敗れていても、心は模範生。
模範生達の活動場所、公務室。学院長室の近くでもあった。階段を上り続けて、やっとたどり着いた。そこに至るまでは、薄暗い照明のみだった。とうに下校時間は過ぎている。
雷も鳴り続けていた。ツルカはびくつきながらも、廊下を歩いていく。
「!」
雷光によって照らされた大柄な人物。ツルカは何事かと目を見張るが、相手は知った人物だった。
「……こんばんは、ウォード先輩」
今年卒業することになる八回生の先輩。そして、―元第二模範生だった彼だ。
「君は確か……」
ツルカの姿を確認すると、彼は小さく笑った。自嘲気味でもあった。そう、ウォードは情けないところを見られたのだ。―ハルトに敗北し、打ちひしがれた姿を。
「その節はすみませんでした……」
体調の悪そうな彼を案じたことが、彼のプライドを傷つけることになってしまった。ツルカは改めて詫びていた。
「……いや、君は悪くないんだ。俺が、もっとちゃんとしてれば良かったんだ。ああ、今だってそうさ」
ウォードが見つめているのは、マルグリットがいるであろう部屋だった。
「俺はもう模範生ではない。だけど、気になってね。こうして訪れてみたけど。……マルグリットは気丈だったよ。毅然とした態度で、俺に心配すること何もないってね」
「はい……」
マルグリットもこの先輩を頼りにしていたのだろう。その上で、彼を追い返す形になったのだ。ウォードは力になれなかったのと肩を落としていた。
「……はは、こうしてまだいるわけだ。帰るに帰れなくてね」
そうして、ウォードは泣きそうに笑っていた。
「……ああ、すまない。君もマルグリットに会いに来たのかな」
「はい」
「そうか……。力になってくれるなら、嬉しいよ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ……」
模範生から外れた今でも、ウォードにとっては可愛い後輩のようだった。一方のマルグリットはどこまでも頑なだった。どこまで寄り添えるかはツルカにはわからない。それでも、部屋の扉を叩くことにした。
「……?」
部屋から返事がない。マルグリットが不在ということもないだろうに。
「失礼しますね?それでは」
ウォードに会釈して、ツルカはそっと扉を開けることにした。パタンと扉は閉じられた。