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ユ:一日目の仕上げ


【土魔法】を使うと、畑の耕しは一瞬で終わった。一瞬すぎてスキルレベルすら上がらなかった。


 ……あんまり早く終わったから、ちょっと鍬で掘り返して深い所までちゃんと鋤かれてるか確かめたくらいだ。何も問題無かったけど。


「いやぁ実に良い仕事よ。精が出るなご主人!」

「精を出す前に終わった気がするが?」


 何もしてないのに一汗かいた雰囲気のフッシーを聞き流す。


「ああ、そうだフッシー。俺、壁の周りに罠置いてくるわ。相棒戻ってきたら言っといてくれる?」

「おお! それは良いな。任されよう」


 忘れてた。

 せっかく【罠】スキルを持ってるのに、防衛で使わないのはあまりにももったいない。


 二重扉をくぐって外に出る。

 ……一応変な物音がしないか確認したけど、覗き穴を付けた方がいいかもな。



 ──【感知】スキル取得



 お、やっと取ったな。

 キャラクリのスキル選択で迷って、有志wiki曰く『注意していればすぐに取得できる』って話だったから切ってた【感知】だ。

 これで森歩きも襲撃も少し難易度が下がるだろう。


 さて、それはそれとして罠だ。

 壁の外側をぐるっと巡りながら、良さそうな所に罠を張る。


 大き目のモンスターが来た時に備えて、【土魔法】で穴を開けて枝や葉を素材にした【罠】で隠す。落とし穴をいくつか仕込んでおいた。

 穴の中には大き目の枝で棘も作ってある。


 あとはウサギ罠を少し。

 小動物には効果があるかもしれない。


 ……まずはこれで様子見か?


 襲撃は、拠点の開発が有る程度進むか、そこそこの時間が経過するかしないと始まらないって話だ。あるいは住人のレベルが高くなるか。その辺の条件ははっきりと解明されていない。

 野良モンスターが入ってこれなくはなったから、これで拠点を留守にしてレベル上げをしに行ける。


 ……そもそも俺達の拠点はどういう発展のさせ方をするのか。


 そこを相棒と相談しないと、防衛の仕方も固まらないな。

 うん、一回戻ろう。


 壁の中に戻った。


「お疲れだご主人。主は戻っておらぬぞ」

「そっか」


 それなら【伐採】でも取るか。

 壁の中にも数本木は残ってる。それを切ろう。


 斧を取り出して、木の幹に叩きつける。

 ……ゲームでもそこそこ重労働だな。リアルでやったら腰が逝きそう。


 なんとか三本切り倒すと、【伐採】のスキルを取得した。

 他のスキルに比べて条件重くないか? ……いや、これさえ取ればワンパンで切り倒せるんだから安いもんか。


 そこでちょうどキーナが戻ってきた。


「ただいまー」

「おかえり。良いのあった?」

「あったあった!」


 どれどれ……ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、キャベツ、トマト、カボチャ、ひよこ豆。あとは薬草と、リンゴの苗か。


「カボチャはランタン用?」

「よくわかったね?」


 そりゃわかるよ。ジャックオランタン大好きじゃん。


 二人で手分けして種を少しずつ植えていく。

 全部育つとは限らない。ここの環境が普通じゃなさそうだから。まずはお試しだ。


「このゲームって、作物どのくらいで育つんだろ?」

「早いので一週間くらい。遅いのは三週間くらい」

「意外と長い?」

「いや、ゲーム内時間がリアルの三倍なら普通」

「あー、そっか。平日の日中に仕事だの学校だので入れない間でゲーム内は三日くらい経っちゃうのか」

「そういうこと」


 一通り植え終わったところで、俺も相棒も【栽培】を取得した。


【栽培】【採取】【採掘】は【伐採】のようにアクティブで使うスキルじゃない。

 パッシブスキルで、高レベルになるほど手を加えた対象の品質が上がるというものだ。

 だから早い内に覚えておくとお得だな。


 最後に林檎の苗木を畑から少し離れた場所に植える。


「完成~」

「畑だな」


 明日には芽が出てたりするのかね。


 畔で一息ついていると……運営の通知がピコンと鳴った。


「なんぞ?」

「……『公式動画がアップされました』だって」


 公式動画?

 広告用動画でも作ったか?


