キ:はた迷惑な美味
「コケッコォオオオオー!」
パチっと、信じられないくらいスッキリ目が覚めた。
スッキリしすぎて、さっきまで何してたか分からなくなるくらい。
えーっと……? 僕、何してたっけ?
あ、そうそう。
ボスキノコに【トリック・オア・トリート】したら、贄扱いで胞子大量に押し付けられて……
ギエー! インベントリが個人と共有も全部胞子で埋まってるー! ヤダー!
これでさらにインベントリから溢れた分が顔面に来たって事でしょ? 勘弁してよー!
インベントリの惨状に頭を抱えていると、横にいた相棒が頭をワシワシと撫でてきた。
(体大丈夫?)
(うん、なんともないよ)
……なんともない? 思いっきり走ってる時に寝落ちたのに?
あっ。
(もしかして落ちるの庇ってくれた?)
(引っ張ったけど一緒に落ちたわ)
(ありがとう、好き)
なんて嬉しいやりとりしてる場合でもないんだけどね。
「コケッコォオオオオー!」
また響き渡るニワトリの声。
きっとあの子だ。
僕らの所から巣立って行った、覚醒コケッコちゃん!
声のした方を見れば……そこにはダチョウよりひと回り大きな雄鶏がいた!
…………えっ、すごい大きいね?
でも鞍を装備した背中にあの時の青年を乗せているから、たぶん間違いない。
進化したの? したの?
立派になって僕は嬉しいよ!
「皆さん、睡眠はこちらでなんとかしますので! ボスをよろしくお願いします!」
「コッケコッコォオオオ!!」
違う鳴き方をしたと思ったら、今度は僕らにバフがかかった。
と、同時に。
ボスキノコの方からズドォオオンッ!! ってものすごい轟音が。
「こんのクソキノコがぁ!! 散々スヤスヤさせやがって!!」
あ、ピリオ防衛で蛇相手に暴れてた黒い鎧のガルガンチュアさん。
全身に粉砂糖まぶしたみたいに胞子で白くなりながら、フシュー……って感じに息を吐いてる。
「近年稀に見る安眠だったぞゴラァ!! テメェは今からぶつ切りにしてガーリック炒めにしてやるぁ!!」
頭上で振り回す槍斧。
体全体で振り回す得物は、僕らが魔法で散々苦戦したキノコの太い脚を、信じられないくらい深く抉り抜いた。
「ダメっすよボス! そいつは出汁が美味いんですから!」
「今夜はキノコ鍋です!!」
「コケッコォオオオオー!」
「うるっせぇえええ!! だったら各自で確保しやがれぇええ!!」
ガルガンチュアさんがグラッと寝かける度にコケッコちゃんが鳴いて起こす絵面が面白すぎる。
睡眠さえきっちり対策してしまえば、攻撃らしい攻撃をしてこないボスキノコは何も怖くない。魔法より武器攻撃の方が通りもいいみたいだし。
憂さ晴らしに精を出す近接職にお任せして、魔法使い一同は胞子の対策の相談をし始めるくらいだった。
「水で流すだけで大丈夫だと思う?」
「いやぁ~ダメっしょ」
「四角配置で育つだけで合体して歩くんだから、胞子処分しないと」
僕もこのインベントリの胞子どうしよう……
【四つ足甲殻マッシュルームの胞子】……品質★★★★★
気管から吸い込むと強烈な眠気を引き起こすが
煮溶かすと深みのある旨味となって大変に美味である。
……粉末スープの元かな?
僕はとりあえず胞子処分の相談をしていた面々に胞子を見せて、飲むジェスチャーをした。
そうしたら面々も胞子を鑑定したらしい。
顔を見合わせて一緒に頷くと、胞子を集めに走って行った。
「コケッコォオオオオー!」
「ウルァアアアッ!!」
荒ぶるコケッコとガルガンチュアさんの声。
相棒もせっせと矢をキノコに撃ち込んで、そろそろ脚が一本壊せそう。
状態異常に特化したとても特殊なレイドボスは、なんとか早期解体の目処が立ったみたいだった。
* * *
「討伐完了を確認。皆様、お疲れ様でした」
「お疲れー!」
「お疲れさーん!」
「胞子欲しい人並んでねー」
うん、睡眠デバフだけなんとかしちゃえば、あとは硬いだけの消化試合なボスだったね。
脚を一本破壊した時に普通のキノコが飛び散ったのはビックリしたけど。これがカニ出汁の甲殻マッシュルームかー! って大騒ぎで面白かった。
僕らのインベントリを埋め尽くした胞子は、欲しい分だけ残して残りは配布してる人に渡してある。
そんな戦後処理だったから、いつの間にか大鍋でキノコが煮られて、胞子の味付けのスープが振る舞われようとしていた。
二次会かな?
お鍋がくつくつ煮えるいい匂いに、皆ワクワクした様子で出来上がるのを待っている。
コケッコちゃんに乗ってきた青年は皆に持ち上げられて照れ笑いしてるし、ガルガンチュアさんはマイ箸とマイお椀を持って鍋の傍に陣取っていた。
お嬢様も最初はキリッとして色々指示を出してたんだけど、お揃いの紋章をつけた仲間に座らされてからはキラキラした瞳で鍋を見つめている。
……その時だった。
ドドドッドドドッと馬の駆ける音。
皆がそっちに顔を向ける。
やって来たのは……ピリオノートの騎兵さんだった。
「討伐お疲れ様でした! ……こちらに……えー、『狼に乗った白い装束の男女』はいらっしゃいますか?」
ザッと全部の視線が僕と相棒に向いた。
……うん、そうだよね。
その条件なら僕らだ。
相棒と一緒に立ち上がって、兵士さんの方へ行く。
兵士さんは、懐から丸められた羊皮紙を取り出して広げ、周りに見えるように書面を掲げた。
「異世界開拓規範に則り、サフィーラ・ロズ魔術師団長よりお二人にピリオノートへの出頭命令が出ております! 御同行下さい!」
……マジで?




