騒がしい三人組。
「……よっし!なんか景気づけしとくか!ニコラス、お前の部屋になんかないのか?」
「えー、いきなり言われても。てか、なんで僕の部屋?」
「いや、ツルカの部屋に期待しろってか?」
「えー、そういうこというの……」
失礼なことを言ってくる猫に、ニコラスは乾いた笑いを返した。ツルカはイラっとした。
「ラムルめぇ……。そんなこというならね、購買部で爆買いしてやるんだから」
「お前。浪費癖でもついたのか。それはまずいぞ。ああ、まずいまずい」
「くううううう」
これは心配など全くしていない。おちょくる気満々だった。ツルカはますますイラっとしてきた。
「ラムル君さぁ……。常時デレにでもしとかないと。まずいのは君だよ?」
ニコラスは見ていられなくなったのか、猫に合わせてしゃがんだ。ラムルの威嚇に慄きはするも、助言を始めた。
「だって、カイウス王子。あ、カイさんだっけ。転入されたし」
「……は?あいつ一時帰国だったんじゃ。俺、聞いてねえけど」
ラムルは仕事詰めなのもあった。巷では噂にはなっていたが、ラムルまで届いてなかったのだろう。
「ハルト君だって、やたらとちょっかいかけてるじゃん」
「ハルトって、あいつか。なあ、なんなんだよ。あいつ、お前のなんなんだよ!いや、待て。カイウス王子、カイなんだろ。聞いてないぞ」
話が混線してきた。ニコラスもラムルに助言していたはずが、いつしか。
「……つか、ハルト君怖いんだけど。舌打ちとかしてきたんだけど!なんで?ねえ、ツルカちゃんなんで?初対面の時、普通ににこやかだったし。ねえ、なんでなんで?僕、ずっと一緒にやってかなきゃなんないんだけど!?」
半泣き状態でツルカに助言を求めていた。
「……すみません。ハルト君の外面の件は、私も知りたいくらいです」
ツルカが遠い目をしていたら、ラムルが割り込んできた。
「おい、ハルトって奴もだけどな。カイのこと、なんなんだよ。あいつアレだろ、お前を……」
「そっちも知らないってば……。なにがアレかもわからないし」
「なんなんだよ、お前の周りはよ……」
ラムルは両前足をついて、項垂れた。ニコラスは彼の苦悩と苦労を慮った。
「……ごめんね、ラムル君。せめて僕は傍観者でいるからね。頑張ってとしか」
ニコラスが労うように猫の姿を撫でた。猫はシャーっと毛を逆立てた。ニコラスは涙を一粒こぼした。
「……私は全然ですって。学院での誘いとかもなく、それはそれは寂しい学生生活です」
「こいつもわりと根に持つんだよな」
いつぞやの猫に言われたこと、ツルカとて忘れはしていない。
「おモテになるのは、ニコラス先輩の方ですよー?」
ツルカは思い出し笑いをしてしまった。あのわかりやすい王女のことだ。
「え、誰。そんな奇特な人物、実在しているの?」
「奇特は言い過ぎですよ。ご本人にバレたら、まずいですよ」
「またまたぁ、三次元には存在してないでしょー」
「本当に先輩モテますって。本当です。私の周りでも、ちらほら噂になってるんですよ」
「……うわぁ。あの模範生キモイウザイだ、それ」
「違いますって!」
明るさを取り戻しているニコラスと、話し好きのツルカ。
「騒々しいなぁ、おい!」
声がでかくて威圧的な猫。この三人は今後もよくつるむようになる。
彼らは賑やかになっていた。たまに怒ったりもして、でもやっぱり。たくさん笑い合っていた。
初夏も過ぎて、雨季が訪れようとしていた。それを越えたら今年の卒業式だ。
ツルカ自身はまだ、卒業ではない。それでも、いつかは訪れる卒業の時。それを信じて。
ツルカ・ラーデンは今日も騙り続ける。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
こちらで一区切りとなります。
またお会いできる日を楽しみにしております。