ユ:振り返り小休憩
ログインしてないです。
今日は日曜日。俺達には平日。
暑くなってきたから夕飯はサッパリ冷麺だ。
いや昨日は内容が濃かった。
むしろ濃すぎた。
なんだ目標の景品交換した直後にレイドボス×2からのクエストイベントって。一日に詰め込みすぎだろ。
このゲームは、戦闘の経験値やら報酬やらは貢献度で計算して、倒した時にその場にいなくてもちゃんと届くからそこは安心だ。
ヤドカリもキノコもそれなりの経験値が入ってた。
カラスのクエストも無事に完了。
帰って来られて、そして生まれ変わって帰って来るために旅立ててよかった。
城の人達も嬉しそうだったし、報酬がユニークアイテムだったから、大成功でいいはずだ。
……はずなんだけどなぁー。
霊蝶になって死の海に向かったんだろうカラスを見送った後。
あの魔術師団長がものすごくイイ笑顔でキーナに言った。
『よくやってくれた。これからも期待しているぞ『鎮魂の魔女』よ』
言われて慌てる相棒が念話で言ってきた事には、そのまんま『鎮魂の魔女』って称号が増えたらしい。
そーかそーかと他人事で見守っていた俺だったが、魔術師団長はものすごくイイ笑顔のまま、今度は俺の方にやってきた。
『そちらはどうやら精霊と契約しているな? 先程の会話から察するに死の精霊か?』
『……ハイ』
『そうかそうか、お前にも近々仕事を頼むかもしれん。今後とも頼むぞ『死の導き手』よ』
言われた途端、俺にもそのまんま『死の導き手』って称号が増えた。
なんなんだ、ピリオのトップ3は称号メーカーか?
副音声で『逃がさねぇよ?』って聞こえた気がするのはたぶん気のせいじゃない。
……まぁ偉い人からすれば俺と相棒は『使えそうな人材』なのかもしれない。
表に出てないだけかもしれないが、精霊使いも死霊術士もまだ俺達以外に見てないし。
その後は、もう寝ないとマズイ時間だったから、その場で報酬のユニークアイテムを使ってさっさと拠点に帰ってログアウトした。
そして今日。
おやすみ3秒で睡眠を確保した真紀奈は、いつも通りに仕事に行って帰ってきた。
「ただいまんぼ」
「おかえりんぼ」
「腹ペコです」
「うん」
「腹ペコのペッコリーノです」
「すぐ食べられるから手洗いうがいキメてきな」
「ふぁ~い」
いつもよりヘナヘナになって帰ってきた真紀奈は、夕食を摂ってもいまいち回復しなかった。
「ぷぇ~~……」
「もう寝る?」
「ん~……一緒にだら~っとなんか見たい」
「オッケー、じゃあエフォの配信でも見るか」
「うん」
寝落ちてもいいように諸々済ませてから、俺はタブレットの準備をする。
フルダイブVRゲームはゲーム内時間が現実より早い物が多い。
エフォは三倍。少し古いゲームだと二倍が多い。五倍なんて極端な物もあるけど、色んな要因であまり多くはないな。
そんな時間差のあるゲームのプレイ配信を見るには、いくつかの方法がある。
メジャーなのは、好きな機器で等倍機能を使って視聴する方法。
これを使えば、ゲーム内の加速に合わせた早回し状態の配信がリアルの速度と同等になる。
パソコンでもタブレットでもスマホでも、普通の動画を見るのと変わらないから、見ながらリアルで家事だの作業だのをする事だってできる。テレビと同じだな。
ただ、実際の配信よりも再生時間が伸びるわけだから追いかけるのは大変だ。配信が終わっていても再生は終わらないっていうズレが出るし、前のが終わっていないのに次の配信が始まったなんて事がザラにある。
それにリアルタイムではなくなるから、コメントを入れたりすることができない。
次に人気なのは、フルダイブ機器を使って視聴する方法。
ようするに同じ時間の速さになってライブ配信状態になりに行くってことだ。
この方法ならリアルの経過時間は短く済むし、コメントだって入れられる。
配信視聴専用のアプリを使えば、視聴UIも映画館だろうが自宅シアターだろうが好きにできるし、友達と一緒に集まって見る事もできるから、娯楽としてはこっちの方が上だっていうのが世間の認識だ。
……あとは玄人がよくやる、スマホだのパソコンだので、時間差を調整無しで再生する方法。
これはもうそのまんまだ。
時間差があるから……例えばエフォの配信なら等倍機能を使わずに再生すると、当然配信が三倍速で流れるわけで。
その三倍速映像音声を、三倍速のまま見るのがこの方法だ。
一応リアルタイム扱いだからコメントも打てる。三倍速だけど。
慣れると加速状態の配信を視聴しながら作業をしつつコメントもお布施もしながらボイチャで感想を言い合うような事もできるらしい。どこを目指してるんだ。聖徳太子か?