 ゲーム内にいたまま通知から閲覧できるようなので開いてみる。相棒も隣に寄ってきた。



 ムービースタート。


「……あ、パレードだ」


 動画に映ったのは、例のお偉いさん到着パレードの映像だ。

 馬に乗った三人の要人が、周囲の人々に手を振っている。

 喧騒のボリュームが少し落とされて、パレードを見ている誰かの会話がメインに聞こえてきた。


『青い髪の殿方が魔法師団長のサフィーラ様よ』

『相変わらず知的で素敵なお方ね』


『アリリアちゃん、戻ってきたのか。立派な聖女様になってまぁ……』

『あの金髪の子かい? 元は孤児だったんだっけ。こんな開拓地に孤児院なんてどうかと思うがね』

『なぁに、本国よりは物資が多いから楽に食わせてやれるって話だぜ。冒険者達も良くしてくれて、その手助けもあってアリリアちゃんも聖女に覚醒したって話だ』


『ラッセルー!』

『ラッセル騎士団長ー!』

『我らが副団長様もとうとう騎士団長かぁ』

『いつだって前線で俺らを引っ張ってくれたのはあの人だ。この開拓地の騎士団長はあの人じゃなきゃ務まらねぇよ!』


 それぞれの会話と一緒に、NPCがアップに映る。


「……偉い人の紹介ムービーなのかな?」

「どうかな? この後にメインディッシュあるし」

「ヤメロォ! あれはメインじゃない! サラダだ!」

「現実から目をそらすんじゃない」


 はいメインディッシュのお時間です。


 ザッとパレードの前に飛び出してくる葉っぱの塊。……よし、俺は映ってないな。


「……めっちゃ葉っぱじゃん!」

「そうだが?」

「こんな風に見えてたんだ……」


 戸惑う人々。

 槍を構える兵士。

 少し険しい表情になるトップ3。


 一瞬、画面に大写しになったのは、葉っぱの隙間から覗く相棒の燃えるような瞳。


「ァギャアアアア!!」

「かぁっこいい~」


 唐突に前面に押し出されて相棒が悶える。

 まぁ、瞳のドアップだから身バレはしないだろ。同じような色なんていっぱいいるだろうし。


 相棒が差し出す杖。

 その先端の鳥籠が揺れる。


『ようこそ人の子よ』


 アップに映されたフッシーが語る。

 世界の危機。


『ここに、我ら開拓の徒はこの世界の滅びを討ち果たし、命溢れる世を作る事を宣言する!』


 騎士団長の剣が高く掲げられ、それを見上げて歓声に包まれながら……動画は終わった。



「……いやぁ、カッコイイ動画だったね!」

「ソーデスネ! 僕が映ってなければ完璧だったよ!」

「言うて、相棒がああやって動いたから出来たムービーだと思うよ?」


 公式がいそいそとこんな格好いい編集して公式動画と銘打つくらいには、良いRPだったって事だろう。

 NPCを演じるって目的は、大成功でいいんじゃないか?


「それは嬉しいけど……」

「けど?」

「恥ずかしく感じるのはどうしようもない!」

「それはしょうがないな」


 それはどうしようもない。

 諦めるしかないんだ。


 ジタバタする相棒としばしじゃれ合う内に、いつの間にか日が傾いている事に気付く。


 空は夕焼け。

 そろそろ日が暮れるし、リアルでもぼちぼち就寝時間だ。


「今日はそろそろ落ちるか」

「は~い……」


 フッシーに挨拶をしてから俺達はログアウトした。



 * * *



「ん~面白かった!」

「そりゃよかった」

「雄夜は?」

「面白かったよ」


 寝る準備を終えて、二人でベッドに横になる。


「初日からずいぶん盛り沢山だったよね」

「それな」


 盛り沢山過ぎた気がするな?

 特にワールドクエストとパレード特攻。そして動画化。

 RPGのプロローグとしては完璧だったけど、MMOの初日にやるようなイベントじゃないだろ。


 まぁいい。もう過ぎた事だ。

 今後何があるにしたって、しばらくは開拓に力を入れられるだろう。


「真紀奈は拠点どんな風にするつもり?」

「ん~? え~っとねぇ~……」


 あ、もうウトウトし始めてるな。

 真紀奈は横になって腕の中に抱き込むとすぐ寝るんだ。本人曰く、居心地が良いらしい。


「普通の家はねぇ、まだあんまり建てたくないなぁって……」

「そうなの?」

「ん。ネクロマンス、だから。フッシーみたいなの、増やしたい……」


 なるほど、オバケか。

 ハロウィンがいいんだもんな。


「あとね……犬小屋、作る……」

「犬小屋?」

「ん……犬来るかなって……………………」


 ……寝たな。


 そっか、犬か。

 俺が犬好きだからだろうな。真紀奈は猫派だから。


「おやすみ」

「……ぃ」


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― 新着の感想 ―
一日目は夫は割と普通で妻が色々凄かったですねぇ 今後夫もすごくなっていくのか、それとも夫は堅実に強くなり妻は色々凄くなっていくのか ここまで読んだ感想は...とても面白い! 最新話までレッツゴー
[一言] 今日から読み始めました。地の文が二人を行き来するせいで一人称と二人称と口調と所持スキルがまだ一致しないけど楽しんで読んでます。
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