マルグリットの部屋①
模範生達が暮らす特別寮。玄関側に一番近いのは、マルグリットの部屋だ。赤い絨毯の上を歩き、マルグリットの部屋の前に立つ。
「さあ、お入りください」
「は、はい。お邪魔します」
あの清廉潔白な模範生の私室が明らかになる。整えられた部屋だとは思うも、意外性もあったらそれはそれで楽しい。ツルカはドキドキしていた。
「おお……」
想像通り綺麗な部屋。愛らしい猫のぬいぐるみが数体あった。本棚がいくつもあり、整頓もされていた。挟まるのは猫の写真集だ。観葉植物や季節の花も生けられていた。テーブルの上にある猫じゃらしはなんだろう。
「その、面白味のない部屋ではありますが」
「いえ、そんなことはないかと!」
綺麗で女性らしい部屋。合間合間に主張しているのは、猫にまつわるものだ。いや、合間合間どころではなかった。かなり主張していた。ベッドカバーもカーテンも猫柄だった。キッチングッズも猫によるもの。スリッパも猫。クッションも猫。猫、猫、猫ばかりだ。
「猫ちゃん、お好きなんですね」
「はい、にゃんこちゃんですね!大好きです!」
「……」
マルグリットは笑顔全開だった。対するツルカは寒気が止まらなかった。これだけの美人が笑顔なのだ。トキメキはしても、寒気はないだろうとツルカは自身に突っ込んだ。それでも寒気は止まってくれない。
『その凄まじさに、俺は―そいつが誰だったのか、認識出来ていない』
何故、あの時のラムルの言葉を思い出してしまったのか。ツルカにはわからなかった。
「わ、わあ。猫ちゃん、可愛いですよね。では、こちらささやかですか」
ツルカは笑顔となって、マルグリットに手土産を渡した。学院の売店で売っていたものだ。マルグリットは丁重に受け取った。
「ありがとうございます。お茶を淹れますので、その時いただきましょうか」
「あ、手伝わせてください」
「ええ。では、お昼もまだでしたね。そちらの準備、手伝っていただけますか?食後にでもあなたのをいただきましょうか」
「わあ、マルグリット先輩の手料理ですか!ありがとうございます」
マルグリットはいつもの様子だ。あの狂人がこの凛々しいマルグリットと同一人物なわけがない。
「―そういえば、にゃんこちゃんの侵入口の件です」
「にゃんこちゃんですか」
「はい、にゃんこちゃんですが?」
マルグリットは臆面もなくいった。手際よく料理の下ごしらえをしながら、マルグリットは話を続ける。
「あちらですが、撤去しました。迷い込むにゃんこちゃんに罪はないのです。私は改めることにしました」
「そうですか……。その方が私もいいと思います」
ツルカ達としてはそれで良かった。これで侵入口問題も解決としたと、安心しようとしたところ。
「ええ、そうです……。迷い込んだなら、私が保護をすれば良いこと……。ありとあらゆるにゃんこちゃんを私の元へ……」
マルグリットはリズム良く、材料を刻んでいた。不気味に笑みながらだ。
「……」
ツルカは恐怖した。
これならまだ前の方がましだったとも思えた。侵入口さえ避ければ良かったのが、以後、マルグリットに見つかり、掴まったとしたら。―想像すら怖ろしくて、ツルカは止めた。