表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/167

ラムルんち①

 華やかな都の通りから外れると、寂びれた裏路地となる。度々見かけるのは、ラムルと同じフルム人や、さらに他の国の人間達だ。

「大人しくしとけば、絡まれはしないから」

「うん」

 二人連れの彼らに好奇の眼差しは向けられていても、直接絡まれることはなかった。それにツルカは不安ということもない。

「それにほら、ラムルもいてくれるし」

 隣にラムルがいてくれる。それだけで安心ができたのだ。

「……そうか」

 隣のラムルも彼女からの底なしの信頼感、安心しきっている様子が伝わっていた。ラムルは満更でもないが、一方で別の思いもあった。

「……信頼、損ねるなよ。俺」


 ラムルが借りている一室は、最低限の間取りだった。床は磨き上げられており、清掃が行き届いていた。彼の置いているのも生活に必需なものくらいであった。ツルカの脳裏にミリマリストという言葉が浮かんだ。

「風呂は別に入らなくていい。とにかく着替えるくらいはしとけ。置いておくから」

 ツルカを部屋に上がらせると、風呂場を教えた。彼の服とタオルも出して、ツルカに渡した。

「うん、色々とありがと―」

 見上げていたツルカの視線が、下に向いた。―そこにいたのは茶トラの猫だった。

「あれれ、猫ちゃん!」

 ツルカにとってはおなじみの猫ちゃんだ。彼女が抱き上げようとするが、猫はひらりかわした。シンプルなベッドの上に飛び乗っていった。

「猫ちゃん、じゃねえんだよ。こっちは必死だっつの」

「ええー……」

 猫から低い青年の声がした。この猫の正体はラムルだ。フルム人の秘術で猫の姿になれる。彼は必死だった。ツルカの信頼を裏切らないようにと、苦肉の策だったのだ。ええー、じゃないとも言っていた。

「ほら、さっさと着替えてこい」

「はーい」

 ツルカは風呂場を借りて着替えることにした。

「……」

 一人になった今、ツルカは現状を確認する。

「い、いつもと変わらない。いつもと変わらない。私の部屋にだって、しょっちゅう来てるんだし。ラムルの部屋になったってだけで―」

 くしゅんとまたクシャミをした。いつまでもこの恰好にいるわけにはいかない。

「……」

 今これからしようとしていること。ツルカは服を脱いで、そして彼の服を着るということ。そこからプラスしてお風呂に入る、そこまでの度胸はなかった。ツルカは自分のシャツに触れようとするが。

「わ、私というやつは……!」

 今になってツルカは気づいた。彼女は自身に絶望しながらも、服だけ脱いで下着のみとなった。浴槽のフチにかけられたのは、『ツルカ』の私服だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