第9話 スカーレットの秘密
新しく出来た小さな友人は、それからナッツと果実をたらふく食べて満足げに尻尾を揺らす。
今日はなんとか屋根を修繕したい。天気がいいうちに何とかしておかないと大変な事になりそうだ。
昨日採取したあの大きな葉っぱでなんとか出来ないものか試してみよう。
そうと決まれば活動開始だ!
「リジーはゆっくりしていていいわよ。」
ポコンと突き出たお腹は、まだしばしの休息が必要そうだ。
「部屋の中は危ないかも知れないから外でのんびりしてね」
「キキ~」
リジーを肩に乗せ外に出る。
「う~ん。どうしたものかしらねぇ。」
改めて屋根を見上げ思案する。
下から見ただけでも分かるオンボロさ。屋根に乗ったら巨大な穴を増やすだけなのでは………という不安もなくはないが。
「まぁ、その時はその時ね。小屋ごと倒壊しないことを祈るとしましょう。」
リジーをそっと降ろし呼吸を整える。
「少し、離れていてね。」
そう告げた次の瞬間、スカーレットが消えるーーー
「キキッ!?」
リジーは毛を逆立て大きく目を見開き、辺りをキョロキョロして消えたスカーレットを探す。
するとーーーー
「リジー。」
ハッとして呼ばれた方を向くと、スカーレットがこちらを見下ろし笑う。
「驚いた?」
屋根の上から、イタズラ成功!と言わんばかりに。
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この国は、6歳になると貴族、平民関係なく必ず神殿で洗礼を受ける義務がある。
その時に魔力の有無などを判定されるのだ。
魔法の顕現にはある程度の精神の成長を必要とし、それまでは魔力があれど魔法として発現させることは出来ないと考えられている。
その顕現に必要な精神の成長が6歳頃とされているのだ。
スカーレットも例外なく神殿で洗礼を受けた。
そして ーーー 魔力なしと判定された。
貴族は本来魔力が強い。
強い魔力を持つもの同士が結婚し、その力を絶やさないように受け継いでいくのが慣例だからだ。
だから、力の強弱は人によってあるにしろ、貴族でありながら魔力なしなどまずあり得ない。
スカーレットは貴族令嬢、ましてや侯爵家の血筋だ。その歴史をどれだけ遡っても、魔力の高さを誇るものこそあれ、魔力のなかったものなど皆無なのだ。
『侯爵家の令嬢でありながら魔力なしなんて』と、口さがなく噂する者も少なくなかった。
さぞやその小さな胸を痛めていたんだろうと思いきや、スカーレットは平然としていた。
何故なら、本当は、魔法が使えたから。
『身体強化』という、非常にレアな魔法が。
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「侯爵家にいた頃はこの能力を隠すのに苦労したわ。」
屋根に登ってきたリジーにそう話しかける。
「建国以来、この魔法を顕現させたのはほんの数人しか確認されていないそうよ。」
屋根が崩れないよう慎重に移動しながらも、スカーレットは話し続ける。
「かつての英雄や勇者、王国騎士団長、そして、その昔魔王と呼ばれた者も身体強化魔法の使い手だったのですって。この魔法は使い方次第ではとても脅威になる。その気になれば、世界を救うことも………それこそ滅ぼすことも、出来てしまうから。」
リジーは真剣な面持ちで、そう打ち明けるスカーレットの横顔を見つめている。
「侯爵令嬢に身体強化魔法なんて、宝の持ち腐れよね」
スカーレットはパッとリジーの方を向いて笑って見せる。
「だって走ることもなければ、重たいものを持つことだってないのよ??あ、でもダンスの練習では役に立ったわ。疲れないし、もし足を踏まれそうになってもいくらでも避けられるしね!」
「キキィ~」
「あと、聴力強化も役立ったわ。どんな囁き声も聞き逃さないように耳を澄ませるの。侯爵令嬢たるもの、情報は剣にも勝る武器だもの!」
「キキッ!キキッ!」
「あ、でも追放令嬢にはおあつらえ向きな魔法だったわね。だってか弱き侯爵令嬢だったら、今頃はもう、生きていられなかったかもしれないもの。」
「………キィ~…。」
「それに!この魔法のお陰で、バスタオルを盗っていこうとするイタズラッ子さんを、捕まえることも出来たのだしね!」
「キィ~~~」
少しバツの悪そうな顔をするリジーと、それを見て微笑むスカーレット。
「もうこれからは、このチカラを隠す必要なんてないんだわ!存分に役立てて、必ずこの場所で生き抜いて見せる!この場所を私たちの居場所にするのよ!!」
「キッキキィーー!!!」
1人と1匹は高らかに、そして勇ましくそう宣言するのだった。