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ユ:精霊達の思惑

ちょっと長くなりました。


 ログインしました。


 休日だけど、どうせ午前中にログインしてもゲーム内では真夜中だからな。

 午前中は色々用事を片付けて、昼食を摂ってからのログインにした。


 お茶会の予定は土曜日の夜で今日は木曜日。日数的にも余裕はある。

 だから俺達は前回同様、魔術師団長から来ているクエストをさっさとこなす事にした。


「ジャックとデューはどうするー? お城に一緒に入れるかはわからないけど」

「ン-、それなら今日は森で戦ってクルー」

「お気をつけて行ってらっしゃいマセ」

「はーい」


 ……この二人、ガルガンチュアさんのクランと訓練してから若干戦闘狂に傾いた気がするのは気のせいか?



 * * *



 変装姿でやって来るのにもだんだん慣れてきたピリオノートの城。

 今回は詳細不明の呼び出しだったから、正面入口で書簡を見せて兵士に案内されて中に入る。

 御指名通り連れてきたネビュラに向けられるもふもふ好き達の視線に内心でわかるわかると同意しながら、俺達は応接室的な部屋に通された。


「しばしお待ちを」


 カラスの時の部屋とは違う、品の良い調度品が置かれたお客向けの部屋だ。……あの時いかに警戒されていたかがわかる。


 出されたお茶を飲んでまったりしていると、魔術師団長がやってきた。


「待たせたな」


 ……魔術師団長、若干目の下に隈が。


「お疲れですか? 僕らは日を改めても大丈夫ですけど……」

「いや、仕事を後回しにするのは性に合わん。愛用の香を切らしているだけだ」

「お香?」

「冒険者を兼業しているメイドが手に入れた微睡(まどろみ)の木とかいう木で作られた香だったのだがな……木材自体は冒険者の間で少量流通しているが高くて手が……」


 魔術師団長の目線が、相棒の持っている微睡(まどろみ)の木を使った杖の上でピタリと止まった。


 俺と相棒はお互い視線を合わせると……インベントリから自分達用に少量とってあった微睡(まどろみ)の木を取り出してそっと机に載せた。


「……これもお前たちか」

「作り方書きます?」

「頼む……お前たちは何か? 私専用の幸運の天使か何かか?」

「そんな高尚な存在になった覚えはありませんねぇ」


 でも何故か魔術師団長の好感度だけゴリゴリ上がってる気はするんだよな。




 香の作り方を書いた紙と微睡(まどろみ)の木を渡して、ようやく俺達は本題に入った。


「今回頼みたいのはな、この世界の精霊と交渉する足掛かりを掴む協力をしてもらいたいのだ」


 魔術師団長が言ったのはそんな言葉だった。

『交渉をする』じゃなく『交渉する足掛かりを掴む』なのか。


「説明をする前に、見てもらった方が早いだろう。移動するぞ」


 そう言うと、魔術師団長は数人の兵士を護衛に指名しながら俺達を手招きする。

 着いて行くと、そのまま魔術師団長は歩みを進めて、城の外に出てしまった。中庭じゃない、市街地の方向だ。


 開拓のトップ3の内の一人が護衛付きで民族風の格好をしてる怪しい俺達を連れて街を歩く。


 ……目立つよなぁ。

 プレイヤーが何人かガン見してきてる。

 ただ、こうやってそれっぽい恰好をしていれば、新規の初心者には俺達はNPCに見えているかもしれない。スレとかでどうせバレるかもしれないけどな。



 歩いて辿り着いたのは、いつだったか街の散策をした時に唯一正体がわからなかった尖塔だった。


 魔術師団長が鍵を開けて中に入ると、周囲のプレイヤーがざわつく。

 開かずの間が開いたんだから当然と言えば当然だな。


 護衛を数人見張りとして残し、全員が入ったら扉は閉じられた。


 薄暗い尖塔の内部。

 高さはそこそこある塔で螺旋階段が上に伸びているが……魔術師団長が壁の何かを操作すると、地下への階段が現れた。


