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だから、立派でなければならなかった。

「マルグリット先輩?いらっしゃいますか?」

 部屋に明かりはついてなかった。真っ暗な中、激しい雨の音と雷鳴の音が響く。また一つ、雷の音が響いた。

「きゃあ!」

「……?」

 今のはツルカの声ではない。となると―。

「先輩?」

 部屋の隅で丸まっているのは、マルグリットだった。雷の音に怯えきっており、窓に背を向けていた。ツルカはそっと近づいていく。

「え……。ツルカ・ラーデンさん……?」

「マルグリット先輩……?」

 振り返ったマルグリットと目が合った。彼女の目は泣き腫らしていた。ツルカが驚きのあまり瞬きをすると、マルグリットはハッとした。

「……失礼しました。突然の来訪に驚きもしましたが、何か御用でしょうか」

 マルグリットは表情を切り替えて、立ち上がった。姿勢も正していた。いつものマルグリットだ。

「ああ、部屋の明かりもつけておりませんでした。……ひゃっ!」

 いつもの鉄仮面であろうとするも、ところどころ雷に驚いていた。ツルカは思わず口にした。マルグリットの事実を。

「あの、雷って恐いですよね。私もそうですし、気にしなくても」

「いえ、どういったことでしょうか。私に恐れることなど―」

「マルグリット先輩」

 気丈であり、毅然とした態度で在り続ける。まさにそうだった。それでも、ツルカはマルグリットの手をとった。

「あなたは何を……」

 マルグリットはとても驚いていた。それでも、その手をのけることはしなかった。

「恐かったら手をぎゅっとしてください。私も小さい頃やってもらって、安心したんです」

「……怖いなどと」

 そうは言うも、触れられた手はそのままだ。

「とりあえず、床に座りませんか?」

「何を言うのです。……直座りなど」

「先輩、座っていたじゃないですか」

「……ご指摘ですか。ええ、まあ」

 マルグリットが地面に座ったので、ツルカもそうした。

「……やってもらった、ですか。親御さんにでしょうか」

「……」

 その通りだった。母親がよくしてくれたことだ。学園では天涯孤独になっていることもそうだが、何よりも目の前の彼女だ。マルグリットの前でその話をしていいのか。ツルカは考えあぐねいていたが。

「……はい、母にです。見た目派手だったんですけど、優しいお母さんでした」

「ええ、そうでしょうね。あなたは愛情を受けて育ったと思えましたから」

「嬉しいです」

 ツルカは微笑んだ。マルグリットもまた、目を腫らした顔で微かに笑っていた。

「……私の親の話でしたら、どうかお気になさらず。彼らは大罪を犯した。それに過ぎませんから」

「それは……」

 トラオムの民としてなら、そう考えるのは自然だった。たとえ、親だとしてもだ。

「ですが、時折考えてしまうのです。……何故、魔女だと騙ったのでしょう。そのようなことをしなければ」

 マルグリットはぽつりと言葉をもらした。

「……」

 ツルカには、鋭利な刃物の如く。―突き刺さる言葉だった。

「……忘れてください。今回の件もそうです。私が未熟だったからこそ、招いた事態でもあったのです」

「待ってください。マルグリット先輩のどこが未熟なのですか」

 ツルカは納得がいかないと反論した。

「気休めはおよしください。……私は、まだまだ未熟なのです。もっと、励まければ。もっと、立派でなくてはならないのです。私は、もっと―」

「マルグリット先輩」

 ツルカは見ていられなくなった。合わせるだけだった手を握り直した。マルグリットの目が大きく開かれる。それでもやめたりはしない。

「私はあなたに憧れています。どれだけ、みなさんに向き合ってこられたか。よくわかってます」

「……私は、魔女騙りの娘。それを黙っておりました。……あなたは疑われてばかりなのに、本当の嘘つきの私が疑われてこなかった。―それでも、私を許せるというのですか」

「……」

 ああ、なんて真っすぐな人だろうと。ツルカはそう思った。本物の魔女騙りがこうしているというのに。

「私のことはいいんです。……私は、魔女であると。そう潔白を主張し続けるだけですから」

「……あなたは、強いのですね」

「いいえ、強くなんかないです」

 強くなんてない。ただ、自分の為に。一部の大切な人達の為に。ツルカはそうしているに過ぎなかった。

「あなたはそうだとしても、皆さんは違います。私は、煙たがれてもきました。……ウォード先輩のように、温かく人を導いていけるわけでもない。こんな私が―」

「ええと、ウォード先輩ごめんなさい。―私は、マルグリット先輩がトップで良かったです」

 ウォードもまだ近くにいるだろう。聞こえているかはわからないが、それでもツルカは謝っておく。その上で伝えるのは、紛れもない本音だ。

「どれだけ私達のことを考えてくださったのか、わかってるんですよ?みなさん、表向きはああですけど、マルグリット先輩の力になりたいんです」

 ツルカは重なった手をさらに強く握った。心から訴えていた。

「真面目で厳しい。でも、優しくて仲間思い。私みたいな、すみっこにいる生徒のことまで気にしてくださって。誰よりも生徒を想っている先輩が、認められないわけがないんです」

「……」

 マルグリットはその手を拒みはしない。ただ黙って聞いていた。

「でもね、時には弱音も見せてほしいです。それは皆さんも同じこと。ウォード先輩だって、こうして心配されてるわけですし」

「私に弱音など」

「雷が怖いとか。弱音じゃなくても、何々が好きとか。そうしてくれたら嬉しいと思いますし、私可愛いなって思っちゃって」

「……可愛い?」

「……すみません、調子に乗りました」

「……いえ、そんなことは」

 マルグリットが拾ってきたので、ツルカは即謝罪しました。マルグリットは考え込んでいるようだった。

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