ユ:これより戦場に突入する。
俺達はとりあえず合戦中だっていう外を確認することにしたわけだが……外はどっちだ?
来た時真っ暗だった事からわかるように、横穴と言いつつ出口の無い部屋状態になっている。
……いや、一ヵ所だけ色の違う岩があるな?
「ちょーっと待ってねー」
夾竹桃さんがそう言って、色の違う岩に近づき、表面をコンコンとノックした。
……ズズズッと動いて、両手みたいな物が出てくる岩。
パチッと開く、中心のつぶらな瞳。
ラージゴロロック Lv20
「ゴロロー」
「岩ちゃん今日も無事だったー、ほーら美味しい石ころだよー」
「ゴロー」
入口を塞いでいる岩型モンスターを餌付けしている夾竹桃さん。
……え、従魔じゃないな?
普通にモンスターとしての名前とレベルが見える。
でも餌付けしてる……てか、そいつもしかして。
「ふふふ……そこの夫婦は知らないとは言わせないぞー。イベントの岩ヤドカリから奈落に消し飛ばしたラージゴロロック君ですー」
「あ、やっぱり?」
「そんな気はした」
「岩に擬態して隠れてたみたいでねー、結晶から沸いた虫でちょっとやばかった所を助けたら、なんか懐かれてさー」
それ以来、奈落で運命共同体みたいになっているらしい。
そんな事あるか?
「……てか、それなら【テイム】しちゃえば?」
「いやいや【テイム】スキル持ってないし。それにボスの取り巻きとか【テイム】無理でしょー」
カステラさんの指摘に「無理無理」と手をひらひら振る夾竹桃さん。
だが、カステラさんは「いやいや」と手をひらひら振り返した。
「このゲーム、RP補正あるから。これだけお膳立てしてれば、たぶんいける」
「RP補正……?」
「あと、スキル取ってなくても動物系のお涙頂戴クエストの果てに【テイム】習得したやつ知ってるから、たぶんいける」
「マジでー?」
「やってみればよかろう!」
見つめ合う、呪術師と岩。
恐る恐る伸ばされた人の手に、ゴツい岩の手がそっと重なる。
「……一緒に、来る?」
「ゴロロー」
……モンスターのモンスター表記が消えた。
つまり、【テイム】が成功した。
「岩ちゃんっ!!」
「ゴローッ!」
ひしっと抱き合う岩と人。
なんとなく拍手する俺達。
(……なんだこれ)
(少女漫画始まったかと思った)
なんとなく『めでたしめでたし』な空気になった所へ、相棒が唐突に爆弾を落とす。
「……夾竹桃さんって部屋間借りしてるんじゃなかったっけ? その子、部屋に入る?」
「アッ」
「……無理じゃない?」
「岩ちゃぁあああああんっ!!」
「ゴロローッ!!」
あわやホームレスかと思われた夾竹桃さんは、ド根性ブラザーさんの開拓街で家を借りる事になった。
街の防壁の門をくぐって外のフィールドには出ずに、転移オーブで他マップと出入する事が条件だ。
街人NPCが多いから、そこに紛れて暮らす分にはド根性さんは気にならないらしい。
* * *
無事に夾竹桃さんの従魔となった岩が、ゴゴゴゴッと動いて塞いでいた入口からどける。
岩はずいぶんしっかりと通路を塞いでいたらしい。
隙間が空いた途端に聞こえてきたのは、大量の水が落ちる滝壺の音。
ある程度の広さの赤い岩の地面の先に、水のカーテンのような滝が見える。
「あれが触ったら死ぬ水?」
「そー。奈落の川は全部あの水だから、気を付けてねー」
「つまり飲食や栽培に使える水が得られんのか!」
「人が住めるところじゃないって言ったでしょー」
そっと入口から出て、滝の水の向こう側を伺う。
……そこはまさしく戦場だった。
うっすらと漂う赤黒い霧で遠くまでは見通せないが、見える部分だけでも無数の何かがビッシリと蠢いているのがわかる。
片や黒い体に禍々しい色の光沢を持つ無数の虫が、群れを成して大きな別の生き物のように暴れまわり。
片や様々な色彩の千差万別なモノ達が、ぶつかり、突き刺さり、爆発して、弾け飛んではまた集まって形になりを繰り返す。
大量の蟻だの蜂だのの戦いを遠くから見ているようで、鳥肌が立った。
「凄まじいな!」
「……あの結晶って無限沸きなのかしら?」
「わかんないけど無限沸きだと思うなー、ものすごく認めたくないけど奈落に捨てたのはたぶん大正解」
「ゲーマスAI……ガチでピリオ半壊させるつもりだったな?」
「は、半壊で済むんですか?」
「集まってた人数で建物気にせず戦えばなんとかってくらいだと思う」
「ふむ! 想定は『街も人も被害は大きかったが、街道が繋がっているから復興の物資には困らないぞ! めでたしめでたし!』といった具合か!」
何もめでたくないが???
俺達は一度横穴の中に戻って、作戦会議をすることにした。
「はい、それぞれ職業名と戦闘で得意な事上げてってー」
「自分は『ゴーレムマイスター』だ! 手製のゴーレムに搭乗しての近接物理戦闘が得意だな!」
「そう、そんな感じで。俺は『マナの召喚士』、虫系の召喚メインで頭数は多く出せる」
「僕は『ハイネクロマンスクラフター』、広範囲デバフと攻撃魔法が少々かな」
「……職業は『霊狼の射手』です、射撃と狙撃とネビュラ、あとはデバフアイテムが少し」
「はーい、『火炎の呪術師』さんは【火魔法】がメイン火力で【呪術】はこの場合カウンター系の方が役に立てるかなー」
「私は『ステラフォーチュンクラフター』、【星魔法】の広範囲殲滅と運命操作による目くらましが得意よ」
「わ、私は『ゲートキーパー』です。剣と盾を使った近接戦がメインで、は、範囲攻撃と空中戦もできます。あとは、も、門番なのでヘイトを引くスキルをもってます」
出揃った情報を各自が吟味する。
元々がほぼソロの集まりだからか、現場の指揮官に名乗りを上げる者はいなかった。
「ヒーラーがいないか」
「あ、あ、すみませんっ【光魔法】は有るんですが回復のイメージが下手なのか、ま、毎回MP枯渇させちゃうんで使ってなくて……っ」
「あ、【呪術】で真似事はできるよー、だから誰か守ってー」
「オッケー、じゃあ俺の虫は安全地帯の確保に動くわ。入りたい人は自分で中に入って来て」
「はーい」
「わかったわ」
「肝心の結晶の捜索は射手に任せて良いか!?」
「……まぁ、この内訳ならそうなりますよね。了解です」
「やり方もお任せでいいよね。他の面子も、基本は好きに動いた方がやりやすいっしょ?」
「うむ!」
「味方の位置には気を付けましょう」
「は、はい!」
俺が結晶担当か……まずどこにあるのか探す所からだな。
幸い、他の面子が派手に暴れる役が多そうだから、【隠密】と【闇魔法】使って隠れながら行くか。
奈落制圧戦、開始する。