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キ:前進せよ


 いよいよ始まった異境同盟の奈落制圧戦。

 ……僕らのレベルはそこまで高くないから、せめて足を引っ張らないように気を付けないと。

 なお、岩ちゃんは何が得意かも分からないのでとりあえずお留守番です。


「初手で抉じ開けるわ。展開は素早くお願いね」

「はいよ、お任せ」

「では行くぞ!!」


 先陣を切るのはアルネブさん。

 ペンデュラムを構えて、滝の裏から正面の虫とナニカに向けて放つ魔法の言葉。


「【天来インパクト】」


 頭上から、岩山で殴りつけられたような衝撃が飛来する。

 星が落ちる様を再現するみたいに、シンプルに大きくて、シンプルに重たい衝撃が敵の戦場を広範囲で薙ぎ払った。


 弾け飛ぶ虫と未練の破片。

 当然範囲外の目線は、新たな闖入者であるこっちに向く。


「い、行きます! 【主翼宣言】!」


 その敵の視線を、ラウラさんの翼の輝きが全部引き受けた。

 バサリと飛び立つ天使が、光輪と同じ光を剣と盾に纏わせて前に出る。宙を飛んで、逃げ回りながら展開する時間を稼いでくれている。


「さー、せっかくのパーティプレイだから色々やっちゃうぞー、【カースクリエイト】」


 装備に付いている立方体の飾りをひとつ砕きながら夾竹桃さんが唱えると、僕ら全員から細い何かが一本、夾竹桃さんの手の中に吸い込まれた。


 なんだろう?

 でも気にしてもいられない。


「【サモンインセクト:大樹の護】【サモンインセクト:木陰の執行者】」


 カステラさんが綺麗な夏の木の葉の色をした虫達を呼ぶ。

 大きな丸い甲虫が内側に、人と同じくらいの大きさのカマキリが外側を囲んで即席の要塞になる。


 僕とアルネブさんと夾竹桃さんはその防御の中へ。


 それじゃあ、お仕事しますかね。

 インベントリから拡声アイテムのメガホンを出して……唸れ! 僕の貧弱な腹筋!


「【トリック・オア・トリート】!!!」


 オッケー、結構な範囲の敵に防御低下がかかったはず。

 前進したらまたかけようね。


「では自分も展開するぞ! 前に出過ないようにな! 【サモンゴーレム:体当たりブラザー1号機】!!」


 ド根性さんの体に、地面から伸びた光の糸が絡みつく。

 そのままド根性さんが糸を引っ張り上げるように動くと、その動きに釣り上げられたように現れた大きな金属製の無骨なゴーレムがド根性さんを包みこんだ。

 大きさはド根性さんの1.5倍くらいかな? 巨大ロボって程の大きさじゃないけど、元のド根性さんが大きいから下にいるとすごく大きく見える。


「【接続】! 【同調】! ──行くぞ!!」


 ──ズ ン!!


 力強い踏み込みで、ゴーレムは思ったより機敏な動きで前進した。

 飛行系の敵に追いかけ回されているラウラさんの前に回り込む。


「来い! ラウラ殿!!」

「は、はぃいっ!!」


 天使とゴーレムが交差する。

 同時に敵の群へ叩き込まれるゴーレムの巨大な拳。

 キラキラと消滅のポリゴンが後ろに吹き抜ける。


「せいやぁっ!!」

「わわわっ! ハ、【ハレーション】っ!」


 暴れ蹴散らすゴーレムに取り付く敵の群を、ラウラさんの光が消し飛ばしてフォローする。


「……うん、大丈夫そうですね」

「だな、前進する。ユーレイさんは結晶の捜索よろしく」

「了解。見つけたら妻に連絡いれます」

「気を付けてね」

「しれっと妻呼びしよる」


 相棒は姿を消したネビュラと一緒に、【隠密】スキルで隠れて主戦場を避けて探索に出発した。


 僕らはゴーレムに続いて前進。

 どのくらいのペースで湧いてるのか分からないけど、とにかく数を減らさないと話にならないからね。


「撃つわよ、【スターダストレイン】!」


 頭上にきらめく大量の星々。

 そのきらめきが、縦に線を描くようにして落ちてくる。

 降り注ぐ星の雨が、無数の敵を打ち据える。


 でも、撃ったアルネブさんは不満そうだった。


「……ダメね。奈落は【星魔法】と相性が悪いわ」

「えっ?」


 アルネブさんは悔しそうに赤黒い霧で見通せない天を睨んだ。


「たぶんここは空が無いのよ。【星魔法】は空が無いと威力半減よ……【スターダストレイン】!」

「……この威力でー???」


【星魔法】すごい。

 僕も【火魔法】撃ってるけど、威力全然違うもんなぁ。


「火力特化って感じだねー……【フレイムクリエイト】! うん、全然威力届かないやー ──っ!」


 えっ、何で!?

 同じく【火魔法】を撃っていた夾竹桃さんが、突然二の腕を負傷してのけぞった!


「アハハー、来た来たー」

「は? 抜かれてないよな!?」


 カステラさんが慌てて従魔を確認するけど、カマキリ達はきっちり近付く敵を切り裂いてるし、甲虫はまだ無傷。


 夾竹桃さんは、目元の見えない顔でニヤリと笑う。


「たぶんラウラさんの負傷だねー」

「……待って、ヒーラーの真似事ってまさか」

「はーい、【呪術】で身代わり人形になって全員の負傷肩代わりしてまーす」

「タンクの仕事だそれはー!」

「HPと強靭はそこそこ高いけどー、頭数減らしたくなければ即死は避けてよねー!」

「そんなのあり!?」


 わかってたけど呪術士はヒーラーじゃなかった!

 とは言え今更止まれない。


「ヤバくなったらフッシー呼ぶから言ってね!」

「はーい……マジで不死鳥その名前なんだー?」


 そうですが何か?


 ……うーん、【火魔法】どうせ威力が他より一段落ちるならやり方変えよう。


「【フレイムクリエイト】!」


 なんか知らないけど得意になっちゃったミリ単位の火の壁。

 MP消費を抑えるために極力薄く、その分広く。

 コレを地面スレスレに、布を広げるイメージで敵の足下に展開する。

 見渡す限り血の色の岩肌だから可燃物が無くて安心だね!


「なるほどダメージ床ね。確かにキーナさんはそっちの方がいいかも」


 お墨付きも貰えたし、僕はしばらくこれで行こう。


 展開した戦線は少しずつだけど前進して、奈落の景色が見えてきた。

 赤黒い霧の立ち込める、不気味な血の色の岩のフィールド。

 あまり大きな起伏は無いけど、所々に突き刺さったような細長い岩が直立している、広い広い荒野。


 そんな荒野を流動するように蠢き潰し合っている『滅びの虫』と奈落に捨てられた未練達。

 結晶から出た虫は同じ姿ばかりだけど、奈落に元からいたっぽい敵は遠目にも不気味なカタチのモノが多い。

 ……近くに飛んできたら悲鳴上げちゃうかもしれない。


 相棒の方は大丈夫かな?


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