魔女騙りの娘。
「……はあ」
ツルカは気になってろくに眠れなかった。テスト勉強も集中できずにいた。寝不足ながらも、朝は待ってはくれない。雨が降る中、登校することにした。
「ねえ、聞いた?例の件」
早速噂話になっているようだ。学院長はどうしたものかと、ツルカは疎ましく思っていた。もっと内密に進めることもできたのではないかと。
「よくも、しれっと第一席にいたものね」
「ほんとだな。……マルグリットの奴、俺達を騙してたんだ」
噂をする彼らは誰しも悪態をついていた。しかも呼び捨てとまできた。
「―自分の親が魔女騙りだったなんてな」
「!」
ツルカは衝撃が走った。マルグリットの親が魔女詐称罪を犯していたのだという。そうなると、おそらくマルグリットの親は―。
「ほら、あの子。魔女会議の……」
「ああー、なるほどなぁ」
登校途中のツルカも目をつけられていた。常に疑惑がつきまとうツルカに向けて、悪意がまとわりつく。
「……あの子の魔女会議の時も、そうだったんじゃない」
「まあ、そうだよな。魔女会議での体たらくを見たらなぁ」
体たらくとはどういうことか。ツルカは彼らの方を見た。思った以上にキツい目つきになっていたかもしれない。
「お、なんだよ。そっちはそのおかげで助かってるんだろ。―マルグリットが、保留派とか生温いこと言ってるから!」
「!」
確かにマルグリットは保留派である。だが、それはトップとして公明正大でいようとしているから。そう思われていたが。
『私は最後に述べさせていただきます。ハルトさん、お願いします。なんでしたら、カタリーナのように保留でも構いませんよ。……どちらにせよ、私の意見で答えがでるでしょうから』
これは最初の魔女会議のこと。横やりが入ったこともあり、マルグリットの答えはわからずじまい、また、彼女自身も述べることはなかった。
『私は、保留ということでお願いします。肯定、否定。どちらも決定打に欠ける。……ええ、そうした理由からです』
どこまでも、肯定もせず否定もせず。中立であり続けようとしていた。ツルカは気づく。マルグリットが問題視されているのは、―魔女会議での在り方だと。
それは同じ保留派の彼らにも言えること、ただ、マルグリットだからこそ言われている節もあった。日頃あれだけ規律正しく、物言いもハッキリとした彼女だからだ。期待されていた、信頼されていたからこその落差、失望されたともいえた。
「……」
ツルカは胸が痛かった。自分の魔女会議がきっかけになったようなものだ。そのことで、マルグリットが嫌な注目をされ、明るみに出てしまったのだ。
「……忘れてませんか。私の魔女会議、提案者はマルグリット先輩ですよ」
ただ黙ってはいられなかった。ツルカにとっては、尊敬すべき先輩のままだ。針のむしろであってもだ。
「私はですが、マルグリット先輩は公平に見てくださっていると思ってます。もちろん私も疑われないよう、ちゃんとするべきですよね。失礼します」
ツルカは頭を下げると、急ぎ足で去っていた。向かう場所は、―あの男のところだ。面白ければ洗いざらい話してくれそうな、あの男の元へ急ぐことにした。