ユ:そして天使の言うことには
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自己紹介は、申し訳なくも俺達の奈落送りが思いがけず致命的になっていた夾竹桃さんの嘆きを終えて、いよいよトリとなる主催の天使。
緊張をほぐすためか、大きく深呼吸をしてから装備を切り替えた。
まぁ闘技場の前で見た時と同じ姿だ。
亜麻色のロングヘアに頭の上の光の輪、背中には灰色の翼。
近接系なのか、装備は剣を二振り腰に吊って、白い服の他は胸周りと腰回りだけ金属鎧がついている。
「……名前は『ラウラ・アステロイド』となります。ラウラと呼んでください」
ラウラさんは、カンペ片手に話し始めた。
……巻物みたいに長いカンペなんだが、かなりの量の文章が添削で消されているのがチラ見えしている。
もしかしてアルネブさんが添削したんだろうか。
だったらどうして招待状は添削しなかっ……まさかアレで添削済みだった?
「元の種族は人魚でしたが、とあるイベントで天使になりました。職業は特殊職と思われる『ゲートキーパー』。登録開拓地は、本日皆様にお越しいただきました『神域の前庭』の『豊穣花壇』にある『麦野原』となります」
「……なかなか重要そうな単語がゴロゴロ出て来たねー?」
「ド根性さんもそうだけどー、種族ってそんなホイホイ変わるものー?」
「ねーよ、聞いたことないって!」
「うむ! いずれメインストーリーにも関わりそうな気がするな!」
『神域の前庭』って事は、素直に考えるならここから神域に繋がっているって事になる。
この世界の神は『生誕』を司る神って話だから、神域にその神がいるってことなんだろうか。
「ここにやってきて拠点を構え襲撃を退けつつ建築などしていましたら、何故かNPCの天使様に気に入られたようで……色々クエストをこなしたら天使となり、ここを守る使命を与えられてゲートキーパーになり、という流れだったのですが……それ自体は大いに楽しんでいたのですが、ひとつ問題がありまして……」
ラウラは羽をしょぼんとさせながら項垂れた。
「私……タワーディフェンスものすごく下手なんです……」
「あー……」
「それは……うん」
つまり襲撃の対処に自信が無いのか。
よりにもよって、後々メインストーリーにも関わりそうなこの開拓地で。
「わ、私のゲームの基本スタイルって、『レベルを上げて物理で殴る』なんですよ……」
「あっ、脳筋だ」
「数を御用意されたら、もっとたくさんの数と暴力を御用意すればいいかなーとしか思いつかなくて……」
「これはシンプルな脳筋」
「遠距離から撃たれたら、殴って相殺してから殴り返しに行くのがセオリーだと思っていた時期もあり……」
「なんという脳筋」
「なのであっちの方向からもこっちの方向からも来られると……死なば諸共で自爆したくなるんです……」
「これはひどい」
うん……実に向いてないな。
「そ、そういうわけで……そろそろ防衛が辛くなってきたんですが、かといってこの次元はNPCの傭兵も呼べませんし……でも他のプレイヤーに大勢出入りされるのもちょっと……」
「……まぁ、いずれそうなるかもしれないけれど、まだゲーム的には序盤も序盤じゃない? だから今回のお茶会はね、同盟とかどうかしら? っていう提案をしたかったのよ」
あわあわし始めたラウラさんを見かねて、アルネブさんがフォローに入る。
せっかくの特殊マップ。
いずれは他プレイヤーに公開する必要があるのかもしれないが、まだ早い。もうしばらく秘匿状態を楽しみたい。
だから同じように秘匿を楽しみたい特殊マップの入植者同士で、戦闘のフォローをし合う同盟を組まないか? という話だった。
「私もそろそろ襲撃対策で資産を抑えるの面倒になってきたのよね」
「あ、それはわかる」
「うむ! 街の発展は資産の上昇と同義だからな!」
「ゲームの中でくらい贅沢したいよねー」
うんうんと一同頷き合う。
わかっていない顔をしているのは夾竹桃さんだけだが、特に異論は無いようだった。
「でも……」と首を傾げたのはカステラソムリエさんだ。
「クランじゃなくて、同盟なんだ?」
「ええ。だってクランって集団で遊ぶのに便利な機能がたくさんあるから……煩わしいでしょう?」
まぁそれはそう。
全員がそれに頷いて肯定するあたり集まったメンバーのマイペース加減が透けて見える。
「調べてみたら、その点、同盟なら救援要請と専用チャットだけでちょうど良さそうだったのよ。誰がリーダーで誰がサブでみたいな序列機能も無いし」
「あー、序列はね……あると確かにめんどくさい」
「上も下も無いというのはいいな!」
「空気読めずにリーダー面する奴が出たらどーするー?」
「そ、その時はパーッと解散しましょう」
「潔い」
割と良いんじゃないか、そんな雰囲気になりつつあった。
すると、力強く頷いていたド根性ブラザーさんが、「では!」とひとつ膝を叩く。
「憂いは先に晴らしておく方がスッキリするぞ! 各自、心配事や気になる事を上げるとしよう!」
「なるほど? じゃあ俺から」
提案に最初に挙手したのはカステラソムリエさん。
「襲撃対策って事は、このメンバー間でだけはお互いの拠点を転移登録するって事であってる?」
「ええ、あってるわ。でも基本的に有事以外の出入りは無しにしましょう? みんな勝手に出入りされるの嫌でしょう?」
それはそう。
一同、一斉に頷いた。
次に挙手したのはド根性ブラザーさんだ。
「商取引はどうする! 各々手持ちは珍品ばかりだろうからな! 先にルールを決めておいた方がいいだろう!」
「そうね……みんな売り買いしたい?」
今度は一同首を傾げた。
「別にー?」
「職業商人でもないし」
「金策も調達も伝手は自前であるぞ!」
「わ、私も特には……あ、でも今日のお土産のお礼とかはしたいかもです……」
「売り買いは基本無しで、おすそ分けまでにしたら? ねだるのは禁止」
相棒の提案で物のやりとりはそういう事に決まる。
次に挙手したのは夾竹桃さん。
「さっきちょうどいいって言ってたから、奈落のお片付けも手伝ってくれる感じですかー?」
「もちろんよ。襲撃に関わらず、戦力の協力って私は考えてるわ」
「つまりダンジョンやボスもだな!?」
「ええ、今回のイベントもテイマー以外のソロ討伐は難しいみたいじゃない? そういう時に組むのは有りじゃないかしら」
「なるほどね。そういう場合は、同盟外の人を混ぜないってルールをつけといた方がいいかも」
「そうね。それに、協力はもちろん強制じゃないわ。各々都合はあるだろうから」
「緊急以外は当然あらかじめ予定を合わせる方がいいだろう!」
救援関係の事がまとまれば、この同盟はほぼ決まりだろう。
そこに恐る恐る手を上げたのは、意外にもラウラさんだった。
「あ、あの……わ、私、たぶんチャットとかで面白いこと言えないと思います……」
「いやこのメンバーは同盟に会話期待してないでしょー」
「そうね、おしゃべりしたいなら待ち合わせに声変わりシロップ持ってきてるわよね」
「そもそも夫婦以外はボッチ上等じゃん? 寂しいならそれこそ大手クランにさっさと入ってるって」
「一人黙々と開拓するのが好きなものでな!」
どうもボッチじゃない夫婦です。
ドヤ顔が出ていたのか、夾竹桃さんと目が合うと「キョェエーッ!」っと威嚇された。なんだその鳴き声。