海からの帰路。
海岸線まで出ると、何やら大変なことになっていた。全力で逃げているのは、あの二人組だ。追いかけてくるのは、巨大なハート型の貝殻。手足も生えており、執拗に二人を追いかけていた。
「ニャー!」
ビゼルはパニックのあまり、猫になっていた。ニコラスはそんな彼女を抱えて逃げていた。
今にも二人を捕食しようと、大きく開いていた―。
「うわああああ、助けてぇ!」
ニコラスも叫ぶも、急にスンとなった。
「そうだ、僕。魔法使えるんだった。ちょっとごめんね」
さらりと砂浜に風を巻き起こす。視界を塞ぎ、そして足元を固めた。
「興味半分にごめんなさい。もうしません。距離をとったら解除するから、住処に戻ってね」
ぺこりと頭を下げると、ニコラスは一定の距離から魔法を解除した。もう追いかけられることはなかった。
「ニコラスがかわいそう、ねぇ」
「う……」
ツルカは認識を改めることにした。こう、曲者ではあると。
帰りの列車は予約をしていなかったが、遅い時間でもあったので空いていた。四人はまとまって座ることが出来た。
「ふにゃー……」
ビゼルは猫の姿となって、大っぴろげに寝ていた。
「……ん」
ツルカも寝ていたようだ。誰かの肩を借りていたようだ。お礼を言おうとするが。
「まだ先は長いからな。寝てろ、な?」
「……うん」
心地良かった。ツルカはそうさせてもらうことにした。
「まあ、確かにな。あいつだとキツイよな。俺は平気だけどな」
「……良かったねぇ、ラムル君?」
席を替わっていたニコラスが、前方で見学を決め込んでいた。
「うっせ」
揶揄われたラムルは面白くなかった。ニコラスに悪態をつくも、それがよりニコラスを喜ばせていた。
楽しい日帰り旅行も、終了した―。