第13話 その名はグローブ
執事服を着たその青年は、頭部が半壊した魔獣を凝視しワナワナと震えている。
「あなた!グローブじゃない!!」
スカーレットは歓喜の声でグローブと呼んだ青年のもとへ走り寄る。
「驚いたわ!どうしてここに!?」
「………。」
「会えて嬉しいわ!本当に嬉しい!」
「………………………。」
「???グローブ??」
「……………………。お嬢様。」
「なぁに?」
「ご説明、いただけますか?」
「………。!!!」
突然の予期せぬ再会に舞い上がり、先程魔獣をスプラッタにしたことなど頭から消えていたスカーレットだった。
「えっと……。襲ってきたから……。」
「襲ってきたから?」
「蹴り飛ばしたの。」
「……何故?」
「えっ?だから、襲ってきたから。」
「いえいえ、そうじゃなく。」
「?」
「魔獣に襲われ、身を守るため『蹴り飛ばした』と。」
「…えぇ、っと…………。」
「で、蹴り飛ばして『魔獣の頭を半壊』させたと?」
「……………そう、ね…。」
「お嬢様。」
「………はい。」
「ご説明を。」
「………………………………てへっ。」
「てへっ。じゃねぇよ。」
思わず悪態をついた執事を連れて、小屋の中で水を飲んで一息つく。
「驚いたわよね。」
「えぇ、かなり。」
「えっと、実は私ね………」
それからスカーレットは自身の秘密を打ち明ける。本当は魔法が使えること、それは身体強化魔法であること、そしてそれを幼い頃からずっと隠してきたことなどポツリポツリと説明し出す。
グローブはそれを何も言わずただじっと黙って聞いていた。
「……と言うことなの。」
「…………。」
「隠していてごめんなさい。」
「……いえ、お嬢様が謝る必要などありません。」
先程までの困惑したような表情は消え、気遣わしげな眼差しでスカーレットを見つめる。
「私の方こそ気づいて差し上げられず申し訳ございませんでした。」
グローブはそっと頭を下げた。
「頭を上げて、グローブ!私の方こそ、今までずっと皆に隠し事をしてきたのよ。皆を騙してきたの。」
「その魔法の性質上、そうせざるを得なかったでしょう。むしろ、隠し通せて良かったくらいです。」
いつの間にか優しい面差しになっているグローブに安心する。
「お嬢様が追放されたと知った時は耳を疑いました。あなたが人を殺めるなど絶対にあり得ない。」
「私を信じてくれるの?」
「当たり前です。あの屋敷であんな茶番を信じている者などいませんよ。」
スカーレットは欲しくて止まなかった言葉に胸をつまらせる。
「私はお嬢様を救い出すためにここまでやって参りました。」
「どういう事?」
「お嬢様を連れて、隣国のジラ神国へ亡命します。」
グローブは真剣な眼差しでスカーレットを見つめて話を続ける。
「無実のあなたがこんなところにいる必要はない。あなたが望むなら、私は全力であなたが望む全てのものを叶えて差し上げます。」
「グ、グローブ。」
その眼差しがあまりにも熱が籠っていて、思わず頬が熱くなるのを感じた。
「きょ、今日はもう夜になってしまったし、一晩考えさせてもらえないかしら。あまりにも突然で、少し頭を整理したいの。」
「承知いたしました。」
「ありがとう…。あ!忘れてたわ!」
突然の予期せぬ再会に、うっかりしていた。
「リジー!」
「…………。」
「ごめんなさい、リジー!大丈夫だからいらっしゃい!」
「キキィ……。」
リジーは恐る恐る近づいてきたと思ったら、素早くスカーレットに飛び付く。
「これは……。」
「可愛いでしょう?私のお友達のリジーよ。」
グローブはリジーをジッと凝視する。
「グローブ?」
「……えぇ、とても可愛らしい小猿ですね。是非、私もお近づきになりたく存じます。」
なんとなくグローブに妙な圧を感じるのは気のせいだろうか。
「よろしくな、リジー。」
「……キィ……。」
その圧に怯えているのか、消え入りそうな声で応えるリジーだった。
それにしても、この広い森の中でよくこの場所に辿り着いたものだと不思議に思う。
率直に尋ねると、答えは至極簡単だった。
火をおこしたことで上がった煙が、狼煙のように目印になっていたのだ。
話したいことは山ほどあるが、本当に疲れきってしまったスカーレットはもう目も開けていられない有り様で、コクリコクリと舟をこぎ始めた。
その様子を目を逸らさずじっと見つめているグローブ。
あの日、侯爵家の使いを終え他領から戻ったグローブは自分の耳を疑った。
スカーレットが毒殺未遂を犯し追放になったと言うのだ。
追放先はあの魔の闇森。しかも侯爵家を旅立って1週間近く経っていた。
居てもたってもいられず身支度もそこそこに屋敷を飛び出す。
後を追うことに、誰も、あのムタードですら止めるものはいなかった。
唯ひとりを除いて。
(ふん。この追放劇、どうせあの小娘が一枚噛んでるに違いない。まぁいい。この落とし前はいずれ必ずつけさせるさ。)
そっとスカーレットに近づきその前に跪く。
「生きていてくれた……。」
グローブはその頬にそっと触れ、指先から感じる確かな温もりに安堵する。
「俺が絶対に守りますよ、お嬢様。」
熱の籠ったその囁きに、その頬に触れる微かに震える指先に、深い眠りに誘われつつあるスカーレットは気づかない。
静寂が2人を包み夜は更けていった。




