表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/167

ポムの花をあげたい人。

 帰郷準備を進めている集落の人々をよそに、少女達はこっそりと抜け出していた。

 徹底的に今日はポムの花を探そうと、一人の少女が提案したからだ。

「ほら、ツルカも!気分転換になるよ?」

「う、うん」

 堂々巡りのツルカを連れ出したのはリアナだった。気を遣わせてしまったことにツルカは気づき、それからは元気よく振る舞うことにした。

 代り映えしない森の風景に少女達は不満げであった。それでもせっせと探す。ツルカもそうだ。せっかくなので手に入れて帰りたかった。

 探し続けて周辺をさまよっていると、ふと濃厚な甘い香りがし始める。誘われるようにツルカは歩いていく。

 歩き続けていたのだが、皆とかなりはぐれそうな所まできていた。慌てて戻ろうとしたが、香りの元に辿り着く。足元にあったのは黄色く丸い花。もしかしてこれがポムの花だろうか。

「いーなー、もう発見してる」

「!?」

 いつの間に背後にリアナがいた。ツルカ以外ここには誰もいないと思っていたのにだ。いやに緊張したツルカは取り繕うとする。

「見つけちゃった。でも見つけて満足したし、だれか欲しい子にあげようかな」

「えー、それはダメだよ。見つけた人に権利があるんだから。それにしてもついてるねー。相当見つからないんだから」

 陽気に笑うリアナをみて、ツルカはほっとする。さっきのは多分気のせいだったのだ、と言い聞かせる。

「だからね、ツルカがあげたい人にあげないと」

「あげたい人……」

 ふと、彼女の脳裏に浮かんだのは―。

「誰かなー?」

「そ、それは!ほら、戻ろうよ。けっこう遠くまできちゃったし」

「はーい。……ふふ」

 気持ち足早にし、他の少女達と合流する。帰宅した彼女達が怒られたのは当然だった。

「あ……」

 それとなくラムルを視線で探す。彼は見知らぬ人達と話し込んでいた。通りかかったトビーが教えてくれた。

「彼らはフルムの兵だよ。それも王の側近ともいえる。……まあ、強い人たちだね。今日は先行で少数で来ていただいたんだ」

「そうなんだ……」

「ああ。こうしていると実感するよ。私達は故郷に戻れるのだって……」

 トビーはそう言って涙ぐんだ。彼らにとっては長らく帰れなかった故郷である。感慨深いのだろう。黙り込むツルカの背中にそっと手を添える。

「私達は君の望みに従うまでだ。けどね、私達にとってツルカは娘同然なんだよ。だからどちらを選んだとしても。ツルカは私達の家族だ」

「お、お父ちゃん!」

 感極まったツルカはトビーに抱き着く。そして初めて彼を父と呼んだ。トビーも愛し気に娘の背中を撫でる。そのまま息を荒げたツルカはポムの花をポケットから出す。

「お、おと、お父ちゃん!これ一個だからお母ちゃんと半分こして!ね、これもらって!」

「お、落ち着こうかツルカ!しまいなさい、それを今すぐ、―しまいなさい」

「はーい……」

 トビーだけが気づいていた。一瞬ではあったが誰かさんに横目で見られたことを。渋々ポケットにしまったツルカは全く気付いてないようだが。


 ついに年始の日がやってきた。帰郷の日と重なったことにより、各々が自宅で待機することになった。

 そんな中、ツルカはラムルに呼び出されていた。いつもの川べりに二人で並んで座る。ついにこの日がやってきたのだ。

 あの日リアナに言われた事をツルカは思い出す。ポムの花をあげたい相手に誰を思い浮かべたか。大切な人達なら、いる。けれど真っ先に浮かんだのが。

「……」

 今、隣りにいる少年だった。もちろん、トビー達にあげたいのも本心ではあったようだが。

「とりあえず、俺考えたんだ」

「うん……」

 そのままツルカと向き合う。そして。

「つか、決めた。お前をフルムに連れてく」

「えっ!?」

「そっから考えればいいだろ。帰る手段だってなんとか見つけてやる。まあ、気が向いたときだけど。いや、暇でしょうがない時かもな」

「ええー……」

 さらっと言いのけた。彼にとっては大したこともないようだ。だがツルカは安心してしまう。と同時に、迷う自分を恥じる。

「それでいいの……?わたし、結局決められなかった。あっちにも帰りたい、でもみんなとも離れたくなかった」

