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ユ:潜行せよ


「【ダークネスクリエイト】【隠密】」


 音を消し、気配も消して、焦らず急いで景色を進む。

 精霊のネビュラは完全に不可視の霊体になる事が可能だ。もちろんその間は何もできないが、不測の事態が起きた時のために霊体モードで付いてきてもらう。


 俺に任されたのは滅びの虫をスポーンさせている結晶の捜索。

 同盟メンバーの戦いを遠目にしながら、回り込んで虫の湧く大元を探す。


 ……もう少し離れないと虫が乱戦すぎてわからないか。


 しかし……この同盟メンバー、殲滅力が異常に高いな。

 さっきからエグい量の経験値が入ってくる。


 エフォ(EFO)はAIがゲームマスターとして起用されているMMOだ。

 だからこうやって、ギミックに関わる作戦としての別行動は『放置』や『無貢献』とはならず、『パーティプレイ』として認識されて仲間の獲得した経験値が多少なりと入って来る。

 それはもちろん逆も同じ、仲間に敵を引き付けてもらった上でギミックをなんとかすれば、ギミック解除ボーナスはちゃんと引き付けている仲間にも入るわけだ。


 だからこうやって離れて結晶を探している俺の所にも、ゴーレムやら【星魔法】やらで駆逐している大量の敵モンスターの経験値が流れ込んでくるわけだ。


 既にレベルが何回か上がってるんだが?

 ボーナスポイントを振る余裕はもちろん無い。

 それでも職業ボーナスのステータス上昇分だけで俊敏がゴリゴリ上がるから、リアルタイムで俺の移動は徐々に早くなっている。


 赤黒い霧で、主戦場の様子が見えない距離までやって来た。

 結晶はまだ見つからない。


 霧で視界が短いフィールドは音が情報の多くを占める。


 ゴーレムが踏みしめる音。

 星が落ちる音。

 虫の群の不愉快な羽音。

 悔恨の念が上げる絶叫。


 そういった騒音に向かって、離れた所から続々と敵のおかわりが駆けつける。

 僅かな岩陰を利用してそれをやり過ごしながら、ようやく敵の流れが見えてきた。

 マップ機能が無いゲームだから、敵の群の動きは観察するしかない。

 主戦場へ駆けつける敵の波。

 その層が厚いところを探して、来た方角を目指して進む。

 大きな段差がほぼ無いのが救いか。


 ……なんて思っていると壁に辿り着いた。


 血の色をした岩の壁。垂直に、そして上に行くほどせり出した壁は霧で霞むほど高い位置になるとさらにカーブを描いて天井へと向かっているように見える。奈落は一応洞窟なのか。


 でも壁沿いは良いな。

 虫はそこそこ大きいからか壁を走る奴はほとんどいない。

【闇魔法】で足音を消しながら壁の出っ張りを足場に進めば、ほとんど虫とはカチ合わない。


 ……【隠密】のレベルも上がるなぁ。

 まぁやり過ごした相手の数が今までと桁違いだもんな。

 なんだ今日は、パワーレベリングの日か?

 俺でこれならド根性さんとかアルネブさんとか取得経験値どうなってるんだ。表に出てないだけで実はトップ層なんじゃないか?


 若干現実逃避しながら進むと、一部洞窟が狭くなっている通路みたいな所に出た。

 狭いとは言っても元が広大だから岩の壁が巨大なアーチになっているだけなんだが。


 それでも、虫はそのアーチの向こうから大量にやってくる。


 霧に目を凝らせば、アーチの向こうはまた広い空間のように見えた。

 ……なんとか向こうまで行きたいな。

 ただ、アーチは空間のくびれだから、気付かれずにすれ違うのは厳しそうだ。


 どうする……【跳躍】? いや、飛んでる虫に気付かれるな。

 敵に何かするのは数が多すぎて現実的じゃない。


 ……【闇魔法】で影を移動したりできないか?

 漫画とかゲームでよくあるやつ。

 ここだってゲームなんだから出来るだろ。


 主戦場の音はまだまだ派手に鳴り響いていて、戦況がまったく変わっていない事を示している。

 やるなら急げ。


「……【ダークネスクリエイト】」


 小声で唱える魔法の詠唱。

 闇になって影から影へ、影のトンネルを通過するイメージ。


 魔法は応えた。

 結果は成功。

 ただし距離が短い。

 アーチをギリギリ越えたあたりまでで、一瞬虫の一体に体が接触する。


 止まるな、進め。


 虫はこっちを振り返りかけたが、後続の虫に押されてそのまま流されていった。

 ……危なかった。


 息を静かに細く長く吐き出して、奥へ抜ける。 


 ……距離が短かったのは、たぶん【闇魔法】のレベル不足だな。もっと使おう。


 二つ目の広場は、構造は一つ目と大差ない。



 ……違うのは、奥へ行くにつれて見えてきたモノだ。



 赤黒い霧の向こうにうっすらと浮かび上がった大きな影。

 ……プレイヤーが見つけやすいようにか、使徒的には別の理由が有るのかもしれないが、時間経過で大きくなるようにでもなっていたんだろう。


 電柱程の高さにまで巨大化した不気味な結晶が、広場の真ん中に浮いていた。


(あった)

(え、見つけた!?)

(うん、【居場所検知】で方角確認して伝えて)

(オッケー!)


 よし、これで役目はひとつ果たした。


 ……ただ、俺がここから動いたり死んだりするとまた場所がわからなくなる。

 もう少し皆が近付いて来るまではここで待機だな。


 結婚指輪の【居場所検知】で相棒の距離を確認しながら、俺は息を潜めて到着を待った。


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