キ:よくある名前の悩みと、初めての占い
──《ラージスネイク・リベンジの討伐数が規定値に到達しました》
──《キークエスト『緑の蛇精霊』をクリアしました》
──《各地の精霊郷への入場が開放されました》
あ、もうクリアしたんだ? 早かったねぇ。
皆どれだけ精霊楽しみだったんだろ。
そんな感想を抱いている僕は、まだ異次元拠点メンバーでのお茶会の会場にいます。
同盟はね、組むことになって詳細も詰めたんだけど……ちょっとした問題が持ち上がっちゃって。
それは……ここにいる全員が同盟の前準備として個人(夫婦)クランを作らないといけなくて……クラン名を考えないといけないってこと。
「……ああああああー! そんなすぐ思いつくかよー!」
「完全に失念してたわぁ……」
「ク、クラン……クラン名…………えーっと……えーっと……」
「……………………」
いやぁ、思わぬ伏兵だったね!
現在、相棒を含めた四名が頭を抱えている真っ最中。
主催側も気付いてなかったみたいで一緒に悩んでるのちょっと面白い。
なお、どうして僕がそれに該当しないかというと……
「何にするー?」
「……相棒は何がいい?」
「僕に任せると、とてつもない厨二病系か『パンプキン犬』かの二択になるけどいい?」
「わかった、ちょっと静かにしてて」
このように戦力外通告を受けたのでのんびり林檎を齧っている所。知恵の林檎うめぇ。ちょっとネビュラに『人の子よくわからぬ』って顔で見られたけどね!
そして残りの二人、ド根性ブラザーさんとカステラソムリエさんは、早々に決めて悩みの円卓から離脱している。
「カステラソムリエさんは何にしたの?」
「カステラでいいよ。適当に『ザラメテイスト』」
「美味しそうだな!」
「ザラメ良いよね」
「ド根性ブラザーさんは?」
「『熱血ド根性』だ!」
「わぁお」
「直球にも程がある」
悩める四人を眺めながら、のんびりとリンゴを1個分完食。
──『スカーレットポイズンフラワーは、花弁を毒ガスで膨らませて飛ぶ』
「……マジで?」
「どうかした?」
「『スカーレットポイズンフラワーは、花弁を毒ガスで膨らませて飛ぶ』んだって」
「……それ、例のリンゴのTips?」
「そう」
「整いましたー!」
雑談していると、夾竹桃さんが拳を突き上げて雄叫びを上げた。
「『呪いの毒花』にしよー」
「あ、今のTipsから引っ張ったな?」
「うん。ナイスタイミングありがとねー」
なんか知らないけどお礼言われた。
それを見ていたアルネブさんとラウラさんが悔しそうな顔をする。
「な、なるほどその手が……」
「……美味しいわね、この林檎」
「あっ、アルちゃんもう食べてるっ……い、いただきます」
ゆっくりお食べ、丸一個ってそれなりに多いから。
そうやって皆で林檎をモグモグしていると、相棒が顔を上げた。
「……『ドリームキャッチャー』にしよう」
「オッケー」
イイね、蜘蛛の巣っぽい夢のお守り。
ちょうど蜘蛛のマリーも来たし、夢と死が関わってるから僕らっぽい。
さすが相棒。
「そこの夫婦はなんだかんだ安定しているな!」
「あっ、あっ、取り残されちゃう……あ、アルちゃん、どーしよ……」
「私は『月巡りの夜空』にするわ。ありがとう知恵の林檎……」
「あっ、あーっ!」
「取り残されたな」
「Tipsが気になるー」
ウンウン唸るラウラちゃんをそっとしておく事にして。
アルネブさんはベルベットのクロスがかかった小さなテーブルを取り出して、上に宝石みたいな綺麗な石を数個コロコロと転がした。
「せっかく面白い林檎に助けて貰ったし、待つ間、お返しに皆さん占いでもいかがかしら?」
「占い?」
「ああ、職業にフォーチュンって入ってるねそういえば」
装備も占い師っぽいもんね。