「まあ、無茶ぶりだったもんな。急にな、帰れないけどどうする?とか」

「でも、他のみんなはすぐ決めてたから。すごいなって」

「―それは、お前が平和に幸せに暮らせてたからだ。少なくともあいつらよりは。あいつらにとってはマシだと思った方を選択したに過ぎない」

 ツルカははっとする。ラムルはあくまで事実を述べただけだった。確かに彼女は恵まれてきたのかもしれない。それでも、とツルカは続ける。

「マシ、とかはないと思うよ。みんな、ラムル様達といられて幸せだったと思うから。ずっと一緒にいたいんだよ」

「……どうだか」

「そうだよ!絶対そうだよ、わたしだって!……わたしだって」

 勢いで身を乗り出したツルカに、ラムルは驚いて固まっている。

「わたしだって、そうだから」

 引くに引けなくなったツルカは強く頷いた。

「……」

「……」

 二人して黙りこくる。いつまでも沈黙が続きそうだった。ツルカとしては、いつものように呆れた反応を返してほしいところだった。この際、それで良かった。

「……あれ」

 ツルカは気まずさのあまり、視線をさまよわせる。だが。

 ツルカは目をぱちくりとさせた。多くの光が宙をまとっていた。何気なく手にとろうとするが、すっと避けられてしまう。

「ホタルみたい……」

「ほた、る?」

「えっとね、虫。光る虫なんだ」

「お、おう、光るのか」

「きれいなだねぇ」

「……おう」

 この景色をラムルと一緒に見られて彼女は心底嬉しかった。だからこそ一層瞳を輝かせた。

「ツルカ」

「え……」

 ツルカの髪をかぎあげ、そっと耳にかける。そこに差し込まれたのはポムの花だった。

「あ、悪い。勝手に髪触った。でもいいか、お前だし。つか、たまたま拾ったやつだし。自分につける趣味ないし。なんか顔近づけてくるやつがいるから、そいつでいいやって思っただけだし」

 やたらと早口でまくしたてながら、微妙に視線をそらしていた。どことなく頬が紅潮しているかのようにも思えた。

 ラムルがツルカを見ることはない、だが今の彼女にとってそのことが有難かった。

「……なんか言えよ」

「か、顔上げちゃダメ」

「は?」

 顔が真っ赤に染まりきっている表情を見られたくなかったのだ。そのツルカの表情をラムルは思わず目撃してしまう。一時黙る。けれどいつものように大声を出す。

「ば、馬鹿なんじゃないか?こんなの適当だし!くそ、没収だ!お前にはまだ早い!」

「せ、せっかくくれたのに!」

「なら、トビー夫婦にでも渡しとけ!ちょうど2個になるだろ!」

「それもそっか!2個になった!……あれ?」

「納得すんのかよ!あ、いや納得しとけ。……ったく」

 すっかりいつもの雰囲気に戻ってしまった。お互い一呼吸し、落ち着くことにした。

「はー、疲れた」

「こっちのセリフだ」

「えへへ、でも楽しい」

「能天気なやつ」

 ああ言えばこう言う。それでも幸せなことだった。しばらくそれが続くのだから。

 ツルカはポムの花もまだつけていることにした。せめてこの森を離れるまでは。

「よろしくお願いします、ラムル様。わたしもみんなと一緒に行きたい」

 お世話になるからには、ツルカは頭を下げた。

「わかった。……それと、それはもういい」

「それ?」

「もう様づけはいい。今さらだけど」

 ツルカはきょとんとした。だが、つけなくていいならそれはそれで支障はない。

「わかった、ラムル!」

「順応早すぎかよ。……まあいい。いいか、お前だけじゃないからな。道中目立つからだから、仕方なくだからな」

「うん。……みんなの故郷か」

 これからのことはわからない。けれどツルカは新天地に思いを馳せる。そしてラムル達もいる。だから大丈夫だ、と確信もなく思っていた。

 複数の足音がした。迎えがきたのか、そしてもう刻限なのだろうか。ツルカは名残惜しい気持ちを抑え、何てことないと笑ってみせる。もう気持ちを切り替えていかなくてはならない。彼女は立ち上がろうとする。

「……そうきたか。ツルカ」

「ラムル……?」

 ラムルは一気に警戒し始めた。異常事態だとツルカは察した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