夏の夜に。
夜風が冷たい。夜の海には月が浮かんでいた。門限にも間に合うかどうかわからない。それでも、ツルカは今の時間を大切にしたかった。
「ん……」
「あ、起きた?」
ラムルがゆっくりと目を覚ました。
「うわっ!」
ラムルは飛び起きた。勢いがあったので、危うくツルカの顎とぶつかるところだった。
「お、お前なぁ……」
ラムルは寝起き早々、顔を真っ赤にしていた。怒る前触れだろうと、ツルカは謝ることにした。
「ごめんごめん。肩にもたれたままだと、ちょっと保てなくて。あと、膝枕も憧れてたし」
「……こいつ、わかってねえよな」
溜息をついたラムルは、怒ることはなかったようだ。ただ、こうは提案してきた。
「よし、わかった。お前は抵抗はないんだな。じゃ、俺は頼むからな。ここぞとばかりに頼んでやるからな」
「え、それはちょっと。テンションによるというか」
ツルカは予想外の反応に狼狽した。ラムルが乗り気になるとは思っていなかった。あれは、夏という特有のものによる。それがなければ、ハードルが高い。
「はあ!?じゃあ、期待もたせんなよ!つか、テンションってなんだ」
「こう、夏だからというテンションというか」
「なんだよ、夏だからって。余計わけんねえっての。……はあ」
ラムルはがっかりしているようだ。
「……」
やっぱり夏特有の魔法でもかかっているようだ。ツルカはそんな彼がとても可愛いと思えてしまうのだから。
「……ラムルこそ。抵抗がないのなら、いいよ」
「お前……」
これで彼が喜んでくれるのなら、笑ってくれるのなら。ツルカにとっても望むことだった。
「……まあ、お前の前でそんなに寝るもんでもないよな。たまにくらいでいい」
「うん、そうだね。そうだよね」
二人はそれでいいと、膝枕の話は片をつけた。さてと、とラムルが立ち上がる。彼が差し出した手を、ツルカはとろうとした。
「違う、逆の手だ」
「こう?……これって」
ツルカは逆の手でとって、立ち上がる。自然と手が繋がる形となった。
「ああ、よくわかんねぇけど。夏のせいなんだろ。だからだ。……ほら、あいつら迎えに行くぞ」
耳まで顔を赤くしながら、ラムルは手を繋いできたのだ。
「うん、そうだね」
これも夏のせいだと、ツルカは笑った。