですか!?」
「好きにしなー」
相棒がアルネブさんにもらった占いの結果。
『求める者あり。絆の卵。始まりの点にて再会を望む』
始まりの点がピリオノートを指すらしいから。そうなるとこれは十中八九、カラスちゃんの事だと思うのだ。
他にピリオで絆って呼べるほどなんやかんやしてお別れしたNPCなんていないし。
というわけで、ゲーム内の朝食をとったら、いつもの民族系の衣装で変装した。
お城の人とはこの格好でしか会ってないからね……ちゃんと声変わりシロップも持ってるよ。
準備完了。
ピリオノートへGO。
転移広場は門とは別にプレイヤーの出入口みたいなものだから、当然いつもプレイヤーがそれなりにいる。
そのプレイヤー達に、精霊を連れている人がチラホラいた。
あれは猿、あれはトンボ、あれは……なんだろうヤモリ? あ、魚もいる。あっちはイノシシだ。
一体だけの人もいれば、複数体連れている人もいる。
キークエストが終わったら、みんな草の根かき分ける勢いで精霊郷を探してまわったみたい。
基本四属性系の精霊がたくさんwikiに情報として載っていて、精霊に興味がある人はどの精霊に会いに行こうか悩んでいるらしい。
ただ、光と闇の精霊は見つかっていない……正確には相棒の、死の精霊のネビュラしか見つかっていない。
たぶん特殊な場所にいるんじゃないかって考察されていた。
……うん、確かに特殊だね。
そんな事を考えながらのんびり歩いて城の前に到着。
(……着いたけど、どうしよっか?)
(うーん)
クエストじゃないから、城に入る事は出来ない。
僕らは勲章とか持ってないからね。緊急の何かがあったら話を通してくれるくらいはあるかもだけど、今日は占いで気になっただけで特に何も無い。
まぁせっかくだから不死鳥の間でも見ていこうか、なんて思って足を向けかけた時だった。
「おや、あなた方は」
ちょうど城から出てきたお年寄りには見覚えがある。
(えっと……見覚えあるけど誰だっけ)
(ハロルドさん。昔の斥候クロウ隊の隊長さん)
そうそれ!
さすが相棒。
顔が見えなくても僕の動きで思い出したのを察したのか、ハロルドさんは穏やかに微笑んで会釈してくれた。
僕らも会釈を返す。
「ちょうどよかった。お二人とも、この後お時間はございますか?」
たぶんあなたのその用事のためにあります。
僕らはコクリと頷いて、ハロルドさんに促されるままお城に入った。
……声変わりシロップ飲んでおこう。
* * *
何度目かの城の廊下だけど、いつも案内についていくだけだからどこに何があるのかなんて全然覚えていない。
でもなんとなく、前に通った事の無い所を歩いてるなーっていうのはわかった。
「以前お会いした日からしばらく経ってからの事ですが、何羽かの斥候クロウが突然季節外れの卵を産みまして。予想外で人手不足だと言って、この引退している爺まで駆り出されましてな」
嬉しそうに語るハロルドさんは、好々爺な感じで口調も元軍人さんらしくハキハキしていて聞き取りやすい。
「いやもう繁殖期でもないのに突然ですよ。ホライゾンクロウは雄が子育てをするのですがね、パートナーが産んだからには身に覚えが有るでしょうに、どいつもこいつも『よもやこの時期に産まれると思わなかった』みたいに狼狽えながら卵を温めるものですから可笑しくて」
ハロルドさんの物言いに僕らも思わず笑ってしまう。
わかりやすく多少の誇張してるんだろうけど、狼狽える雄のカラスを想像したら可笑しくて。絶対奥さんカラスに怒られるやつ。
歩いて向かっているのは城の片隅、たぶん動物が多い区画なんだと思う。
カァカァって、鳴き声が微かに聞こえてきた。
「そうして産まれた卵がですね……数えてみましたら、あの石碑に刻まれた数と同じ……に、ひとつ多かったんです」
ひとつ。
ハロルドさんの言葉に、ギュッと胸が絞られる。
「産まれた雛は全部雌で、次世代は雛の内からすぐに担当官をつけて人に慣れさせるんですがね……一羽だけ、絶対に誰にも懐かない雛がいまして」
──ガチャリ
扉のひとつが開かれる。
カァカァ、バサバサ。
たくさんの、若いカラスの声と羽ばたき。
「不思議なものでね、石碑の名前を呼ぶと返事をする子がいるんですよ。でもその懐かない子だけは、どの名前にも反応しない」
振り返って、イタズラな感じに笑うハロルドさんは、ちゃんと理由に気付いてる。
「そしてこの世代は、なんと訓練を行う前から仕事を理解しているようなんですよ。実に優秀、大変結構。もう飛べるようになりましたから、すぐにだって訓練を始めて簡単な仕事から始められるでしょう。……けれども、その懐かない子ガラスだけは、担当官をつけての訓練を拒否しました」
部屋の中には、担当官と、その腕に止まる若いカラス達。
そして──
「──カア!」
部屋の隅の止まり木から、真っ直ぐに部屋を横切って飛んでくる一羽のカラスちゃん。
「カァカァ! カァカァカァカァ! カア!」
僕の杖の上に止まって、誇らしげに何かをいっている。
オバケじゃないから、何を言っているのかは聞こえないけど……きっと、帰還報告をしているんだ。
ハロルドさんはそんな僕らの様子を見て、満足そうに頷いた。
「連れて行ってやってくださいな」
「……いいんですか?」
「ええ、訓練を拒否する個体は騎士団には所属できませんからな……その子はよくわかっていたはずです」
「カァ!」
カラスちゃんが相棒の服をつついて引っ張る。
(【テイム】してほしいんじゃない? 僕は【テイム】持ってないから)
(……まぁ、だから俺の方に占いが出たんだろうな)
昨日の岩ちゃんの経緯を思えば僕にも【テイム】が生えたかもしれないけどね。僕はテンパると指示とか出せなくなるだろうから、たぶん相棒の方が向いている。
カラスちゃんもそのへん察していたんじゃないかな。斥候のプロだもんね。
「……【テイム】」
「カァ!」
「……名前は付けてもいいのか?」
「カァッ!」
当たり前でしょって感じにカラスちゃんが鳴いた。
「……じゃあ、『ベロニカ』」
「カァッ!」
「おかえり、ベロニカ」
「おかえり」
「カァ!」
ベロニカは嬉しそうに鳴いて羽ばたいた。