ユ︰それはそうなる
今回、途中に掲示板が挟まります。
「◎%※▼~:Φ<#&=*T◇↓↓↓●!!」
「はいはい、お疲れ。一回落ちて飯にしような」
緊張からの安堵で奇怪な鳴き声しか発さなくなった相棒を宥めて、俺達は一度ログアウトする。
今日は……パスタでいいかな。
ツナ缶とマヨネーズを和えるツナマヨパスタは真紀奈のお気に入りだ。
そして食後の一休み。
真紀奈とソファでだらだらしながら、俺はゲーム内スレをチェックする。
三倍の流れは速いけど、まぁ読めないほどじゃない。
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突然のワールドクエストについて語るスレ
114 ロードオブザピッグ
詳細キター!
115 クジラ定食
ついに来たぜついに来たぜ!
116 無限ゾンビマン
あの鳥の骨って不死鳥だったの!?
売っちゃったよぉ~
117 ルーク
最後の温度差くっそワロタwwwww
118 ガルガンチュア
まぁなんていうかシステムに理由つけた感じのクエストだったな。
119 カトリーヌお嬢様
危急の準備は必要なさそうで安心しましたわ。
モリ○ー様GJでしたわ。
120 グランド爺
うむ、良いRPじゃったな
隠遁勢から情報COする場合の最適解じゃったろ
121 品川マリア
RP?
モ○ゾーってNPCじゃないの?
122 論丼ブリッジ
8割プレイヤーだと思われ
あれがNPCなら、あの瞬間にワールドクエストが開放されるのが自然だし
謎のNPC登場で済ませるイベントなら、そもそも赤毛団長が名前訊く前にどっか行ってる
123 カイ
>謎のNPC登場で済ませるイベントなら、そもそも赤毛団長が名前訊く前にどっか行ってる
確かに
124 カステラソムリエ
あの質問はゲーマスAIからの『ここで名乗りますか?』って確認だね
不死鳥は事前にモリ○ーの中の人が匿名希望してるの聞いてたから、代わりに返事したんでしょ
125 潜水缶
相変わらずAIが陰キャに優しい
126 ガルガンチュア
>陰キャに優しい
そうでもない。
あれだけ目立つRPしたならたぶん称号つけられてる
あんな状況で唐突に称号つけられたら陰キャは心が死ぬ
127 H2O
陰キャーーーーーー!!
128 バームクーヘン海苔巻き
なんで陰キャすぐ死んでしまうん?wwwwww
129 蜂蜜ください。
草
130 ロードオブザピッグ
今回の○リゾーで掲示板のクエスト開放者騙りも軒並み駆逐されてんの笑うwwwww
131 カトリーヌお嬢様
やっぱり本物は書き込みしてませんでしたわねw
132 論丼ブリッジ
ガチボッチ勢を舐めてはいけない
スレなんて雑談どころか攻略すら見ない一派はそこそこの数いる
133 かのん
あのモ○ゾーはボッチじゃないっしょ
仲間に回収されてったの見たよ
134 ルーク
え、キッ○ロもいたの?wwwwwww
135 ロードオブザピッグ
ファーーーーーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwwwwwww
136 グランド爺
どうなっとるんじゃwwwwwwwww
137 モモモモ天然水
モリ○ーとキッ○ロなりきりプレイとか誰得wwwwww
138 かのん
違うからwwwwwww
回収した方は普通の人だったからwwwwwwwwwww
139 バームクーヘン海苔巻き
いやモ○ゾーだって中は普通の人でしょwwwwwww
140 蜂蜜ください。
もうやめれwwwwwwwww
141 辛味噌坊主
俺も回収した奴見たよwwwww
モ○ゾー遅えから余裕で追いつけるかと思ったら
結構な速さでモ○ゾー抱えてオーブに消えたわwwwwww
あれは俊敏振ってる上に装備でブーストかかってる
142 カステラソムリエ
へー、接触許可してんだね
彼ピか彼女かな?
143 辛味噌坊主
速い方はたぶん男だと思うんだよなー
隠密も使ってたぽくてよく見えんかったけど
144 グレッグ
あんま詮索するでないわ
不死鳥も言うとったろ
145 ガルガンチュア
なんにせよ、そろそろ初日組の拠点は襲撃が来る頃だからな
これで安心してそっちに集中できる
146 カトリーヌお嬢様
ええ、本当にモリ○ー様GJでしてよ。
147 うさぴょん吉
出たよエフォのタワーディフェンス
外壁に金かかってめんどくさいんだよね
148 クジラ定食
言うて防衛戦無しはあまりにもヌルゲーですしおすし
149 ロードオブザピッグ
外壁痛むの嫌なら傭兵雇え定期
150 うさぴょん吉
>149
金かかんの変わんねーーーーーじゃん
151 東菌
◆襲撃救援申請◆
拠点名:ブリックブレッド
集合場所:ピリオ噴水広場
出発時刻:ゲーム内時間3分後
よろしくお願いします。
152 クジラ定食
ちょ
153 無限ゾンビマン
はぁああああ?
154 ガルガンチュア
最悪だ!マジで最悪だ!!
155 カステラソムリエ
>151
生きとったんかワレェ!もそうだし
よりによってあんたが拠点にその名前つけたの?????
βで滅びて > みんなのトラウマ < になった自分の町の名前リサイクルしやがったの????????????
とんだサイコパスじゃん!!!!知ってた!!!!
156 カトリーヌお嬢様
襲撃開始が早すぎますわ!
どれだけ開発ダッシュしましたの!?
157 論丼ブリッジ
これだから東菌は!
