キ:ドールハウスとフッシーの新たな能力
新入りのローズマリーちゃんは実に都合よくと言うか、求めていたモノを通り越して希望以上の逸材が来てしまったので、僕らは早速住環境を整える事にした。
お家は裁縫の作業場と一緒になっている物を作る。
兄弟のお家と同じように、コンテナハウスをベースに木を生やして二階を作る。
うん、家の統一感が良い感じ。
「食い扶持増えたし、少し畑広げておくわ」
「よろしくー」
人形のマリーは、装備を体にしたジャックやデューとはまた違った体質をしていた。
食事と睡眠が必要なのは同じなんだけど、着替えが出来る。
まぁ人形だからね、着せ替えはしたいよね。
ただそのかわり、人形はスキルレベルこそ上がるけど、メインのレベルとステータスが上がらない。
どうも人形を強くしたかったら、体のパーツをもっと良い出来の物に交換しないといけないらしい。ロボットゲームとかで見る仕様だね。
自由度が高い代わりに主人への依存度が高いのが人形ってことかな。
相棒が食料用の畑を広げてくれる間に、僕は内装を整える。
体の大きさに合わせて作ったベッドが小さくてめっちゃ可愛い。
家具もマリーのサイズに合わせてるから小人のお家に入り込んだ気分になるよ。最高かな?
「生活スペースはこんなもんかな」
一応キッチンも作ったけど、家主が使う事はあるかなぁ?
料理の腕を徐々に上げてるジャックはお供え含めた皆のご飯もまとめて作ってたから、そこにマリーの分も加わる予定。最近はデューも手伝ってたらしいからなんとかなるでしょ。
次はマリーの作業場。
作業台と椅子、糸車に織り機、刺繍枠とトルソー。【木工】のテンプレートにある道具達を、マリー用のサイズで作る。あ、なんだ編み針もテンプレにあるじゃん。作っておこうねぇ〜。
あー、全部小さい。めっちゃ可愛い。
ドールハウスとかミニチュアってほどじゃないんだけど、小さい家具って良いよね……なんでこんなに可愛く見えるんだろう?
実際に人形が住んで使って暮らすんだから、ロマンの塊よ。ここがメルヘンだ。
作業部屋の一角に設けた素材置き場に、布とか糸とかの使える素材をまとめて置いておく。好きな物作りなー。
マリーにはメインのお仕事はジャックの服の修理とは伝えてある。
「つまり、【裁縫】スキルは出来るだけ高い方が望ましいですね!?」
ってフンスフンスしてたから、まぁ大丈夫でしょう。
やる気があるのは良い事。
知る者は好む者に及ばす、好む者は楽しむ者に及ばない、ってね。
「終わった?」
「終わったー」
お家ができたので、同じく畑を一段落させた相棒と合流。
「あとはちゃんとご飯食べてくれれば言う事無しなんだけどね!」
「それはまぁ……そうだね?」
「何その歯切れの悪さは」
「いや……」
相棒は苦笑いして言った。
「ご飯が雑になりがちなのは、似た者同士が引き寄せられたのか、主ナイズなのかどっちかなーって」
「……ちょっと何言ってるかわかりませんねぇ?」
独身時代の僕は全然食事に興味なくてうどんばっかり食べてた事は忘れるんだ!
* * *
さて、ぼちぼち日が傾いてまいりました。
明日も休みだから慌てて落ちなくても大丈夫。
ジャックもデューもマリーも自分の家に入って、拠点は一気に静かになった。
「で、まだ落ちないの?」
「うん、ちょっとやってみたい事があって」
相棒に答えながら、僕は自分の杖を取り出した。
太くて長い枝に籠をぶら下げたシンプルな杖。これもある意味、イイ感じの枝だったねぇ。
これに、細い枝を何本も束ねて……籠の逆側を箒にします。
「箒が好きなら箒に籠ついてれば問題ないと思って」
「まぁ確かに?」
「そしてこれに、さらに籠をつけます」
「ほう?」
今度は先端じゃなく、箒のフサフサの根元あたりに、手のひらサイズの小さい籠を結びつける。
「ここで実験です」
「何の?」
「フッシー! 仕事の時間だ!」
「おお、久しいなその文言」
フッシーの籠の前で、僕は箒をフッシーに見せた。
「いいかいフッシー、魔女は箒で飛ぶものです」
「ほう」
「僕はイイ感じに森に住んでる魔法使いだし、魔女って付いてる称号も貰ったし、魔女です」
「ふむ、異論はないぞ」
「だからフッシーで飛ぼうと思います」
「……うん?」
ピンときてないフッシーに僕は説明する。
「オバケって何かに入れたら、入れられた物に宿りつつ力を使ってくれるでしょ?」
「うむ、そうだな」
「フッシーは飛べるね?」
「うむ、不死鳥故」
「つまりフッシーが杖に入ったら杖で飛べるはずだ!」
「おおー! なるほど!!」
納得したフッシー。
怪訝な顔をする相棒。
「そうはならんやろ」
「なっとるやろがいになるかもしれないじゃん! ってわけで実験だ! フッシーカモン!」
「あいわかった!」
フッシーが杖に追加した籠に入る。
その状態で、僕は箒にまたがった。
「ゆくぞ主よ!」
「来いやぁ!」
苦笑いしている相棒に見守られながら、実験開始。
フッシーが気合を入れて「ふんぬっ!!」と叫ぶと、箒のフサフサの付け根からバサァッと半透明の翼が広がった!
翼が羽ばたく。
浮力を感じる……と思ったら足がもう地面から離れていた。
箒で飛ぶというよりこれは……翼を広げた巨大な白鳥の首にまたがってるイメージだ!
「やった……! フッシー飛んでる! 相棒! 僕飛んでるよね!?」
「マジかー、飛んでるよー」
魔法の時と一緒、イメージするとフッシー入りの箒は思い通りに動いた。
空を飛ぶ夢を見てる時に似てる。
鳥系獣人さんとかもこんな気分なのかもね。
「うむ、やれば出来るものだな」
「フッシー最高!」
「ハッハッハ! 我、光だの火だのの魔法は使えぬが、こと飛ぶ事に関しては旅好きが高じて大得意ぞ! もう一人くらいならば余裕で乗せられるわ!」
じゃあ相棒と二人乗りで空のデートもできるわけですね!?
最高じゃんすか!
「フッシーすごーい!」
「うむ、我すごいのだ! 役に立てるのだぞ!」
「だね! お留守番ばっかりじゃなくて、あちこち連れて行くからね!」
「なんのなんの! 我が主らをあちらこちらへ連れて行くのだ!」
そんな風に浮かれていた時だった。
「……だが主よ、あくまで我は主の使役する霊なのでな」
「うん、そうだね?」
「召喚と違い、主の箒に入った状態で力を行使しておる故……主のMPが無ければ飛べぬぞ」
「エッ」
僕は慌てて自分のMPを確認する。
……そこには、結構な速さでカウントダウンされていくMPゲージの姿が!!
「アババババッ!」
「あ、主! バランスを崩すでない! オアッ!?」
慌てすぎてうっかり落ちた僕は、下で見守っていた相棒に助けられて、めちゃくちゃ頭をワシャワシャされたのだった。




