多忙だろうと寝不足だろうと彼は来る。
「すうすう……」
「お疲れだねぇ」
雨夜の中、ラムルが久々に訪れた。侵入口は封鎖も同然だったが、ラムルは元々のルートでやってきていた。ツルカの部屋に訪れた直後、魔力の残量を確認していた。
『……んだよ』
ニコラスによってほぼ満タンであった。そう、ツルカは魔力枯渇問題に悩まされることもない。ラムルにとっても望ましいことであったが、どこか面白くもなかった。
『……ま、いいけどな』
と言った途端、ラムルはすぐに落ちた。そのまま爆睡していた。ラムルが多忙だとは聞いていた。猫の姿だと普段通りだが、疲労が溜まっていることだろう。ツルカは時間が許す限り寝かせることにした。
「……卒業式だって。私、頑張るからね」
「卒業式……」
ラムルが言葉に反応した。起きたのかとツルカは思っていたが。
「う……。ティアラが、首飾りが、ピアスが……」
「ああ、なるほど」
ラムルの多忙の原因が判明した。プロム特需だった。前面には出ていないものの、ラムルの腕前は評判だったのだろう。期限ぎりぎりの依頼を断るということもなく、ラムルは奮闘していたようだ。
「はっ!今、何時だ!」
ラムルは飛び起きた。ツルカは今の時間を教えた。まだ、そこまで遅い時間ではない。
「お、おう。今から帰ればギリギリか。じゃ、俺は帰るぞ」
「うん、お疲れ様。無理はしないでほしいかな」
「そうしてぇけどな。今がかき入れ時なんだよ」
「だよね。気をつけて帰ってね」
ラムルは帰ってからも、仕事を続けるようだ。
「……そうだな」
ラムルはツルカを見ていた。何かを考えているようだ。それの答えはまだ見つけてないようで、呟いていた。
「そうだな、こいつの場合は。……あれか、あっちか。それか、いっそ全部か」
「どうしたの、ラムル」
「……なんでもねぇ。じゃあな!」
雨の中、ラムルはジャンプして帰っていった。ラムルもまた魔力を纏って、雨を弾かせていた。
「ジャンプは危ないなぁ。……なんだったんだろ」
ラムルの言動は謎のままだった。ツルカは彼の無事を祈ることにした。
「魔女会議のこと、言えなかった……」
側にいてくれた方が心強くもあったが、ツルカは今回は仕方ないと諦めることにした。