列車から見る海。
四人は海へ向かう列車に乗り込んだ。無事に席にも座れて、一斉に背もたれに身を委ねた。この時点でもう、満身創痍だった。
「……ほら、海までもかかるし。その間に体休ませておこう?飲み物、買っておいたんだ」
ツルカはニコラスに共同財布を返した。ビゼルも話を聞いていたようで、彼女の分も入れたある。
「はい、ビゼルさん。紅茶が好きなんだよね?」
「すまないのう。おお、冷えておるのじゃ」
隣の席のビゼルに渡した。
「はい、ニコラス先輩。炭酸でしたよね?新作出てたので、そっちにしてみました」
「わーい、冒険してみるー」
前の席のニコラスにも渡した。
「ラムルは寝てるか。どっちか置いといてもらっていいですか?」
ツルカからは斜めになる。ミネラルウォーターをどちらかに渡そうとしていた。
「……寝てねぇよ」
「うん、寝てないね。はい、ラムル」
「……どうも」
時折舟をこいでいたが、本人が寝てないというのなら、寝てないのだろう。ラムルも飲み物を受け取った。
「……うーん」
ニコラスが腕を組んで考え事をしていた。不服そうともいえた。
「お、悋気か。ニコ坊よ、あの二人のやりとりが羨ましいのかのう」
「ビゼルさん、またそういう事言って」
揶揄うビゼルに、ツルカが苦言を呈していた。ニコラスはというと。
「そうだよ、そうなんだよ。……僕は羨ましかったんだ」
「……おい、ニコラス?」
突然だった。さっきまで寝落ち寸前だったラムルも参加してきた。
「だって、ツルカちゃんは。ツルカちゃんはさぁ……」
ニコラスはずっと思っていたことだ。それを、この列車の中で打ち明けようとしていた。余程溜まっていたようだ。他の三人は緊張する。
「……僕だけ敬語じゃん」
ニコラスはいじけながらそう言っていた。
「あの、先輩ですし」
「先輩だけどさ。この場だと僕だけじゃん。こう、なんだろ。他の人には親しげで、でも僕だけって感じ感!この際さ、僕への敬語も無し。それでよろしく」
言えてすっきりしたとニコラスが笑った。ツルカもそれでいいのなら、受け入れることにした。元々ニコラスには親しみをもっていた。
「そっか。そうだね。うん、ニコラス君」
「ふぁっ……」
ニコラスが妙な声を出していた。そんな彼を、ラムルは見ていた。
「……ニコラス君、ねぇ。おい、ニコラス君」
「あのね、ラムル君。それやめてくれる?本当に怖いんだ……」
列車は山間部にさしかかった。揺れはそこまででもなく、静かなものだった。穏やかな時間が流れていく―。
「すう……」
「むにゃむにゃ……。乙女にフリルの相乗効果なのじゃ……」
ラムルもビゼルもすっかり寝ていた。窓にもたれてである。
「あはは、寝させてあげようか」
「そうだね」
海が近づいてきたら起こせばいいと、二人は静かに話をすることにした。
「楽しいね」
ニコラスが零した言葉。ツルカは彼を見た。
「本当に楽しいんだ。君達に出逢えたから」
「うん、私も」
「だね。ずっと、続くといいな。―その為なら、僕力になるから」
「うん、頼もしいです―」
優しくてかけがえのない時間だ。ぽつりぽつりと会話をしていると、見えてきたのは。―海だった。
「ほら、ラムル君。ビゼル殿も。起きて起きてって」
「……ああ?」
「こっわ。ほら、海海」
寝起きが悪いラムルも、未だ夢の中のビゼルも、次第に覚醒していく。
「おお、海だな……」
「海なのじゃ……」
太陽の光を受けて輝く海。既に到着した人達で賑わいをみせていた。出発までは大変だったものの、楽しい一日になりそうだ。