みんなが帰る場所。
集落の広場にて全員が集まる。その中心で声高に話すのはラムルだ。
「―というわけで、迎えがくることになった。年始の日に来る手筈になっている」
最初は事態が呑み込めなくて静まっていた彼らも、次第にざわつき始める。ただただ惑うばかりの彼らであったが。
「長い間、待たせて悪かった。お前達もようやく母国『フルム』に帰れるんだ。お前達は耐え続け、頑張り続けてきた。当然の権利だ」
心から労うようにトビー達にそう語りかける。やっと実感できた彼らは一斉にラムルにひざまずいた。よせ、とラムルは顔をしかめるが、彼らはやめようとしない。
「貴方様のおかげでございます……!ラムル様が私達などの為に単身乗り込んできてくださったからこそ。亜人などの為に……いえ」
トビー達はおそらくこのようなことを言っている、ツルカは大分理解出来ていた。
トビー達亜人はこの国に捕らわれ、周囲の反対を振り切ったラムルが単独で助けに来たという。
「ラムル様……」
ツルカは感嘆せずにはいられなかった。単純に仲間を助ける行為がすごい、と思えたからであった。
ラムルのバツの悪そうな顔は、すぐに故郷に彼らを帰せなかったことを思ってだろう。それでも、全員無事なことを考えると留まって機を伺うしかなかったのだろう。
「トビー達の答えは決まってるな。あとはお前達だ。―一緒にフルムに来るか」
保護された子供達は青ざめる。その反応をみたラムルは、だよな、と一人納得していた。
「安心しろ。保護施設行きの話は前にしていただろ。確かにこんなへんぴな森でもトラオムはトラオムだ。けど、国を離れるってなると話は違うよな」
長い沈黙が続く。けど子供の一人が手を勢いよくあげた。
「お、おれはラムル様についていく」
「あたしも!あたしも、みんなのほうが好きだから」
子供達も次々とそれに続く。ラムルやトビー達はただ静かに頷いた。
「……ごめんなさい、ラムル様。みんな。ぼくはいけない」
いつぞやのラムルが励ましていた少年だった。彼はトラオムの保護施設に入ることにしたようだ。誰一人として少年を否定することはなかった。
「わかった。でも俺らのこと誰にも言うなよ。忘れろ」
謝罪の言葉を連呼していた少年は止まる。そして否定する。
「ごめんなさい、ラムル様……でもね忘れない。ぼく、みんなにあえてよかった」
「……ん」
今日のところはお開きになったようだ。一同が家に戻っていく。
涙が止まらない妻をなだめるトビーは、ツルカを手招きする。
「ありがとう。でも、もうちょっとだけ」
先にトビー達に帰ってもらい、ツルカはその場に残っていた。急な話に頭がついていけなかった彼女だったが、一呼吸した。そう、自分はどうするのか。
「ツルカ」
ラムルに呼び止められ、ツルカは恐る恐る振り返る。
「全員だからな。お前も考えろ」
「わたしも?」
「説明してやる。お前はトラオムの奴じゃない。でもフルムの民でもない。だから外国籍だろうと、最悪なことさえしなければだ。そう、多少は人権はあるはずだ。何が何でも保護してくれる場所に送り届てやる」
ラムルは真剣にそう言っていた。固い決意すら感じ取れた。ツルカはツルカで気になる言葉があった。
「最悪なこと……?」
「いや、今それはいい……。それにトラオムならもっとお前の国のことがわかるかもしれない。帰れる可能性はよっぽど高いはずだ」
「わたし、帰れるの……?」
「よその国との交流も盛んだからな、きっと」
帰れる。ツルカは何度も反芻していた。大切な人達にまた会える可能性が高いとしたら、それは願ってもないことだ。
「……帰りたい、よな。そりゃそうだよな」
「……?」
「何でもねぇよ」
ラムルは切なそうに言っていた。ツルカにはわからなかった。彼がどうしてこうも、憂いているのか。ラムル自身もまた、何でもないと煙に巻いてしまったから。尚更だった。
だが、ツルカはトビー達、そして目の前のラムルのことが頭によぎる。
「それか、俺達と一緒にフルムに来るか」
「……!」
ラムルが手を差し伸べる。だが、それは一瞬のことですぐさま手をさげた。
「ただ……。お前はもう二度と故郷に戻れないと思ったほうがいい」
「そんな……」
そのあとラムルが鎖国国家だから、敵対している国だから、と説明するが、ツルカの頭が追いついてないことを察する。それ以上の説明は取りやめた。
「年始の日までには答えを出しておけよ」
あとはツルカの判断にゆだねる、と目を合わせることもなく背を向けていった。トビーに声を掛けられるまで、ツルカはその場に立ち尽くしたままであった。いつまでもこうしてはいられない。彼女は重い足取りで歩いていく。
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