ユ:不死鳥の間
ログインしました。
今日は休日二日目。
昨日はキーナに『不死鳥の間』の指名クエストが入って、承諾の返事とか骨を用意しておいてくれとかを城に伝えた。
そしたら今日、ログイン早々に『不死鳥の間が完成したから時間のある時に早めに頼む』みたいな旨の手紙を持った配達クロウが俺達を待ち構えていた。
「仕事早いな」
「さすがピリオのトップ3」
問題は、リアルの朝9時にログインするとゲーム内では夜11時だってことだ。
いくらなんでもこんな時間に城に行くわけにいかないんだよなぁ。
「……郵便のカラスちゃん、いつからここで待ってたの?」
「カァ~……」
「心なしか萎れてるな」
「あれかな。偉い人の手紙は直接手渡ししないといけない、みたいなルールがあるのかな?」
「カァ」
「ぽいな」
「……今日は泊まって休んでいきなよ。今休憩所作るから」
「カァ!」
今日最初の作業は、カラスの休憩所付き配達ボックスを作る所から始まった。
* * *
翌朝。水と鶏肉を摂ってひと眠りしたカラスは、元気にピリオノートへ帰って行った。
この森の物はあんまり飲み食いしない方がいいだろうし、餌をいつでも食べられるように用意しておいた方がいいかもな。
「じゃあ僕らも出掛ける用意しよっか」
「そうだね」
善は急げとも違うし、面倒ごとをさっさと済ませるっていうのとも違うが。俺達は、指名されて受けたクエストを優先して終わらせる事にした。
スレを見る限りでは待っているプレイヤーも多いみたいだし。
相棒も『早い方がお城の人も運営もお仕事的に嬉しいんじゃないかな』って斜め上な気にしかたをしていたし。
あと、いつかのリーフボア討伐クエストの時みたいに、急なトラブルに気を取られて忘れかけたらマズいしな。
いつもの民族風の変装衣装を装備して、必要なアイテムを確認する。
「不死鳥の骨は向こうで用意してくれてるから……接着剤代わりの樹液と、声変わりシロップと、あと一応フッシーを連れて行こうかな」
例のお嬢様が成功してるから、接着剤は特にこの森の樹液にこだわらなくていいんだろうけどな。まぁわざわざ不確定要素を増やす事も無い。
「忘れ物は無い?」
「うん、準備オッケー」
「まぁ後から何か必要になったら俺が取りに走るか」
「もしそうなったらお願いします」
「出かけるのか、主よ」
「うん、今日はフッシーも一緒だよ」
「おお! 久しいな!」
嬉しそうなフッシーを杖の籠に入れて、俺達はネビュラを伴いピリオに転移した。
……相変わらず視線がチラチラ飛んでくる。
スレを見た限り犯罪者扱いはされてないと思うが。なんでか俺達が知らない所で城に確認に来ていたりしたみたいだし、何がどうなったのかは気になるんだろう。
わざわざ話す気はないけどな。
速足でさっさと歩いて、完成したばかりの『不死鳥の間』に着く。
見張りの兵士に書簡を見せれば、速やかに中に通された。
『不死鳥の間』は、教会みたいに荘厳な雰囲気の彫刻が多い建物だった。
ただ、不死鳥に配慮しているのか、草木が多い。
鳥が水浴びをするような水場まで用意されていて、小鳥が入り込んだらそのまま住み着きそうだ。
「こちらで少々お待ちください」
兵士に言われて、壁際のベンチに座って待つ。
……しばらく経ってやってきたのは、今回の依頼人である魔術師団長サフィーラと数人の文官っぽい人物だった。
「待たせたな」
「本日はよろしくお願いします」
会釈しながら、求められた握手に応じる。
文官っぽい人達は、この不死鳥の間の管理を担当する人達らしい。
不死鳥の骨が入った箱が運ばれて来て、相棒の前で開かれた。
「ではよろしく頼む」
「了解です。そこそこ時間がかかるので、そこはご了承ください」
声変わりシロップを飲んだ上での返答に、魔術師団長は呆れ混じりの苦笑で頷いた。
「ずいぶんと大量のシロップを報酬に望んだ冒険者がいたとは聞いていたが……さてはお前たちだな?」
お察しの通りです。
* * *
広い床に布を敷いて、その上で相棒は器用に骨で鳥籠を組み立てる。
王国にいる死霊術士はその技法を門外不出にするものがほとんどらしい。相棒が見学を快諾したら驚かれていた。
相棒は師匠がいたわけでもない、完全に我流だから、どこかから文句を言われる筋合いも無い。
そう言うと、『良い機会だから』と言って城勤めの魔法使いとか研究者っぽい人達がぞろぞろとやってきた。
「そういえば死霊術士の隠れ家に赴いた時、骨で出来た檻を見た事がありましたなぁ」
「あれはそういう趣味ではなく、実益を兼ねていたのですねぇ」
王国とは遠い異世界で、偶然到達したアマチュアによって門外不出の秘術が勝手に暴かれてるのか。本国のプロが知ったら発狂しそうだ。
でも罪悪感は、あんまりない。
魔術師団長が言うには、『捕縛』と『隷属』を当然の事と思っている集団らしいからな。
手に入れるためなら従魔だの人だのの虐殺も常套手段だって言うから、俺達とは徹底して気が合わないだろう。
「『尊重』と『保護』と『癒し』ですか、これは居心地が良さそうだ」
「うむ、実際良いぞ。精の成りそこないのようなちぃちゃな霊もコロンと入ったくらいよ。揺り籠のようなものよな」
「それはそれは」
フッシーが見学者達にめっちゃ馴染んでいる。
耳だけで聞いてると違和感無いんだよなー。
「よし、出来た」
「「「おおー」」」
相棒は出来上がった籠を指定された台座に据えて、見学者達の方に向き直った。
「じゃあ、誰か一名。この籠に【住居登録】してください」
「えっ」
「おお?」
「……それは、誰でも良いのか?【死霊魔法】が必要では?」
「呼ぶだけなら誰でもいいですよー。そこから来てくれたオバケをなんやかんやすると【死霊魔法】になるっぽいんで」
「なんと……」
秘術の暴かれ方が雑で笑う。
「この技術は……他に伝え広めてもよろしいですか?」
(いいよね?)
(いいんじゃない)
「いいですよー」
NPCに伝えたならそろそろプレイヤーへの秘匿も潮時だろ。
いくらお嬢様をデコイにしてるって言っても、いい加減ヘイトが向くかもしれないし。
あ、兵士の方から「本国で、貴重な使い手だからって違法行為に目をつぶってた輩、一斉検挙でいいのでは?」とか聞こえてきた。
あ、魔術師団長がGOサイン出した。走って行った。連絡飛ばしに行ったんだろうなぁ……
【住居登録】をする担当者は、中に入る不死鳥の性格に影響するって伝えた途端に、どうぞどうぞと満場一致で魔術師団長になった。
どう見ても責任感一番強そうなのこの人だもんな。
当の本人は解せぬって顔してたが、まぁ頑張ってくれ。