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タイトル未定2024/05/20 11:49

 ツルカもニコラスもお互い忙しい日々を送っていた。主なのは、やはり学院からの課題だった。そんな状況下でニコラスから提案されたのは、休日の約束だった。ラムルも交えてとのことだった。

 ツルカは仕事に復帰したので、夕方以降の参加になってしまう。それでもニコラスは快諾してくれた。ツルカもそうだが、ニコラスも積もる話があった。


 学生達が学業に追われ、迎えたのは休日。仕事に追われたツルカが迎えたのが、楽しみにしていた夕ご飯。ニコラス達との約束だった。場所はラムル愛用の肉屋だった。

「やあ、お待たせ」

「ニコラス先輩」

 仕事あがりのツルカに続いて、ニコラスも店の前にやってきた。

「……」

「……」

 お互いが多忙なこともあり、まともに会話するのは久々だった。魔女会議の件もあって、どこから話していいのか。二人は迷っていた。しばらくして話し始めたのはニコラスからだ。

「ラムル君さ、大丈夫だった?」

「あ、はい。実は、ここのところラムル来られなくて。さっき、職場に顔出したら、いたにはいので。声だけかけておきました」

 そう、ラムルは一日仕事は休めたものの、それ以降はやってくることはなかった。ラムルに何かあったかと思ったが、訪れたことで判明したことがある。

 この二人も多忙だったが、ラムルはさらに多忙だった。仕事量が増えていたのだ。

「ラムル君来られないパターンあるか」

「そうですね……。テイクアウトにしましょうか」

 仕事に勤しむラムル抜きで楽しむのは気が引けた。そうした方向で話がまとまりかけたところ。

「……悪い、遅れた。長引いたのと、服も替えてきたから」

 息切れをしながら、ラムルがやってきた。肉の匂いをつけられないと、着替えまでもしてきた。職場と借家の間、そしてここまでのダッシュ。人前では大っぴらには魔法も使えない。ラムルは全力疾走してきたのだ。

「ツルカ」

 そんなことよりと、ラムルはツルカを見た。

「あ」

 ラムルが目配せをしてきた。今日まで来られなかったこともあり、魔力を補給したかったようだ。ニコラスの目を盗んで、最悪帰り際にでも補給が出来れば良い。

「……もう、気にしなくてもいいんだけどな」

 ぼそっと言ったのはニコラスだ。ツルカとラムルはどういうことかと目を向けた。ニコラスはニコニコしていただけだった。


「おやぁ、ラムルちゃん!また来てくれたんだね!お友達もいらっしゃい」

 店内に入ると陽気な主人が挨拶をしてくれた。ツルカ達も挨拶し返した。夕食の時間でもあって、満席に近かったがどうにか座ることはできた。

「今日はね、僕のおごり!好きなもの、ばんばん頼んじゃって!」

 ニコラスが胸を叩いた。二人にメニュー表を開いて、端から端まででもいいよと言っている。

「そんな悪いですよ!むしろ私が奢りたいくらいです!」

「……それはおいといて、ニコラスが奢ることもねぇよ」

 ツルカはニコラスに感謝していた。

 ラムルもそうだ。魔女会議後の寝落ちで時間がなかった為、ざっとではあるももの。ラムルも話は聞いている。感謝すべきはこちら側だと。

「遠慮しないで。明日、印税入るからさ。貯金もあるし、パーッと使えるから」

「印税ですか?」

「あれ、言ってなかった?偽名だけど、僕、本出しているんだ」

 ニコラスはひそひそ声で話してきた。この喧噪の中ならば通用した。

「そうなんですか、すごいですね。どんなジャンルとか―」

 作家さんだ、とツルカは目を輝かせた。ニコラスも気分良くして答える。

「あ、聞いちゃう?そりゃ、イーリス様考察本とか、イーリス様詩集とか、イーリス様イラスト集とか―」

「スゴイデスネ」

 ツルカは困ってしまった。ニコラスがすごいのは本当のことだが、イーリス様の話題で今日が終わってしまう勢いだった。ニコラスの目はバキバキだったのだ。

「まあ、お前がイーリス様が好きなのはわかった」

「好きとか!というか、イーリス様ガチ勢というか……」

「それはわかる。お前の部屋見ればな。特にあのフィギュア軍団とかな。ああいうの、高いんだろ。真ん中のとか特にすげぇだろ」

「うん、とてつもなく高かったです。しっかりと請求されました」

 ニコラスは死んだ目をしていた。あの模範生は決してくれたわけではない。立て替えてくれただけだったのだ。

「お前……。人に使ってる場合か。印税とかも明日なんだろ」

「それはそれだよー。僕もここらでパーッと使いたんだよ。君達は違うのかい?たまにはいいじゃないか!たまには贅沢したって!」

「!」

「!」

 ツルカもラムルも、その言葉に感銘を受けた。そうだ、たまにはいいだろう。三人は頷き合った。

 さすがにメニューを端から端まで頼むことはなかった。なんだかんだで理性という名のぶレーキもかかった。それでも、三人は食べるだけ食べた。

「ああ、デザートだぁ……。頼むの何年ぶりだろぉ……」

「高い肉って、やっぱそれだけのことはあるんだよな……」

「もう草ばかりの毎日は嫌だぁ!やっぱ、お肉だよお肉!」

 三者三葉に楽しんでいた。食事を終える頃には、満足感に満ちた満腹感となっていた。


「あー、美味しかった。ごちそうさまでした!」

 割り勘ということで、三人は会計を終えて店を出た。ツルカは伸びをしたあと、おなかをさすった。

「楽しかった。……ニコラス先輩」 

 実に楽しい時間だったが、大事な話は終わっていなかった。

「この後、お時間ありますか」

「うん。僕もそのつもりだった」

 今日の本題といってもよかった。ニコラスも承諾した。

「どっちかの部屋か?俺もいくからな」

 ラムルは器用に猫の姿となった。もちろん、とツルカも抱え上げた。ラムルは体を預けるついでに、ツルカに尋ねる。

「……場所、どうするかだよな。聞かれてもまずくない場所。俺達みたいに言葉使い分けるのもな」

「うん……。ニコラス先輩、語学ペラペラそうだけど。それはそれでね」

 ニコラスもそうだが、ラムルもだ。出逢った頃、ラムルはいくつもの言語を使ってきた。彼自身もどうしてそれだけ使えるかは謎である。二人の語学力はさておき、ツルカが使える言語とかみ合わなければ、そこまでだった。

「そっか、話す場所か。……うん、行こう。学院内だから」

 ニコラスの提案を受け、彼らは学院へ戻ることとなった。



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