水着詐欺。
「……雨、降らないのう。まったくもって降らないのう」
店に向かう途中、ビゼルがぽつりと言った。彼女は空を見上げていた。夜空で星が瞬いている。これは本当にビゼル効果かもしれない。ツルカは笑いながら言った。
「そうだね。ビゼルさんのおかげかも」
「よ、よすのじゃ!これで、本当に雨が降らなくなってしまっては!わらわは、もう世間様に顔向けはできぬ!」
ビゼルは今になって青褪めていた。あのタイミングはあまりにも神がかっていたのだ。本当に以降降らなくなってしまったらと、想像したのだろう。
「そんな、ビゼルさん……」
「わらわは、わらわは……」
打ちひしがれるビゼルの頭に、一滴水が落ちてきた。やがて、ぽつりと小雨が降ってきた。
「……なんじゃ、驚かせよって。いえ、ありがとうございます。ありがとうございます。誠にありがとうございましたなのじゃ」
「うん、良かった良かった。……良かったけど」
ビゼルは天にあわせて祈りを捧げていた。ツルカも安心はしていたが、一方で。
「……」
怖かった。
通り雨だったようで、すぐに止んだ。ツルカの恐怖も多少は和らいだ。二人は街を歩き回っていた。いくつか若者向けの店は閉まっていたが、この店は開いていた。二人はここで物色することにした。
「いらっしゃいませー、ごゆっくりご覧くださーい」
「うっ!」
南国を彷彿させる店内装飾、溌剌とした薄着の店員。水着を選んでいるお洒落な女性たち。何もかもが眩い。ツルカの目は眩んでいた。
「け、け、気圧されるではないぞ、ツルカ殿!」
「ビゼルさん……」
ビゼルはもっとだった。足をがくがくとさせていた。見ていられないと、ツルカはビゼルの手をとって、店内に引き入れた。恩に着ると、ビゼルは涙目だった。
「助かったのじゃ……。ここからは恩返しの時間じゃ。ほれ、ツルカ殿。コレらはいかがかのう?」
「わあ、可愛い」
誘惑だの、露わだの。ビゼルはやたらと押してきた。それもあって、ツルカは過激なものを勧めてくると覚悟していたが。彼女は愛らしい水着をあてがっていた。
「ラムル様が好みそうじゃ。これで悩殺じゃ。撃墜させるのじゃ」
「ええと……」
ビゼルはさらに何着も持っていた。早く試着するようにと、ビゼルがせかしてくる。
「それじゃ、まずはこれとこれで。……ほら、ビゼルさんも。そうだ、私も選んでみていい?ビゼルさん、どういうのがいいかな」
自分ばかりじゃ悪いと、ツルカもまた選ぼうとしていた。
「え?わらわ?わらわは着ないぞ?」
「え」
「わらわは巫女じゃ。水着は着用せぬ。着用せぬぞ」
「ビゼルさん、話が違わない?ほら、男女とかどうとか」
「わらわは大人じゃからの。方便じゃ。ラムル様がヘタレるからのう、きっかけを作ったにすぎぬ」
ビゼルは瞳孔を開いたバキバキの目でそう主張していた。これで通そうとしていたが。
「ビゼルさん、着よう。約束だよ、着ていこう?」
ツルカもまた、圧力には圧力で返した。ビゼルの両肩も掴む。
「じゃから、わらわはのう……」
「ラムルとも約束したよね?ビゼルさんが着ないなら、私だって着ないよ。そこに残るのは、気まずそうなニコラス先輩と、話が違うとキレ気味のラムルだよ?」
「じゃがのう……」
「すみません、店員さん。この人、恥ずかしがりやなんです。あまり肌を出さない水着、教えてもらえませんか」
埒が明かないので、ツルカは店員を召喚した。ここはプロにお任せすることにした。
「はいー、かしこまりましたぁー。お客様、こちらへどうぞー」
「ツルカどのー!」
ビゼルは店員に連れてかれていった。ツルカは自分でも見繕ってみるも、やはりビゼルが持ってきたものが可愛いと思った。
「うん、可愛い……」
ビキニタイプのものだった。ツルカにはとても度胸がいるものだった。
『ラムル様が好みそうじゃ。これで悩殺じゃ。撃墜させるのじゃ』
「着るくらいならいいよね」
試着室に入って、ツルカは着替えた。