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魔女会議―マルグリット編。

 いつもの会議室。待ち構えているのは模範生達だ。着席している彼らに対し、ツルカ一人が立たされるという。今回は迎えもなく、ツルカ一人でやってきた。

「失礼します。ツルカ・ラーデンです」

「どうぞ。お入りください」

 ツルカのノックに、マルグリットが応えた。入室したツルカに、視線が一斉に向く。

「ようこそお越しくださいました。今回は学院長の命により、特別に召集がかけられました。我々の現段階の見解を述べる。確認の為の招集といえましょう」

 マルグリットが今回の集まりの目的を述べた。仕切りはいつものように彼女だった。

「……はい、よろしくお願いします」

 ツルカは頭を下げ、マルグリットを見た。彼女がどのような心境かはわからない。毎回、トラウマを掘り起こされるようなものだっただろう。ただ、マルグリットはトップとして在った。今回もそうだ。

「前回とは意見を変えられた方もおられるかもしれません。忌憚のない意見をお願いします。……正式とは言えない今回ではありますが、結果によっては覚悟もなさっていただけたらと」

「はい」

「結構です。私も迷いません」

 自分の親を死に追いやったも同様のもの。それでもマルグリットは臨もうとしていた。ならば、ツルカも受けて立つまでだった。この、真っすぐに見つめてくる彼女に対してだ。

「じゃ、アタシから。悪い子じゃないけど、そういうことじゃないしね。疑いはそのままでってことで」

「オレも。つーか、前回と進歩ないわけだし?じゃ、変わらないよねってことで」

「あー、変わんね。なァ、問題児?俺はオメーも疑い続けるからなァ。なんなら、ハニトラでも仕掛けてみっか?乗ってやんよ」

 前回の否定派はそのままだった。この三人は覆らないままだ。

「―なら、僕も変わらないよ。彼女は魔女だ」

「……」

 ニコラスは変わらず肯定派でいてくれた。ツルカの真実を知った上で、そうしてくれている。危ない橋を渡ってはいても、ツルカは嬉しいと思う心はあった。

「おいおい、ニコラス?やっぱ、オメー、ハニトラされたんか?ん?どうだった?」

 案の定ハニトラだと絡んできた。

「そっか、ハニトラされてたのかな。なら、彼女は大した魔女だよね」

「テメェ……」

 しれっと言い放ったニコラスに言い放った彼は、舌打ちをした。ニコラスは飛びのいた。こういうところはニコラスだった。

「……この腹黒が」

「え、ハルト君?今のハルト君?」

 日頃の猫被り、もとい爽やかふりを感じ取れない声音だった。困り果てたニコラスを放置して、ハルトも意見を述べた。

「つか、今回の開催も意味わかんないです。変わり映えしないんで、保留維持です」

 ハルトもまた、現状維持だった。そう告げたあと、彼はツルカを見て、口だけ動かす。『今はね』と。ツルカの喉が鳴った。

「あたくしは……」

 カタリーナの表情が憂えていた。前回からもどこかカタリーナの様子がおかしい。

「……いえ、あたくしも保留。そのままよ。ええ、そうよ」

 それでも、保留派で留まってくれた。初回の時からツルカのことを案じてもくれ、味方もしてくれていた彼女である。だが、ここ最近の様子が気がかりなのも確かだ。

「……」

 ハルトもそうだが、カタリーナだってそうだ。保留と謳っている彼らがいつ意見を変えてもおかしくはない。

「残すはマルグリットだけれど」

 カタリーナの一声で、視線はマルグリットに集中する。そのマルグリットはしばらく黙っていたが、口を開いた。

「―その前に、失礼します。此度は私の件で、お騒がせしたことをお詫び申し上げます」

 マルグリットは一度立ち上がり、深々と頭を下げた。ひとしきり下げると、頭を上げた。

「そして。私に対し学院長よりご指摘がありました。―模範生の主席たる者が、いつまで結論を濁しているのかと」

「!」

 ツルカは内心、学院長を苦々しく恨んでいた。ツルカもそうだが、トラウマがあるマルグリットまでおちょくる気かと。

