ユ:第一回公式イベント最終日
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指名クエストから数日経って、今日はイベント最終日。
月曜夜の、ゲーム内でも任務期間最後の日。
『不死鳥の間』のクエストの他は特に変わった事も無く、エフォは……ピリオノートは無事に大街道敷設任務完了の日を迎えた。
「……以上をもって、『四方大街道開通』及び『不死鳥の間』と『闘技場』の完成記念式典の開始を宣言する」
壇上の魔術師団長の挨拶に歓声が沸く。
今聞いた通り、イベントミッションは大成功の扱いで完遂。
四方の街に繋がる大街道に続き、『不死鳥の間』、それから『闘技場』も完成に至っていた。
さすがにピリオ第二防壁まで完遂とはいかなかったが、それでも長い壁の十分の一くらいは積んだというからガチ勢の本気は凄まじい。
イベント期間中、一度でもミッションクエストを完了させた全プレイヤーには、【四方大街道記念コイン】が配られた。
これはβ勲章と同じくメモリアルアイテムの分類になる。
勲章みたいに城に入れたりはしないが、受け取った本人の所有扱いになっていればNPCの好感度が僅かに上昇する。
今日は一日、街を上げての記念式典という事で、どこへ行っても飲めや歌えやの大騒ぎ。NPCの出店の他にプレイヤーの出店もこれでもかと並んで、街の中はプレイヤーもNPCも関係なく大量の人で溢れていた。
(さっさとこっちに来て正解だったねぇ)
(だな)
俺と相棒は当然そんな人混みの中にはいない。
のんびりと喧騒を見下ろしているのは、ピリオ東の、パン屋横の坂を上った所にある広場だ。
最初は防壁の上に行こうかと思ったんだが、登れる塔が等間隔についているからか意外と人が多かった。
こっちの広場は街の端も端。それこそ防壁に接する丘の上。
こうやって広場に祭りのメインが置かれているような時は、実に人気が無くて静かな穴場だって事に俺達は気付いてやってきた。
他に誰もいない広場でお祭り騒ぎを遠目に見ながら、のんびり屋台の肉料理と飲み物をいただく。
(豆ニワトリの手羽先焼いたやつ、塩加減ちょうどよくて美味しい。味見する?)
(する)
(はい、あーん)
(……うん、良い塩味だ。じゃあはい、コロッケ。あーん)
(……んー、コロッケも美味しいねぇ)
念話で話してるから、誰か通ったら無言で食わせあってるみたいに見えるかもな。
特に必要ないかもしれないが、俺と相棒は一応いつもの民族風の衣装で変装している。
事前に通達が無かったから無いとは思うが、万が一『不死鳥の間』関係で呼び出しとかくらったらめんどくさいからだ。
仮面を被ってても飲み食いに支障がないメカクレ仕様だから屋台の食事も楽しめるしな。
記念式典開始の挨拶が入って少しすると、広場に一際大きな歓声が響く。
さすがにここからだと何をしてるのか見えないからスレの実況を見てみると、四方の街から荷物を満載にしたNPCの飾り馬車が到着したらしい。
これからNPC達が四方の街と品物のやりとりを開始する。その象徴みたいなパフォーマンスなんだろう。
冒険者ギルドにも荷馬車の護衛クエストなんかが増えそうだ。
そんな事を考えていると、今度は華やかな音楽が聞こえてくる。
楽団が舞台で演奏しているらしい。
(お祭りって感じだねぇ)
(だね)
しばらくそうして食事と遠くの雰囲気を楽しんでいると、今度は別の誰かがメガホンを使っているらしい音量で何か話し始めた。
「皆様、楽しんでおられるでしょうか? このあたりで、街道と一緒に完成しましたピリオノートの新しい施設の紹介をしたいと思います!」
ワァーッとまた歓声が湧いた。テンション高いなぁ。
「まずはこちら。ピリオノート北側に完成いたしました『闘技場』です!」
聞こえてくる声によれば、最新の魔法技術がどうのこうので、大ダメージを受けても専用フィールド内ならばHPが死亡しないギリギリで残るようになっているらしい。
それを踏まえてPvPが可能になっているから思う存分打ち合ってくれ、って話だ。
基本PvPの無いゲームだから、対人戦で遊びたいならここを使うしか無い。
「ぜひ、皆様のトレーニングにお役立て下さい!」
一定数入り浸る奴が出そうだな。
そして次に紹介されたのは『不死鳥の間』
入植先であるこの世界の危機を知り伝える不死鳥と会話が出来るように用意された場所。
「本日はそのお披露目として、不死鳥のフィライラ様よりお話をいただきます! 拍手でお迎え下さい!」
オオーッ! と言う声と一緒に湧き上がる拍手。
なんだ、あの不死鳥わざわざ出てくるのか。
まぁ初めましてから不死鳥の間でやったら、有名な動物園の何時間待ちみたいになるだろうから、興味の無い奴はここでまとめて初見を済ませた方がいいのか。
「人の子らよ、まずは『滅び』に抗う協力と、我らの保護に大いなる感謝を……」
威厳のある声色のフィライラの語りに、会場は徐々に清聴し始めた。
「……人の子らも、これまでに『滅び』の影響を受けたモノたちの暴走を退けた事があるだろう。『滅び』はこのように、我ら不死鳥を集中して滅ぼして、復活のサイクルに楔を打ち込んだ後に、生命を衰退を……」
フィライラが詳しく語る所によれば、どうやら拠点やピリオの襲撃も『滅び』による影響って話のようだ。
へぇー、そういう設定だったのか。
人の子は己の生存を確固たる物にする力が強いから、『滅び』からすれば気に食わないだろう、と。
……しかしフィライラ、なんとなくだけどフッシーに対抗心燃やして語ってないか?
フッシーの『我、そちらと違ってちゃんと仕事した』っていう台詞を気にしている気がする。威厳と説明がすごい丁寧なんだよ。
……俺達がそんな風に、生暖かい気持になりながら演説を聞いていた時だった。
── カラー ン……
背後から聞こえた金属音に、俺達は振り返る。
広場の片隅、石畳の上に……禍々しい色の水晶片のような物が落ちていた。
(何アレ?)
(さあ?)
相棒が首を傾げながら立ち上がってそれに近付く。
「……そして諸君にはもうひとつ、大いなる敵と成りうる『滅びの使徒』の存在を告げておかねばなるまい」
近寄って指先でつつくが特に反応は無い。
恐る恐る相棒が拾い上げても、特に何も起こらない。
「『滅びの使徒』とは、『滅び』に魅入られ世界を滅ぼす事を己が命題とした愚か者の事。そやつらは──」
「随分な物言いじゃないか、鳥風情が」
……演説に、冷たい男の声が割り込んだ。