水着を着てみた。
更衣室ということで、男女分かれることになった。ここまでやってきたのだ。ハイビスカスのヘアアクセは装着済みだ。あとは。
「……やっぱり、際どい気が」
ツルカは覚悟をして水着を着た。控えめなフリルのビキニだ。決して海での服装としてはおかしくない。それでも、ツルカは恥ずかしかった。
『破廉恥です』
今になって某模範生の言葉が効いてきた。ツルカは着てきた服に着替えたくなっていた。
「うむ。ツルカ殿、すまなかった。実際着てみるとわからぬものよ。際どいのう」
「……ビゼルさーん?今になって、そういうこというかなぁ?」
勧めてきたビゼルまでもがそう言っていた。可憐なワンピースを着たビゼルがだ。ワンピース姿の。
「ビゼルさん?水着はどうしたの?」
「ひゅー」
ビゼルは下手くそな口笛を吹いていた。誤魔化しているつもりだろうか。
「ええい、いうわ。わらわは水着は持ってきておらぬ。安心せい、こちらは防水加工じゃ」
「いや、安心するとかじゃなくて。水着、約束だったよね?」
話が違っていた。当日、しかも海に到着した時点での判明だ。
「わ、わらわとて、頑張ろうとはしたのじゃ……。勇気を振り絞ろうとしたのじゃ……!それでも、わらわは、わらわは……」
ビゼルは本気で泣き出しそうだった。頑張っていたのは誠のようでもあった。
「……そうだよね、似合ってるもんね。次こそは楽しみにしてるね」
「うう、ありがとうなのじゃ……」
ツルカは幼子の手を引くように、更衣室から出た。―出てしまった。
「さあ、待たせてしまっているのじゃ」
「……うん」
この切り替えの早さだった。ツルカはガチ泣きだと信じるしかなかった。信じたい気分だった。
更衣室から海岸線に出ていく。売店の下で涼んでいた二人だ。すでに着替え終えていて、待っている状態だった。
「あ、来た来た―」
彼女達に気付いたニコラスも。
「ニコラスと話していたんだよ。乗り物借りるかって―」
売店から視線を戻したラムルも。硬直した。水着姿のツルカを見てだった。
「あわわ……」
ツルカもまた固まってしまった。男子達の服装がまさにそうだった。
半袖シャツに下だけ水着のラムル。防水パーカーに下は水着のニコラス。水着の定義ではある。ビゼルは違う。ビゼルは水着ではない。ツルカはただ一人、露出の高い姿となっていた。
「ご、ごめん……。そのうち慣れると思うから」
「う、うん……」
ニコラスはまともに見られない状態だった。余計、ツルカは恥ずかしくなった。
「なに、ツルカ殿よ。おぬしくらいの女子は、ゴロゴロおるぞい。おぬしも似合っておる。彼女達もじゃ。皆、可愛いのじゃ」
「ビゼルさん……?」
約束破りが言っている。ツルカは内心イラっとしていた。ただ、一理はあると思っていた。内心はそれぞれ違えど、彼女達は堂々としていた。ツルカが恥ずかしがったままでは、彼らも気まずいままだろう。
「ごめん、お待たせ!乗り物だっけ、うん借りたいよね」
「ほら、あの子。……な、顔は幼いのにな?」
「……な、だよな?」
主に異性からの視線も気になるが、ツルカは気にしないようにした。幼い顔立ちなのは自覚している。このビキニはフリルが控えめでもあり、大人っぽいといえばそうだ。そのことを揶揄されていると、ツルカは思っていた。
「……」
「ひっ!」
ラムルが一瞥すると、男達は退散していった。安心したツルカの元に、ラムルは近づいていった。
「着てろ」
「え……」
ラムルは自分のシャツを脱いで、ツルカにかけた。彼女にとっては大柄のシャツとなった。上半身裸になったラムルは、より注目されるようになった。通り過ぎる人は皆、彼に目を奪われていた。ツルカもそうだ。あまりにも肉体美過ぎて、目をそらしてしまった。
「なんだよ。買ったばかりで、着たばっかだぞ。不満でもあるのか」
「ううん、そうじゃないんだ。……ありがと、ラムル」
「ああ」
ラムルはさっさと顔を背けて、レンタルを物色していた。
「おお、ラムル君……」
「ひゅー」
成り行きを見守っていたニコラスは安堵をする。ビゼルはというと、下手くそな口笛で囃し立てていた。