「エフォの占いってどんな感じのモノー?」
「主にクエストのヒントが出るモノ、かしらね」
進行形のクエストのヒントの場合もあれば、新しいクエストのヒントが出る場合もあるらしい。
「時々スキル運用のヒントが出る場合もあるわ」
「へぇー」
ただし自分を占う事はできない。
アルネブさんとラウラさんは、一緒に覚えてお互いを占いあって特殊なマップのクエストのヒントを出していたらしい。
そして占われた側は、次に占ってもらえるようになるまでクールタイムがリアル一週間くらい必要なんだって。
「結構長いね? 知恵の林檎は食べ放題オッケーなのに」
「Tipsは内容が雑学で完全ランダムだからでは?」
「占いは個人に合わせて具体的な指針が出るようだからな! 有用性は占いが上だろう!」
どうせ今日はクラン名決めて個人(夫婦)クランと同盟を作る所までで終了して、奈落攻略は明日って事になったし。
せっかくだから、全員占って貰うことにした。
「【占術】スキルを使うと導きの文言が私のシステムに出るから、それをそれっぽく読み上げるって感じよ。だからわかりにくいと思うけど、許してちょうだい」
「オッケー」
トップバッターはリンゴを持ち込んだ僕。
「じゃあ、始めるわね」
シャラン、とアルネブさんの手から零れるように吊り下げられたのは、夜空みたいに綺麗なペンデュラム。
それをテーブルの上に垂らして
「【フォーチュンクリエイト】」
唱えると、転がっていた宝石がほんのり光って浮かび、星みたいに円を描いて動き始めた。
ペンデュラムはその上をゆらんゆらんと彷徨い……ゆっくりと止まった宝石のひとつをピタリまっすぐに指し示す。
「……『求める者あり。深き夢より西へ3、北へ1。名も無き墓標』……ですって」
「メモとっていい?」
「待ってね、システムから書き写すわ」
内容はふわっとしてて謎解きみたい。これは後でゆっくり考えよう。
いいなー、これ僕もやりたいなぁ。魔女って占いが得意な物じゃん?
「はいどうぞ」
「ありがとう。……【占術】って僕も覚えられるかな?」
「ふふふ、貴女はそう言うと思って用意しておいたわ……はい」
「え、占いの本だ! いいの?」
「フリーマーケットの時から趣味が合う気がしてたのよね……買った箒、お気に入りなのよ」
なんとなんと、アルネブさんはフリーマーケットの僕のお店で箒を買ってくれた人の一人だったんだって!
素敵な箒のお礼にって、僕達限定のランプ屋さんを開いてくれていたんだとか。
嬉しいなぁ、帰ったら読もうっと。
「この二人、全力でファンタジー楽しんでるねー」
「負けじとこちらも楽しめば良いのだ!」
そうそう、ゲームなんだからね。楽しんだもの勝ちだよ。
さて、次に占ってもらうのは相棒の番。
「【占術】とは石と振り子を使う物なのか!?」
「いいえ、割と何でも良いみたいよ。カードでも水晶玉でも……他の魔法と同じ、使用者がイメージすれば形になるわ」
「私はコレが好きなだけ」って言いながら、二回目の占い。
「……あら、また待ち人系ね。『求める者あり。絆の卵。始まりの点にて再会を望む』。始まりの点っていうのはピリオノートの事よ。何度か出て来てるから間違いないわ」
「……どーも」
例によって口数が激減して敬語まで顔を出している相棒が、お礼を言ってメモを受け取る。
「……これって、急いだ方がいい感じですか?」
「どうかしら……私達はさっさと動いていたし、ピリオの街角で占ってた時はお客さんの結果まではわからなかったから」
相棒の問いに、アルネブさんも首を傾げる。
「ま、有効期限はありそうだよね。このゲームのNPCは普通に生活してるから、いつまでも同じ場所で待っててくれないっしょ」
それはそう。
カステラさんの指摘に、相棒も納得して頷きメモをしまった。