海を楽しもう!
太陽が照りつける中、彼らは遊びまくった。
「この海はわらわのものじゃー!」
大海原に向けて、ビゼルは手を広げる。高笑いもしていた。
「叫ぶのいいかも。学院長めー!」
ツルカも他の生徒がいないのをいいことに、叫んだ。
「イーリス様、さいこー!」
ニコラスも便乗した。
「お、俺はやらないからな」
後ずさるラムルは、三人から期待の眼差しを向けられた。
「くっ……。えーと、あれだ。誰だよ、俺の作るのが恋愛成就アイテムとか言い出したの。売れるのは有難いけど、限度ってもんがあるだろが」
屈したラムルは、最初はボソボソ言っていたが。
「まともに寝てねえんだよ!」
切実な思いを叫んでいた。
「……」
「……」
海に向かって叫ぶラムルは知らない。後ろにいたツルカとニコラスだからこそ知っていた。主犯はこの、下手くそな口笛を吹く者によるものだと。彼女も良かれと思ったことだろう。それを告発する勇気や冷徹さは二人にはなかった。
「おい、ニコラス!どれだけ速く走れるか試そうぜ」
「ボートはそういうのじゃないってぇ!」
人を避けてではあるものの、ラムルが暴れていた。彼は吹っ切れたようだった。ニコラスと二人乗りのボートで爆走していた。
「だ、大丈夫かな」
「なに、ひとしきり暴れたら気がすむじゃろうて。いざとなったら、ニコ坊に体を張って止めてもらおうぞ」
「ニコラス先輩がかわいそう過ぎる……」
ハラハラしているツルカに対して、ビゼルは悠長だった。彼女は砂の城を作るのに夢中だった。
「出来たのじゃ!」
「わあ、可愛い」
てっきりフルムの宮殿でも作ると思われていたが。メルヘンチックなお城が完成していた。
昼食の時間になると、浜辺でバーベキューだ。
「おい、そっちはまだだ。焼けてないぞ」
「ラムルは仕切るなぁ……」
「俺が仕切らないで、誰が仕切るんだよ」
肉の時もそうだったが、海産物でもそうだった。ラムルはまた仕切っていた。
「別に仕切らなくてもいいんじゃ。……まあ、いいか」
ツルカはもう好きにさせることにしていた。
「僕、火力上げようか?」
「無粋だな、ニコラスは。こういうのはじっくり焼くからいいんだよ」
海鮮奉行が横やりを断った。十分食べられる範囲だが、まだ奉行は満足していないようだ。
「十分でございまする。ラムル様、さあどうぞ」
「お前っ……」
ビゼルが勝手にトングで掴み、ラムルの皿に乗せた。ラムルは唖然としていた。
「って、ビゼル殿。全然食べてないよね。ほら、遠慮しないで」
「わらわは主より先に食べるなど……」
涎を垂らしながらビゼルは言っていた。
「……はあ、主命令だ。食え」
「御意」
待ってましたと、ビゼルは魚に食らいついた。絶品だと感動していた。
「ボール、そっち行ったよー」
「私、取ります!」
ボールは持参してきたので、ツルカはビーチバレーを提案した。善意で木材をもらい、ネットを張った。最初は四人だけで遊んでいたのが、他の人達も興味津々だった。いつの間に多くの人数が参加していたのだ。
ツルカがレシーブして上げたのを、見知らぬ女性がスパイクした。それを相手チームが拾い、強くアタックしてきたのがラムルだった。ツルカは拾えず、相手チームの得点となった。
「ラムルめぇ、容赦ないんだから」
「ははは、これは勝負だ。ツルカ!」
「よーし。次は返り討ちにしてくれる!」
ラリーが続き、彼らは盛り上がっていた。そんな彼らを遠巻きに見ていたのが、この二人だ。
「……まずいよね、ビゼル殿」
「ああ、失念しておったのじゃ。ニコ坊よ。―して、ビゼル殿とは何なのじゃ。今更ながらじゃが」
「いいでしょ、ビゼル殿って。こう、殿って響きさ。いいよね。格好いいよね」
「難解なおのこじゃのう。まあ、好きにすれば良い」
「やった。それでさ、結局ここまでさ?……二人きりになってないんだよね」
ビゼルからの了承を得たことで、ニコラスは本題に戻した。ビゼルも同感だ。
「そうだったのじゃ。これじゃいつもの二人のままなのじゃ」
「まあ、それはそれでいいんだけどさ。でもほら、せっかくの夏でしょ?」
「ああ、せっかくの夏じゃからのう」
何かを企んだ二人は、不気味に笑った。
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