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ラムルに仕えし者。

「うむ。殊勝なものじゃ」

 ビゼルも満足そうにしていた。置いてかれた感があったラムルは、紹介の続きをする。

「改めてな。こいつはビゼル。俺に仕えている巫女で、フルムの神殿の神職でもある」

「ビゼルさんは、巫女さんなんだ」

「武力に全振りだけどな」

「それは、うん」

 随分と武闘派な巫女だった。ラムルがハッキリと思っていたことを言ってくれた。

「お言葉でございますが、ラムル様。わらわは諜報にも長けておりますゆえ」

「あー、悪かった。なんだ、帰りか」

「はっ。各方面探っておりましたところ、締まりのない顔のラムル様がおられました。女子を連れ立っておりましたゆえ。こちらも只事ではないと」

「誰が締まりのない顔だ!」

「無自覚とは。わらわは恐ろしゅうございます……」

 ムキになるラムルを、ビゼルは嘆きで返していた。

「あー……。とにかくだ。俺はこいつを送っていくんだ。お前も家に帰れよ」

「はっ。命にございますれば」

 ビゼルは命じられるまま、二人から去ろうとしていた。去り際に、ツルカの横を通り過ぎる。

「……ツルカ殿。おぬしのことは『色々』と聞いておる。同胞達からじゃ」

「ビゼルさん……」

 フルムの同胞達からだろう。彼らともまた、ツルカは色々あった。ラムルを危ない目に遭わせてしまった時、彼らからも目撃されているのだ。その後に和解はしたものの、事実としては残り続けている。

「おぬしとラムル様の関係、わらわから申すものでもない。じゃがな、ラムル様の身に危険が及ぼうものなら。―あの方を連れ戻そうとは思うておる」

「!」

「わらわに限らず。同胞達の総意じゃ。心せい」

 ビゼルから鋭い目を向けられていた。ビゼル、いや、ビゼル達は本気だった。

「はい、覚悟してます」

「その言葉に偽りがない、そう信じておるぞ」

 ビゼルの目は和らいだものの、品定めする姿勢は変わってはいない。ラムルの気持ちを考えて、側にいることは容認はしてくれている。それでもラムルを案ずる気持ちもまた、本物だ。次にラムルに危機が迫った時。―フルムに連れ戻す気だった。

「気が引き締まります」

 改めてフルム人からラムルへの想いを知らしめられた。ツルカは緊張した面持ちとなった。

「……おい、ビゼル。なんの話してんだ」

 ラムルは良くない話ということは想像ついた。そうでなければ、堂々と話しているともいえた。

「ええ、申しましょうぞ。わらわは釘をさしたまでです。わらわはラムル様に仕える者。そして、姉代わりでもございます」

「おい、ビゼル。それ以上言うなよ」

 ビゼルがそう言うと、ラムルが何故か慌てだしていた。

「いえ、申しましょうぞ。ラムル様が赤子の時に、おしめを変えたことも―」

「いや、本当にやめろ!つか、それ絶対嘘だろ。お前がいくら年上だからって、そっちも小さかっただろ?」

「誠でございますれば」

 ラムルが嫌がっていたので、ビゼルはこのくらいにしたようだ。ビゼル当人はしれっとしていた。

「え、ちょっと待って」

 ツルカはツルカで混乱していた。ラムルの面倒を見ていた。つまり、このビゼルは自分達より年上だということだ。

「……ああ、ビゼルな。今年で十九になる、年上だ。あとな、さっきのはあれだ!こいつの嘘だからな、信じるなよ!」

「誠でございますれば」

 ラムルにとってはたまったものではなかった。ビゼルはまだ言っていた。

「あー……、なるほど」

 ツルカはひっかかりがスッキリした。あの当時からそこまで変わってなさそうなのはさておき、ビゼルは年上だったのだ。ならばと、ビゼルに話しかけた。

「ええと、年上の人なんですよね?その点はわかりました」

「ツルカ殿よ、わらわにそのような気遣いは不要じゃ。ラムル様にはそうでなく、わらわには改まるとなると、いささか不釣り合いと言えるのじゃ」

 ツルカはそのまま敬語でいこうとしたところで、ビゼルからストップが入った。ビゼルとしては主より自分が敬われているようで、望ましくないようだった。

「……ええと、敬語はいらないということですか?」

「端的に言えばそうじゃ」

「うん、わかった。さん付けはそのままでもいい?」

「まあ、かまわぬ。―では、ラムル様。御前、失礼させていただきまする」

 話がまとまったようなので、今度こそ解散になるようだ。

「わかった。気をつけて帰れよ」

「ご配慮痛み入りまする」

 丁重に頭を下げたビゼルは、すっと姿を消した。闇に溶け込むかのようだった。

「……本当に急なんだよ、あいつは」

「うん、びっくりはした。でも、ラムルのこと大事に思ってるんだよね」

「大事っつうか、なんつうか。……で、だ。お前、本当にあいつに何か言われてはないのか」

 ラムルはまだ気にしているようだ。

「……」

『じゃがな、ラムル様の身に危険が及ぼうものなら。―あの方を連れ戻そうとは思うておる』

 そこにあるのはラムルへの純粋な好意や崇拝の心。

「ううん、言われてないよ」

「そうか」

 ツルカは言うまでもないと、にこりと笑った。ラムルは納得してはいなくとも、それ以上はなかった。

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