「下りるぞ」


 上はブラフか。

 壁に嵌め込まれた石が光るのを頼りに、俺達は階段を下る。



 ……建物3,4階分は余裕で超えたくらいの長さを下りた頃、石で綺麗に整えられた広い部屋に出た。


 部屋には台座のような物が四つ。

 俺達全員が部屋に入ると、その台座の上が光って……半透明の大きな生き物が一体ずつ現れた。


 炎を纏いながら現れたのは、獅子。

 風と稲光の渦から現れたのは、鳥。

 水と氷を滴らせているのは、亀。

 隆起する石と結晶に座るのは、虫。


 生き物は俺達を……そしてネビュラを見ると満足気に頷いた。

 ホッと息を吐いた鳥と亀が口を開く。


「サフィーラ、ついに連れてきたか」

「これでようやく話が進む」


 ネビュラがそれを見て、目を細めて言う。


「ほう、精霊か……それもこの世界のモノではないな?」


 問いを聞いた魔術師団長は、振り返ってこくりと頷いた。


「その通り。ここにいるのは我らが本国より連れてきた精霊の分け身だ。……こちらの世界から見れば、異世界の精霊という事になる」


 魔術師団長が言うには。

 異世界との道が繋がった時、万が一人が住めない環境だった場合に備えて、先遣隊を保護する為に精霊の分け身を連れてきていたらしい。


(宇宙服かな?)

(どっちかと言うと、宇宙船かな)


 俺達が俺達なりの噛み砕き方で納得していると、その精霊達が自ら説明しようと口を開いた。


「大地も大気も水も、人の子が住まうのに支障は無し」

「しかし、この世界に降り立った我らに降り注いだのは無数の視線であった」

「『無数の同等の存在に値踏みされている』そうとしか言えぬ。何を言うでもなく、ただただ観察されている」

「あまりにも多勢に無勢。故に我々は大きく動く事をせず、人の子らを最低限守るに留めた」


 そして獅子がネビュラを見て言う。


「死の精霊の分け身とお見受けする」

「……いかにも」

「ふむ、こちらの世界の死精霊は狼の姿をしているのだな」


 ネビュラは不思議そうに首を傾げた。


「余は確かに狼精霊だが……他の死精霊はその限りではないが?」

「何!?」

「同属性の精霊が複数おるのか!?」


 驚く精霊達に、ネビュラは呆れた声で説明をした。


「……よもや有限の世界は精霊が単一なのか? ここは無限に生まれ続ける生誕の神の世界ぞ。単一で管理など、手が回るはずがなかろうに。地平の数だけ精霊もおるわ」

「……それでか! この無数の目線は!」

「なんと……」

「余の知る死精霊だけでも10は余裕で超えておるぞ」


 ……台座にいる四体の精霊達は、なんだか疲れたようにガックリと項垂れた。


「なるほどな……いやてっきり我らの知らぬ概念精霊が山程おるのかと思っておったのよ」

「それなら話をしてこないというか……そもそも話が通じないのやもしれぬと……」

「そんな事は無いが?」

「ならば死精霊よ、何故この世界の精霊は我らの呼びかけに応えぬのだ?」

「我々は何か粗相をしてしまっただろうか?」


 ……どうも精霊は精霊なりに、この世界の先住民である精霊とコンタクトを取ろうとしていたらしい。

 先遣隊を守りながら、無言でガン見だけしてくる精霊っぽい気配に対して『うちの人の子ら良い子だから、どうかよろしく!』的な挨拶を必死にしていたようだ。

 でも、何の反応も返ってこなくて困っていた、と。


 そこに現れたのが、この世界の死の精霊と契約した俺。

 これはチャンスだとタイミングを計り、今日ここにネビュラを連れてきたわけだ。


 ネビュラは渋い顔をして、ちょっと目線を反らした。


「……余は基本的に縄張りで仕事をしておったからな。こっちの、表の奴らの考えなどいまいちわからんが……滅びの魔の手が迫っている今、都合よくやって来た人の子らが起死回生の一手となるか見定めようとしているのではないか? とは思う」


