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雨が降ろうと晴れやかな卒業式。

 迎えたのは卒業式。例年晴れるはずが、この日は大雨だった。雨天の中、進行となった。厳粛な気持ちで参加し、式を終えると交流があった生徒達が卒業生の元に集まってきた。

「……」

 特に親しい卒業生がいないツルカ。プロムに呼ばれているわけでもない。まして明日は魔女会議だ。ツルカは大人しく帰ることにした。

 雨の中でも彼らの表情は晴れやかだった。ツルカは心の内で彼らの卒業を祝した。

「あれ……?」

 正門前で、ニコラスがある男子生徒と話していた。あの人は確か。―ニコラスから席を奪い取った生徒だった。分家筋の生徒である。

 ちょうど話し終えたようで、二人はペコペコと頭を下げ合っていた。険悪ということもないようだ。ツルカはそっと離れた。

 中央に人だかりが出来ているのは、ウォードがいるからだ。人望があった彼は、卒業を惜しまれていた。第二ボタンの争奪戦も繰り広げられていた。そんな騒がしい場も、緊張でひりつく。

 その場に現れたのが、マルグリットとハルトだったからだ。ハルトが傘をさし、マルグリットは花束を抱えていた。

「ご卒業おめでとうございます。こちら模範生一同を代表して持参致しました」

「ああ、ありがとう。嬉しいな」

 ウォードは傘を持ち直して、大きな花束を嬉しそうに抱えていた。

「マルグリット。送辞も見事だったよ。君ならより良い学院にしてくれると、そう信じている」

「ええ、ウォード先輩。あとはお任せください」

 マルグリットは力強く頷いた。あれからの彼女は堂々としていた。偏見の目も無くなってきていた。ただ在りのままに堂々としていたこと、そして。これまでの積み重ねがあったからこそだろう。

「それと、―ハルト」

「え。は、はい」

 居づらそうにしていたハルトもまた、声をかけられた。いけない、とハルトもまた挨拶をする。呼び捨てされたことには特には触れない。

「遅くなってすみません。ご卒業、おめでとうございます」

「ありがとう。なあ、ハルト。……重くなったか?」

 ウォードはハルトに問う。自分の席を奪った相手に対してだ。

「……どういう意味ですか」

「ああ、負け惜しみみたいなものだ。それでも言わせてくれ。大変だろう?自分の上に、天才マルグリットがいることもそうだ。それでいて、見事にまとめ上げる手腕もあるという。俺は何回自信を失っていたことか」

 ウォードは笑い話として話していた。

「ウォード先輩、そのようなことは……」

「はははっ」

 マルグリットが納得いってないようだが、ウォードは流した。

「それでも、マルグリットというよりは。……俺は、第二席というのが重かった。だからかな、軽やかに席に着く君が羨ましかった」

「……軽やかに、ってわけでもないですけど」

「ははは、悪かった。そうだよな。これからもっと大変になるしな。―他の子達とはプロム会場で会おうと伝えといてくれな?」

 ウォードはまだ挨拶を終えてないようだ。これで話を切り上げようとしたが。

「……ウォード先輩。オレ、軽いし、あまり深く考えたりとかしませんけど。でも、ウォード先輩はすごい人だって、わかってるんで」

「ああ、そういう認識か」

「なんですか」

 ハルトがそう言うと、ウォードは彼を観察した後に一人納得していた。ハルトは落ち着かなかった。

「君が模範生として在ろうとしていること。俺もわかっているよ」

 それじゃと、ウォードは手を上げて群れに戻っていった。

「……はい」

 ハルトは彼に届いてないだろうが、返事をしていた。その様を見守っていたマルグリットは促す。

「では、私達も会場入りしましょうか。あなたなら飲み込みが早いので―」

「マルグリットさーん!た、大変だー!」

 先輩との話を終えたのか、ニコラスが走ってやってきていた。雨の勢いは増している。その場にいた生徒達も散り散りになっていた。ドラマのようでつい立ち止まっていたツルカも、今度こそ寮に戻ろうとしていた。その時に、ニコラスの到来である。

「ハルト君もいるね。……この雨でしょ?楽団の人達が遅れているって。もしかしたら来られない可能性もあるって」

「誠、なのですね。……生演奏は無理だとしても、録音したものでどうにか」

 舞踏会に楽団は欠かせない。それが最悪、無しの可能性もある。遅れることは確実なので、そこまで歓談してもらい待ってもらうしかないのか。

「……出し物」

 ツルカの存在に気がついたニコラスは、提案した。

「あのさ、僕達でどうにかできないかな。繋ぎくらいは」

「ニコラスさん、何をおっしゃるのですか?」

「ねえ、マルグリットさん。僕に案がある。彼らなら可能だよ。―僕達を頼って」

「……はい、ニコラスさん」

 マルグリットは目を見開く。だが、不安な様子などなかった。彼女は信じることにした。

「それじゃあね」

「はい」

 ニコラスはツルカに小さく頭を下げると、説明しながら会場に向かうことにしていた。そこには他の模範生達も待機していた。

「……つか、あの前振りなんだってんですか。実は最初から思いついてたんじゃないですか」

「ねえ、ハルト君。なんでそういうこというの。僕、必死だったんだけど?本当にやばいと思ってたんだけど?」

「はい。そういうことにしておきますね」

「いや、本当だってば―」

 ニコラスはまたしてもハルトに絡まれていた。それを仲裁しているのは、マルグリットだ。

「……」

 きっと彼らなら本当にどうにかするのだろう。ツルカは眩しそうに彼らを見ていた。―たとえ、明日は敵に回る存在だとしても。

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