かたったのが、いけなかった。
そうした混乱が続く中、ラムルを止めようとするツルカ。彼が人を救っているのはわかる。だが、様子が明らかにおかしい。困り果てていたその時であった。
「―我ら学徒に休みなどないってね」
漆黒の黒いガウンに赤いバラの刺繍が映える。先ほどツルカ達に道を譲ってくれた青年が颯爽と姿を現した。
「さあ行こうか。我が学院の誇りにかけて」
「おお、あの方は―」
「こ、これで一安心だぞ!」
事態を受け入れられなかった彼らだったが、次々と安心し始める。彼が何者なのか理解し、納得できたからだ。
「さあ、皆様。私が出来ることにも限りがあります。これから私はクラーニビ様の守護にあたります。ですが、魔力をお持ちの同志の皆様にお願いがあります。何卒ご助力を」
生まれ持ったカリスマ性なのか、あっという間に人々を安心させ、そして魔力を持つ者達を集結させた。この場はあの青年に任せておけば大丈夫だろう。
「ねえ、あのお兄さんにおまかせしようよ」
結局あの青年の手柄になったようだが、それはそれでよかった。下手に目立つのはまずい。ラムルも少しは冷静になってくれるかと思ったのだが。
「そうか、あいつがやったことになったのか」
「そうだね……でもね。ちゃんと手助けしたこと、わたし」
ラムルは遠くを見たままだ。そんな彼に、せめてとツルカは伝えたかった。自分だけでも、ラムルの頑張りはわかっているのだと。
彼はやはりどこかおかしい。いつもの彼に戻って欲しかったのだ。
「ちょうどいい。ならやりたい放題ってことか!」
「!?」
かえって好都合だ、とまた魔力を使おうとしていた。鬱憤が溜まっていたのもあるだろうが、彼自身、この残酷そうに相当腹が煮えていたようだ。
「だめだ!」
「……は?」
ツルカは必死に彼の腕をつかんだ。そのことにラムルは睨みつけるが、それでもツルカは退かない。
「だめだって……」
だが本調子ではない彼女の力は弱まっていく。ただでさえショッキングな光景も目にしてしまったのだ。それでもここで彼を止めなければ、彼は心のままに魔力を暴走させるだろう。
「わたし、魔女を語らない。言うこと聞くから。だからお願い。今だけでいい。わたしの言うこと聞いて」
「……お前」
改めてツルカを見る。彼女は震えていた。彼女を怖がらせていた一因でもあると、ラムルはようやく気がついた。ラムルは一息ついた。そしてそのまま深呼吸する。
「……言うじゃないか。まあ、確かに不公平だな」
「うん……」
歓声が一段と増す。賊が辿り着いたのは処刑台だった。そして亡骸の近くでひざまずく。無防備な背中を数多の魔力や武力が貫く。だた、彼はもう逃げることなどなく、その場に留まっていた。
「遅れてすまなかった。私も君を……」
賊、いや妻を愛していた夫はその場でこと切れた。そこに救いなどない。
「……離れるぞ」
「う、うん!」
もうここにいる意味がない。騒ぎが続いている内に、二人はようやく離れることができた。
「あ……」
ツルカが去り際に見たのは、祈りを捧げるクラーニビの姿。彼女から湧き出る白い光が広場を包み込み、そして癒していく。
「……」
その光景にツルカは目を奪われてならなかった。