「しかし」とネビュラはさらに首を傾げた。


「しかしそれならば……先日使徒を退けた事で、足ると判断して良いと思うがな……なんだ……後に引けなくなっているだけではないか? あるいは誰が最初にやりとりをするかで揉めているか」


 最終的に出てきた予想はしょーもない感じの事だった。

 四精霊も「ええー……」って感じで閉口している。


「どれ、余から声をかけてみるか。普段表に出ない死精霊が吠えれば流石に反応するであろう」

「……よろしく頼む」


 ネビュラは溜息をひとつ吐くと、「アオオーーン!!」と大きく遠吠えをした。


 カッコいいな。実に良い声だ。


 ……そして遠吠えの余韻が消えた頃。

 どこからともなく、ここにいる誰のモノでもない声が響いた。



『……なんだまったく。生真面目な死の狼精霊が声を上げるとなれば、流石に反応せんとならぬではないか』


「ふむ……近いな。南の大森林か?」


 ネビュラが首を巡らせる。

 ()はクツクツと笑いを滲ませながら答えた。



『いかにも。妾は『緑の蛇精霊』なり。そろそろ人の子を迷わせる遊びも飽いてきた所よ』



 ネビュラが舌打ちをして顔を顰める。


「なるほど蛇精霊か……愉快犯が、距離の近さを理由に人の子らとの交渉役を買って出て、そのまま立場を利用して遊んでおったな?」


『アッハッハ! 妾の森で右往左往する姿は実に楽しませてもらったわ! とはいえ、そろそろ非難の声が増えてきたからのぉ……人の子ら、腕試しの時間じゃ』


 そして唐突に蛇の声に殺気が乗った。


『滅びに抗うと言うのならば、相応の力を示せ。さすれば妾が預かっておる他の精霊郷への扉を元通りにしてやろう』


「貴様、この人の子らは既に使徒を退けておる! 充分であろうが!」


『そうは言うても、そういう条件で預かっておるからのぉ? 妾にもどうにもならぬ事よ』


 ケタケタと笑う蛇は、最後に楽しそうに一声残し


『では、先だってそなたらと殺りあった眷属と共に、待っておるからな』


 そして世界に響き渡る、全プレイヤーに向けたアナウンス。



 ──《キークエスト『緑の蛇精霊』が開始されました》

 ──《このクエストをクリアすると、各地の精霊郷への入場が開放されます》




 そして蛇の声は聞こえなくなった。

 ネビュラはウンザリした様子を隠さずに言う。


「……うむ、表の奴ら、あの蛇精霊に嵌められたと見える」

「嵌め……」

「蛇精霊は頭が良いモノが多いのだが、如何せん快楽主義が多くてな……どれだけ真剣な状況であろうとも、こういう悪ふざけをやめんのだ」

「……つまり、ここへ来てからの我々の悩みは」

「……うむ、全部アヤツのせいよ。運が悪かったな」


 ネビュラに沈痛な面持ちで告げられて、四精霊はヘナヘナと台座の上に崩れ落ちた。

 悲しいね。

 そんな徒労感漂う空気の中、俺はネビュラに訊く。


「……蛇精霊って、そういう奴だって分かってるのに皆引っかかったの?」

「うむ、それが不思議とまかり通ってしまうのが蛇精霊よ」


 まるで詐欺師に対する評価なんだよなぁ。




 ──指名クエスト『精霊との対話』をクリアしました。



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― 新着の感想 ―
↓しっかり下処理しないと蛇はまずい種類多いからなぁ
蛇の蒲焼って美味しいのかぁ…昔おとんに素焼き食わされた時は生臭い骨煎餅って感じだったけどなぁ…あれ…何の蛇だったんだろ?(ー_ー;)
蛇の蒲焼って確か美味しかったよね?
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