ユ:戦闘に強いクラン、情報で殴る夫婦。
会って早々愉快なリアクションを見せてくれたガルガンチュアを微笑ましく思いながら、俺と相棒はアリーナの観客席に移動した。
一緒に訓練して遊ぶのはジャックとデューだからな。
俺達は付き添い。
たまにこっちを見上げてキャッキャするジャックとデューに手を振って応える。
「あーいうの見たことある、子どものプールの習い事とかで見学してる親」
「保護者かよ」
保護者だよ。
ガルガンチュアは一回戦闘始まるとヒャッハーなんだけど、一戦終わるとキッチリ真面目に動きを考察してジャックとデューに助言をくれていた。
テンションの上下がめちゃくちゃ激しいな。
情緒大丈夫か?
あっちのクランメンバーは慣れてるみたいで顔色一つ変えない。
ジャックとデューも最初は驚いてたみたいだが、あっという間に慣れていた。順応高いな。
また何回目かの斬り結びが始まる。
やっぱ上手い人に指導されると目に見えて動きが良くなるな。
ジャックは体の軽さを活かす動きが増えたし、デューはやる気が空回りしていたのがあっという間に落ち着いた。
そんな感じで見学していると、男が一人、俺達がいる観客席にやって来た。
見覚えがあるな……確かピリオ防衛で、蟻を溶岩の魔法で焼いてた魔法使い。
「今日はうちのボスに付き合ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、うちの子を鍛えてくださってありがとうございます」
子持ちの主婦同士みたいな挨拶が繰り広げられている。
ボルシチと名乗った男は「答えたくなかったらいいんですけど……」って前置きをして会話を続けた。
「ジャック君って、住人NPCで来たんですか?」
まぁどう見ても人外だからそのへんは気になるよな。
相棒は「あー……」って唸りながら思い出すように首を捻った。
「えーっと……籠に来てくれたオバケの住人NPCではあるんですけど……体は作ったんですよ」
「作った!?」
「こう……最初はちっちゃーい火だったから、カボチャランタンに入ったら可愛いかなって」
「……ちょっとよくわかりませんけど、それで?」
「実際カボチャランタンに入ったら、表情が動いて『頭だけだけど体が出来た!』って言うもんだから……じゃあ胴体もなんとかなるかなーって」
「……え、それでなんとかなったの!?」
「なりましたねー」
相棒の端折った説明にボルシチさんは『意味がわからん』って顔をした。
いや、端折らず順を追って説明すればわかるんだけどな。そうするとオタク語り始まっちゃうから相棒自重してるんだよ。
そんな詳しい説明を求められてるのかも分からないし。
それでもボルシチさんは、雑な説明を飲み込んでボルシチさんなりの結論に至ったらしかった。
「…………つまり、オバケって体を用意すれば普通のNPCみたいになる?」
「ですね。人形にオバケが入ったみたいな感じ」
「あ、ああ〜! なるほど」
へぇ~って頷いてたボルシチさんは、なんだか真面目な顔で相棒に向き直った。
「……今の話は、掲示板なんかに書き込んでも大丈夫ですか?」
「どーぞどーぞ」
俺達は名前が載るのが嫌で書き込まないだけだからな。
人外が増えたらピリオの兵士は大変かもしれないが、そこは頑張ってくれ。
* * *
ジャックとデューがかなり動きが良くなったあたりで、複数人対複数人の訓練に突入する。
その合間の小休憩の時に、ジャックがジッとガルガンチュアの武器を眺めて言った。
「……その子、結構長く使ってル?」
「あ? ……この槍斧か?」
「ソウソウ」
ガルガンチュアは手にした武器を眺めて、フッと笑った。
「まぁそこそこ使ったな。今日で使い納めだけど」
「エ? そーなノ?」
「おう、良い熊の爪が入って、それ使って新しいの作ったからな」
それはもしかしてワンパンベアだったりしますか?
ジャックはガルガンチュアのその言葉を聞くと、「ソッカー」と頷いた。
「じゃあ新しい武器にその子移してあげてヨ」
言われたガルガンチュアはキョトンとして固まった。
「……何の話だ?」
「エ? だからその槍斧の精のコト」
……ああ、ジャックは同類だからそういうの分かるのか。
デューの時も、鎧の精の成りそこないだって一目でわかってたもんな。
というか、デューも横でうんうん頷いてる。
……いつぞやのボウガンの時には、精が生まれる云々の情報は出さなかった。
だからだろうな、あっちのクランの面々はわけが分からず固まっている。
相棒はその様子を見て「フフッ」と笑っていた。
まぁわかる。情報に振り回されてるのは見てて面白いよな。
「大事にいっぱい使うと精が生まれるんだヨ。そしたらもっと上手に仕事が出来るようにナル。ダカラ、せっかく生まれたその子を新しい装備で役に立たせて上げて欲しいなーッテ」
「……どうすればいい?」
「お引越ししてーって言いナガラ、新しい装備を今の装備でコンコンしてあげテ」
ガルガンチュアはインベントリから凶悪な爪がついた槍斧を取り出した。
そして、今使ってる槍斧で軽く叩く。
「……引っ越しだ」
「…………ウン、移ったヨ」
半信半疑だったガルガンチュアは、新しい武器をしげしげと眺めて「ん!?」と声を上げた。
「名前の後ろに『・S』って付いたぞ!?」
「ちゃんと居るって認識して貰えたらそりゃ目もパッチリ覚めるヨ」
へぇー、そういうシステムなのか。
俺の弓も、木材の関係で早いって言われてたし、そろそろかな?
(相棒の杖とか、とっくに生まれてるんじゃない?)
(僕もそう思って『いるー?』ってコンコンしたら名前にS付いた)
(マジか)
俺も自分の弓を軽くつついてみた。
「……いるか?」
【微睡の木の短弓・S】
いたわ。
SはスピリットのSかな?
数値的には変化は無い……ってことはマスクデータか? 装備だと何に影響が出るんだろうな。
そんな仕様は寝耳に水だっただろうガルガンチュア達は大混乱に陥っていた。
各々自分の装備を武器だの防具だの確認してはギャーギャーと大騒ぎ。
終いにはガルガンチュアが俺達の方を見て思いっ切り叫んだ。
「お前らもう少し情報落とせぇええ!!」
イヤだよ。
今でさえこの注目度なんだぞ?
不死鳥で頑張った分で限界って事にしておいてくれ。