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追放令嬢とユカイな仲間の開拓史  作者: 琥珀猫
第一章 侯爵令嬢、追放される
8/13

第8話 希望

小猿の名前をリジア→リジーに変更しました~



 


 あれからひとしきり泣いたスカーレットは、それでもまだぐずぐずしながら書斎で毛布にくるまり目を閉じた。

 

 薄れいく意識の中で、何か小さな温かいものが寄り添ったような気がしたが、泣き疲れたスカーレットはそれを確かめる間もなく眠りに落ちた。



 小鳥のさえずりが聞こえる。

 部屋もうっすら明るくなっている。夜明けだ。


 あれだけ泣いたからだろう。腫れぼったい瞼は開けるのが億劫に感じる。


 起きようか、まだ不貞寝を決め込もうか、じっと動かずに思案していると、微妙な違和感に気がつく。


 (なんだか、胸元がじんわりと温かいような)


 そっと目を開け、なるべく顔を動かさないようにして胸元に視線を向ける。


 そこには小さな茶色の毛玉が埋もれていた。


 (何かしら、これ…??温かいから生き物よね、たぶん。ん~、でもなんだか、見覚えのあるフォルムだわ……。)


 しばしそっと見つめていると、埋もれていた毛玉がもぞっと動きその顔が顕になった。


 (!!!……この子は…昨日の小猿ね!どうしてこんな所に??………それにしても……可愛らしいわ~。)


 無防備に眠る顔は幼子のようだ。小さな手も可愛らしい。


 「スピー………スピー……。」


 これまた可愛らしい寝息に思わず笑みが溢れる。


 「うふふ」


 すると、気配を感じたのか、小猿はバチッと目を開け後ろへ飛び退き距離を取る。


 「あら、ごめんなさい。起こしてしまったわね。」


 小猿はそのままの距離を保ちじっとこちらを見つめている。


 「怖がらないで。なにもしないから、そばに来てくれないかしら?」


 動かず静かに待っていると、少しずつ近づいてきてスカーレットの顔の前までやって来た。


 「おはよう、小猿さん。」

 「キキッ」

 「可愛らしい声で鳴くのね。まるで小鳥の囀りのようだわ。」

 「キキッ、キキッ」


 小猿はその場に座り込み長い尻尾をユラユラさせている。


 「もしかして昨日ナッツをあげたから、また欲しくてやって来たのかしら。」


 首をかしげてこちらを見ている。

 起き上がったら逃げてしまうだろうか…。


 「ねぇ、一緒に朝ごはんはいかが?今から起きるけど逃げないでくれるかしら?」

 「キキッ、キッ」


 なんとなく大丈夫な気がして、なるべく驚かせないようにゆっくり起き上がる。

 小猿は逃げずにその場に座っている。

 こちらの言葉が分かっているかのようだ。


 机に置いたポシェットからナッツと果実を取り出してスカーフの上に置く。

 椅子に腰掛け、小猿に向き直り声をかける。


 「昨日のナッツがあるわよ。一緒に食べましょう。こちらにいらっしゃいな。」


 潤んだ大きな目でスカーレットを見上げていたその子はそろりそろりとこちらに近づき、サッと机に飛び乗った。

 置かれたナッツや果実と、スカーレットの顔を何度か交互に見た後、顔をじっと見てくる。


 「どうぞ。好きなものを食べていいのよ。」


 スカーレットはにっこり微笑んで食べるよう促す。

 小猿はナッツを手に取り、昨日のように両手で握って食べ始めた。


 「あなた……本当に賢い子ね。」


 思わずそう呟いて、スカーレットも果実を食べ水を飲む。


 スプーンに水を入れ小猿の前に置いてみる。


 「お水よ。もし良かったらどうぞ。」


 ナッツを噛り終えたその子はチロチロとスプーンの水を飲む。

 

 (か、可愛いわ~!!)

 心の中で目一杯叫ぶ。

 表面上は平静を装いながら。


 そんな風にしばし穏やかな朝食を満喫しながら、窓の外に目をやって今日やることを考える。

 今日は屋根の穴をなんとか塞ぎたい。

 水を貯める大きな瓶のようなものもあったら便利だし、書斎以外の部屋の掃除もしなければ。

 時間は有限だから、優先順位を決めてやっていかないと……

 などと考えていたら耳元で「キキッ」と鳴き声がした。


 「えっ!?」


 気づかないうちに小猿が肩に乗っていた。余りに軽くて考え事をしていたら気づかなかった。

 肩に乗り、スカーレットの顔を覗き込んでいる。何故か少し心配げな表情に見えるのは気のせいだろうか。


 「もしかして、これが噂で聞いた、餌付けというやつなの!?」

 「キィー……」


 今度は何故かため息をつかれたような気がする。


 「おいで~。」

 そう言って乗っている肩とは反対側の手を差し出してみる。


 「キキッ」

 小猿は手の平に乗り換えスカーレットの目を見つめ鳴いた。


 「…………。」

 「…………。」

 「ねぇ、小猿さん。良かったら、私のお友だちになってくれないかしら。」

 「…………。」

 「私のお友だちになってくれたら3食昼寝つきよ。どうかしら??」


 ドキドキしながら小猿の返事を待つ。

 

 「キキッ」

 「!!!それは、いいよって事よね!そうよね!!」


 スカーレットは興奮して若干圧強めで小猿に迫る。

 本来ならそれで逃げ出してもおかしくないのだが、小猿は一瞬ビクッとしただけで逃げずにいる。


 「キキッ、キキッ」

 小さな手でスカーレットの頭をペチペチ叩く。

 「ありがとう!嬉しいわ!」

 スカーレットは思わず涙ぐんだ。


 「ねぇ、小猿さん。せっかく友だちになったのに小猿さんって呼ぶのはどうかと思うの。だから、名前をつけてもいいかしら?」


 頬を紅潮させながらその子に問いかける。

 「キキッ、キィ」

 たぶん、いいよと言っている!


 「じゃあ……じゃあね、リジーはどうかしら?」

 少し不安げな顔をしているスカーレットに小猿は手を伸ばしその頬に触れる。

 「キキッ!」

 「!!!じゃあ決まり!」

 

 リジーと名付けられた小猿はスカーレットの頭に飛び乗った。

 「きゃあ!もう、リジーったら!」

 スカーレットは久しぶりに満面の笑顔を見せた。


 リジー、ーーーーそれは、リジアンチュスという花の名から取ったものだ。

 紫の花弁のその植物の花言葉は『希望の光』。

 リジーはその名の通り、これから長きに渡りスカーレットの心を照らし続ける『希望の光』となるのだが、それはまた別の話し。


 そして、名付けをした瞬間にリジーの尻尾の先がぼんやりと光ったのも、それもまた、別の話し。


 

 

 

 

 

 


 


 


 


 



 

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