ラムルんち①
華やかな都の通りから外れると、寂びれた裏路地となる。度々見かけるのは、ラムルと同じフルム人や、さらに他の国の人間達だ。
「大人しくしとけば、絡まれはしないから」
「うん」
二人連れの彼らに好奇の眼差しは向けられていても、直接絡まれることはなかった。それにツルカは不安ということもない。
「それにほら、ラムルもいてくれるし」
隣にラムルがいてくれる。それだけで安心ができたのだ。
「……そうか」
隣のラムルも彼女からの底なしの信頼感、安心しきっている様子が伝わっていた。ラムルは満更でもないが、一方で別の思いもあった。
「……信頼、損ねるなよ。俺」
ラムルが借りている一室は、最低限の間取りだった。床は磨き上げられており、清掃が行き届いていた。彼の置いているのも生活に必需なものくらいであった。ツルカの脳裏にミリマリストという言葉が浮かんだ。
「風呂は別に入らなくていい。とにかく着替えるくらいはしとけ。置いておくから」
ツルカを部屋に上がらせると、風呂場を教えた。彼の服とタオルも出して、ツルカに渡した。
「うん、色々とありがと―」
見上げていたツルカの視線が、下に向いた。―そこにいたのは茶トラの猫だった。
「あれれ、猫ちゃん!」
ツルカにとってはおなじみの猫ちゃんだ。彼女が抱き上げようとするが、猫はひらりかわした。シンプルなベッドの上に飛び乗っていった。
「猫ちゃん、じゃねえんだよ。こっちは必死だっつの」
「ええー……」
猫から低い青年の声がした。この猫の正体はラムルだ。フルム人の秘術で猫の姿になれる。彼は必死だった。ツルカの信頼を裏切らないようにと、苦肉の策だったのだ。ええー、じゃないとも言っていた。
「ほら、さっさと着替えてこい」
「はーい」
ツルカは風呂場を借りて着替えることにした。
「……」
一人になった今、ツルカは現状を確認する。
「い、いつもと変わらない。いつもと変わらない。私の部屋にだって、しょっちゅう来てるんだし。ラムルの部屋になったってだけで―」
くしゅんとまたクシャミをした。いつまでもこの恰好にいるわけにはいかない。
「……」
今これからしようとしていること。ツルカは服を脱いで、そして彼の服を着るということ。そこからプラスしてお風呂に入る、そこまでの度胸はなかった。ツルカは自分のシャツに触れようとするが。
「わ、私というやつは……!」
今になってツルカは気づいた。彼女は自身に絶望しながらも、服だけ脱いで下着のみとなった。浴槽のフチにかけられたのは、『ツルカ』の私服だった。