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ユ:パーティ狩りをすれば精算が待っている。


 奈落の虫の残党を片付けた俺達は、ひとまず出発前に集まったのと同じ、ラウラさんの開拓地『神域の前庭』に戻ってきた。


 なにせパーティで大量の掃討戦をしたわけだから、ドロップなんかの分配処理をしないとならない。いわゆる精算だ。

 とはいえ……今回は早々面倒な事にはならなさそうだった。


「なんと! 滅びの虫とやらはドロップが無い!」

「……マジですか?」

「マジなんだよねー」


 どうも滅びの虫は、ドロップアイテムが無い代わりに経験値が美味しい敵だったらしい。

 道理でレベルがやたらと上がったわけだ。

 イベント用の群をこの少人数で片付けたんだから余計に経験値も多く感じるんだろう。


「まぁあの数からキモい虫の一部とか落とされても困るからー、むしろ良かったかもしれない?」

「それはそうね」


 夾竹桃さんは岩と一緒に戻って来て背もたれにしている。

 あの横穴、扉?無くなるけどいいんだろうか……まぁそもそもは無かったからいいのか。


「というわけで、今回のドロップ品は……100%奈落原産のこちらになります」



【渇望する瞳】…品質★★

欲しい欲しいと見つめ続けたまま終わってしまった瞳。

呪いの力を宿している。


【指切の花】…品質★

守られなかった約束が咲いた呪花。

呪いの力を宿している。


【喰い込む爪】…品質★★

離してはいけないのに、剥がれてしまった爪。

呪いの力を宿している。


【心の棘】…品質★★★

心にずっと刺さって血を流し続けていた棘。

呪いの力を宿している。



「奈落こんなんばっかか!?」

「こんなんばっかだよー?」


 そういう場所だったからな……御当地品だからどうしようもない。


「これは何に使える素材だ!?」

「装備にするともれなく呪われた装備になるって友達は言ってたー」

「で、ですよね……」


 つまり装備用には向かない、と。


「……前にフリマでリンゴと交換したアイテムは、それを元にオバケちゃん呼んだら未練を解消するクエストみたいなのが始まったけど……」

「あー、呪術士みたいなことしたんだねー」


 夾竹桃さんが言うには、たぶん奈落のアイテムは呪術に使うか未練を解消するかが基本の使い方じゃないかって話だった。


「呪術はね、強い情念を使って何かを起こすモノでー。自分に向けられたクソ強感情も使えるけど、こういう呪いのアイテムからも情念回収できるんだー」

「ずいぶん面倒そうな術ね?」

「そーね。ただ面白いのがねー、未練を解き放つと祝福になるんだけど、祝福は何度でも使い回せる情念扱いになるんだー」


 未練は使い捨てアイテム、祝福は自分の呪術専用MPゲージが増える感覚らしい。

 呪術士はそうして強くなる職業なのか。


「だから呪術士やるとクエスト三昧で面白いよー。やってる事は基本的に誰かさんの代理戦争って感じ」

「……つまり奈落はドロップも含めて呪術士専用マップに近いわけですか」

「たぶんそう。ピリオみたいに、そういうクエストが無限湧きする場所なのかなーって思う」


 それを踏まえて今回のドロップだ。


「これ欲しい人ー」


「いらん!」

「いらないよ」

「いらないわね」

「い、いらないです」

「僕もいらないかな……相棒は?」

「いらない」


「ですよねー! 呪術士は欲しいでーす!」


 まぁそうなるよな。

 ただ掃討戦をしただけあって、アイテムの量が膨大だ。

 これを全部精算するとなると、その分を夾竹桃さんが買い取る事になるわけだが……


「でもお金ないんだよねー……」

「あちゃー」

「でもこれって売って流通させるのも少し躊躇われるわ」

「……ピ、ピリオで呪いが蔓延したら大変です」

「でしょー? だからお金が無い」

「間借りの理由がわかってしまった」

「世知辛いな!」


 さてどうしたものか……

 悩ましい雰囲気になった所で、カステラさんがスッと手を上げた。


「……ひとつ考えてた事があるから、提案してもいい?」

「どうぞ」

「妙案でもあるのか!?」

「妙案というか……今回の結晶と虫についてなんだけどさ。あれって、奈落に捨てたからピリオは平和に終わったけど……ピリオでやってたら最低でも半壊はしてたと思うんだよ」

「まぁそーだろーねー」


 今日もピリオは平和だ。

 プレイヤー達も精霊郷が開放されたから、新精霊を探しにフィールドワークに勤しんでいるらしい。既にいくつか見つかって、有志wikiには精霊郷マップのページが出来た。

 さらには、ピリオ南の大森林を抜けた所で海に辿り着いたらしい。


「個人的には、NPCを守るのに奈落追放は『有り』な手だと思うんだよね」

「……まぁ被害の拡大は防げるわよね。ゲーマスAIも対策はしてくるでしょうけど」

「そ、それに、あまりそれをやると、ほ、他のプレイヤーから苦情がきませんか?」

「うむ、経験値がうまいイベントを奪う事になるからな!」


 他から上がる問題点に、カステラさんは「もちろん」と頷いた。


「そのへんも考えないとだから……ちょっとβの信用できる馴染みと相談したいなと思ってさ。俺はβでNPCの被害が割とトラウマになってて、同じような奴はそこそこいるから……話し合いをしてきたい。だから、その許可が欲しい。もちろん皆の名前と素性は出さないから」


 思いがけず真面目な顔で言うカステラさんに、俺達は顔を見合わせる。


「私達の情報が出ないなら構わないわよ」

「は、はい」

「自分もかまわん!」

「カステラさんの正体だけ一部にバレるだけだしー?」

「僕らもこっちが秘匿されるなら別に」

「うん」


 俺達の返事に、カステラさんは手を合わせて頭を下げた。


「ありがとう。俺はともかく他は絶対口外しないから。……で、掃討戦のドロップについては、『奈落使用料』って事で夾竹桃さんに渡していいんじゃないかと思って」

「ああ、なるほどね」

「うむ、経験値だけで充分得はしたからな!」

「い、いいと思います。イ、インベントリに残しても困るだけですし」

「原因な僕には反対する理由が無いのだ」

「同じく」


 そういうわけで、今回はお試しのようなモノだったって事もあり、大量の奈落ドロップ品は夾竹桃さんの元へ。


 今後どうするかは、またその時その時で考えるということになった。

 このメンバーでパーティ組む時が、そもそも特殊な事になる可能性が高いしな。


「柔軟に楽しめるといいわね」


 アルネブさんの言葉に一同頷く。


 その後は、なんやかんや気になる事を訊いたり話したりとお茶会の延長のような事をした。

 俺が潜入した流れを説明したり、ゴーレムの事を少し聞いたり、相棒が道案内に咲かせた花の種を夾竹桃さんが欲しがったりと。

 うざ絡みされないなら、ある程度の会話は俺も嫌いじゃない。


 思いのほか楽しい時間を過ごして、最初の同盟の集まりは終了したのだった。


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― 新着の感想 ―
まぁでも死霊魔術の触媒としてもかなり良さそうではあるから、 面白そうなのが出れば買い取りはありだなぁ
奈落「プレイヤーっていつもそうですよね…!ワタシのことなんだと思ってるんですか!?」
あれ、羽がどうなったって報告するんじゃなかったっけ?
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