158 グランド爺
こいつβからなんも変わっとらんのぉ
159 無限ゾンビマン
いいかい新規君たち
あれがβテスター勢でも屈指のサイコパス問題児だよ
160 熱燗ペットボトル
察した。
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ん-、プレイヤーだって事はバレてるか。それはそうか。
いくら怪しいNPCだって、ゲーム側の重要キャラならもう少しかっこいいデザインの装備着てたり謎の魔法で撤退したりするよな。
でもまぁ……真紀奈は街に行ってもバレないだろ、たぶん。
むしろ危ないのは俺だな。
しばらく街に行くのは控えようそうしよう。
「どーだったー?」
「ん-? 身バレはしてないよ。完全にモ○ゾーになってるけど」
「ス○モじゃないんだ」
「スー○を名乗るには丸みが足りないかな」
「ス○モが良かったなぁ~」
なんでそんなにス○モ推しなのか。
しかしプレイ一日目から中々濃いな。
今日が休日で良かった。
平日だったらどこか途中で中断しないといけなくて、不完全燃焼になっていたかもしれない。
そうしてスレを見たり有志wikiを見たりしていると、真紀奈がスススッと寄ってきて肩のあたりに頭をグリグリと押し付け始めた。
「何?」
「さっき抱えて走ってくれて嬉しかった」
「そう?」
「うん、ありがと」
「ええんやで」
「めっちゃ格好良かった」
「もっと言って」
「相棒カッコイイ!世界一!好き!」
「ハハ」
リアルだと筋力足りないけど、ゲームなら軽々と持ち上げるなんて芸当も出来るんだよ。
こういうのを一緒に楽しめる相手と夫婦になれたのは、本当に幸せな事だと思う。
* * *
休憩を終えて、再ログイン。
さっきは戻ってすぐにログアウトしたから、一応拠点に異常が無いか見て回る。
……うん、モンスターがいたり、何かが壊れてたりはしないな。
一通り確認を済ませてから、相棒は杖をインベントリから出して、フッシーを骨の籠に戻した。
「おお、戻ったか」
「うん、お疲れフッシー。ありがとね」
「お疲れさん」
「なんのなんの、おかげで我ら不死鳥の声も届いた故、主の命としては安いものよ」
そう、問題はこれだ。
「フッシー、その主って僕の事だよね? なんか『不死鳥の主』って称号増えたし」
パレード乱入の最中に、相棒には称号が増えたらしい。
このゲームは称号にステータスや金品のボーナスは無い。物によってはNPCの態度に多少影響は出るかもしれないが、それは称号効果というよりは称号獲得の元になったプレイの結果だ。
「うむ、我が魂をこうして保護し、望みを叶え、自在に連れ歩き、名まで付けた。これは立派な死霊術よ。スキルに有るであろう?」
「えっ」
相棒は慌てて自分のステータスを確認した。
「え、待って? なんか色々覚えてるし上がってる」
「いつ?」
「あー……杖改造したり葉っぱ縫ってた時とかに、急いでたからステータス関係の通知無視した気がする?」
「じゃあそれだ」
相棒に増えていたスキルは【武器製作】に【防具製作】、そして【死霊魔法】
「そもそも霊魂の我を杖の籠に入れて持ち運ぶのは【死霊魔法】の領域。指定した刻印を刻み、それを可能にしたのなら取得するが道理よ」
「た、確かに」
そう言われれば、確かにそうだな。
【武器製作】と【防具製作】も、建築みたいなレシピが無い状態で、時間をかけて既製品を改造をした事で取得したんだろう。
さらに相棒は、自分のステータスを確認してビシリと固まった。
「あのー……転職可能職業がひとつ開放されてまして」
「え、マジで?」
「うん……『ネクロマンスクラフター』だって」
聞いたことの無い職業が出てきたな。
二人揃って「なんだこれ」って首を傾げていると、フッシーが呆れたようにクチバシを開いた。
「だって主、一度も戦闘せず生産ばかりしておろうに。それはそうなるわ」
「Oh……」
ようするに、『ネクロマンサー』が死霊術を使った戦闘職で、『ネクロマンスクラフター』が死霊術系の生産職って事か。
しかしまぁ、ホラー苦手な相棒がよりによって死霊術かぁ。
相棒は神妙な面持ちでフッシーの正面に正座した。
「フッシー……僕、ホラー苦手なんだわ」
「ほう」
「死霊術って、見た目怖い? ビックリ要素ある?」
「ふむ……主は、今の我の姿は怖いか?」
「いや全然」
「なら大丈夫であろう」
フッシーは言う。
そもそも不死鳥は、生前はもっとゴツくて威厳のある姿だった、と。
「翼の鉤爪も省略されておるからな。これは我がこの籠に保護された際に主ナイズされた結果よ」
「主ナイズ」
「生産職が何か作る時はその生産職の味が出るであろう? それと同じ事。特に体の無い魂は周囲の影響を受けやすいのだ。故に我らは主の心に合わせて勝手に変質する。だから我こんなにもフレンドリーであろうに」
「あ、それも僕のせいなんだ!?」
つまりNPCAIの側で個人に合わせてグラフィックを調整する処理もしてるのか。すごいなエフォ。
「じゃ、じゃあ……死んだ時のグロい姿じゃなくて、日本のハロウィンっぽい可愛いオバケの姿で出てきてくれるって事?」
「はろうぃん?が何かわからんが、主が望むのなら望み通りのプリチーな姿で出てくるであろうよ」
相棒の表情が輝いた。
ゲームで好みのパンプキンヘッド見つけると喜ぶくらいにはハロウィン好きだもんな。
「相棒! 拠点めっちゃハロウィンにしていい!?」
「好きにしなー」
俺は可愛い相棒が楽しそうにしてるのを見るのが好きなんだからさ。