俺達はベッドに横になってダラダラ見るだけだから、普通にタブレットを使った等倍視聴。別に全部見れなくてもいい。どうせ寝落ちるだろうし。
真紀奈に腕枕しつつ後ろから抱き込むみたいな姿勢でタブレットを操作する。
「今エフォを配信してるのは……この辺かな」
「……そーいえば、前に僕らがピリオでチンジャオロースをお勧めしちゃった子って配信者だったんだっけ?」
「そうだよ。見てみる?」
「うん」
『麺食メン子』、通称メンメン。
ウェイトレス風の衣装がデフォルトの美少女アバターで活動している女性のV配信者だ。
イケメン芸能人にキャーキャー言ってたり、ゲーム配信では「イケメンは正義!」を標語に顔の良い悪役に惚れ込んで暴走しては痛い目をみてたりする。らしい。
「雄夜はこの子の配信よく見るの?」
「いや全然」
「あるぇー?」
「エフォで料理してる配信無いかと思って検索かけたら切り抜きが上がってきたから、その時に少し見た」
青いロンゲのクール系イケメンな魔術師団長に惚れ込んで、お付きのメイドに欲しい物を訊いてみた所。
『最近は火属性魔法の使い手を欲していらっしゃいます』
って言われたから火魔法の鍛錬に躍起になって。
でも虫が苦手だから草系を相手にして相打ちになって。
中華料理で火魔法を極める宣言をした所までがダイジェストになっている切り抜きだった。
「……体のいい厄介払いでは?」
「それな」
ちょうどリアルタイムでプレイ配信中だから開いてみると、ウェイトレスっぽい装備の美少女が……
……広大な海を筏で漂いながら釣りをしていた。
「あれっ? あの時、タケノコ探すって言ってなかったっけ?」
「……配信タイトルも『目指せタケノコ!』だから間違ってない、はず」
でもどう見ても大海原を漂流してるんだよなぁ。
疑問に思っていると、画面内では釣り竿に当たりが来た。
『ぃよっしゃあああ! 来い来いアタシの朝ご飯!! イケメンだったら見逃してあげる!』
『人面魚かな?』
『イケメンと二人旅なんてパパ許しませんよ!』
コメント読み上げオウムがツッコミ入れてくるのカオスだな。
……なんて思っていたら、筏の浮かぶ海が大きく盛り上がった。
『えっ!? 何!? なになになになにぃいいいい!?』
持ち上がる海面に耐え切れず吹っ飛ぶ筏。
一緒に吹っ飛ぶ配信者。
海面が割れて現れたのは、釣り針が引っかかって吊り上げられた超巨大魚。
『ギャアアアアアアアアッ!!』
波間に落ちて悲鳴を上げる配信者は。
自分で釣り上げた超巨大魚に一飲みにされ。
画面は暗転した。
「……え、待って。死んだ?」
「死んだね」
「何もわからない内に終わっちゃったよ」
「それな」
コメントがやんややんやと大盛り上がりする中、配信者はピリオに死に戻った。
「……他の見よっか」
「うん」
お疲れ気味の俺達には、このチャンネルはちょっとカロリーが高すぎる。