「それって、オレらもそうした方がいいってことですか?」

「あたくしも……?」

 ハルトが直球で聞いてきた。カタリーナは思い悩んでいた。

「ああ、誤解なさらないでください。今回は私に向けてです。……ただ、あの方のことですから。追々は、でしょうか」

「……」

 ツルカもそうだとは思った。あの男だからだ。

「それを踏まえた上と、……私の本意を一つ。私の両親のことは事実です。そのこともあって、私は。私は―」

―怖れていた。結論をはっきりと下すのが怖ろしかった。マルグリットはそう告げた。

「トップたる存在がこれですから。ええ、今でも怖ろしさは残っております。結論から申しますと、私は肯定派です」

 それがマルグリットの答えだった。

「……どうしても、否定派には回れない。保留派と濁して。そのくせ、彼女を糾弾することで面目を保とうとしていた。もしかしたら、恐怖のあまり否定派に回って終わらせようとしていたのかもしれない。そのような人物なのです、マルグリット・トラバントとは」

 後ろ向きな意見だった。消去法によって選んだと言っているようだった。それでも肯定派に回ってくれたことは歓迎されることだが。

「―それは、あくまで以前までの私。今は違います」

「マルグリット先輩……?」

 マルグリットは姿勢を正して、ツルカを真っすぐに見つめていた。

「今の私は前向きに考えております。ツルカさん、あなたを信頼できるとおもったからこそ。―私はあなたを肯定します」

「!」

 場は騒然とした。第一模範生の、首席である彼女が。ここで肯定派に回ったのだ。

「どうか、魔女で在り続けてください。私の信頼が裏切られないことを願っております」

「はい、マルグリット先輩」

 騙る身ならば、せめて魔女として。ツルカはしっかりと受け止めた。

「四対三、ですね。現状維持となりました」

 マルグリットが結論づけていた。意外と反論もなかった。変化はあったのだろうか。あったとしたならば、―マルグリットの心境の変化か。

 閉会ということで、彼らも帰っていった。明日から夏休みということもあり、そちらに意識がいっているようだ。残ったのが、ツルカとニコラス、そしてマルグリットだった。

「ツルカさん。お話があります。よろしいでしょうか」

「お、お話でしょうか」

「ああ、警戒しないでください。決して悪い話ではありませんので」

「いえ、どのみちお聞きはしますが……」

 肯定派に回ってくれた矢先、何かあるのか。ツルカはつい警戒してしまった。マルグリットにはバレバレだったようだ。

「それじゃ僕は帰るね。またね」

「はい、また」

 ニコラスは一緒に帰ろうと待ってくれていたようだが、ツルカにとっての最善をとったようだ。ツルカはそんな彼を見送った。

「お話というか、提案と申しましょうか。ツルカさん、まずはあなたの学期末の成績についてです。その、学院長も気にしておられました」

「は、はい」

 ツルカの警戒はある意味正しかった。ツルカのテストの結果は、思わしくはなかった。前の点数より下げてしまったのだ。成績としてはそこまで悪くないが、あの学院長が難癖をつけかねない結果となってしまっていた。現につけられていた。

「そこでです。私達は本日休養となります。私の手も空いていますので、その、お教えしましょうか。課題もあるでしょう?」

「え。すごく嬉しいですけど、いいんでしょうか。お休みした方が」

「嬉しい、ですか……」

「はい」

 マルグリットは口元に手をあてていた。ツルカは素直に返事はするも。多忙なマルグリットのせっかくの休息日なのに、そうも心配していた。

「お気遣いはなさらないでください。何もしない、というのも気が引けまして。私の復習にもなりますから」

「それじゃ、お言葉に甘えまして。よろしくお願いします」

 マルグリットがこうも言ってくれている。ツルカは有難く提案を受け入れることにした。

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