表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/167

魔女会議ニコラス編、決着。

「……」

 ツルカを信じたから保留ということはない。決め手がないから保留だった。マルグリット達もそう言っていたことだ。だとしても、ツルカにはこれ以上は望めない結果だ。

 保留でもあっても、ツルカの命綱には変わりない。模範生誰しもが、ツルカ・ラーデンを魔女とは認めてないのだとしても―。

 ガタン、と音がした。倒れたのは椅子だった。勢い任せで立ち上がったのは。

「ツ、ツ、ツルカ・ラーデンは!……魔女です!」

 会議室に声が響き渡る。席を立ち、前を向いて言い放ったのは。

「僕はそう思います!」

―ニコラスだった。

「……」

 ツルカは言葉にはできなかった。この感情を、この思いを。どう表せられるのか。

「……」

 他の模範生達も絶句していた。今、雄弁に語っているのはニコラスだけだ。

「父がどうとか、彼女を庇っているとか関係ない。偏見の目で見たりもしない。……僕が!彼女と向き合って。彼女の在り方を見てきたんだ!そんな彼女が魔女だと主張するのなら、僕は信じたい!」

 模範生達に向けて。自分やツルカにかかる疑惑を振り払うかのように。

「僕は彼女を肯定する」

 ニコラスは主張した。静まり返った会議室で、ニコラスの主張は響いた。

「マルグリットさん。四対三だよね?」

 ニコラスは模範生のトップに話を振った。珍しく呆けていたマルグリットは反応が遅れるも、応じた。

「……はい。過半数は超えておりますね。ツルカ・ラーデンさん。―此度の魔女会議はこれにて、終了となります。お付き合いくださり、ありがとうございました」

「……はい、ありがとうございました!」

 ツルカは実感がわかないが、今回も乗り切ることはできたということか。

「では、解散です。皆さんもお疲れ様でした」

 マルグリットが手を叩くと、模範生達は続々と席を立ち始めた。

「偏見かー。あー、ニコに言われちゃったなー。でもアンタに疑惑はあるのは、まんまだから」

「そうもなるよね?君が怪しすぎるのは変わりないからね」

 反対派は反対派のまま、退室していった。

「……結局、身内からは逃げらんねえのによォ。あいつの親父だって、このままにはしねぇだろが」

 彼は横やりを入れてきた模範生だ。彼にしては思い詰めた表情だった。

「……お、問題児か。オメーも忘れんなよォ。ずっと疑われたままなんだからよォ」

「はい、承知してます」

「はっ!大した度胸だなァ、オイ!」

 彼は大笑いしながら部屋を出ていった。

「あたくしも失礼させていただくわ」

 ツルカの横を通り過ぎたのは、カタリーナだった。彼女の表情もまた、気になるものだった。

「ごめんなさいね。あたくし、お話する気分ではないの」

「は、はい。お疲れ様でした……」

「ええ。それでは」

 カタリーナもまた去っていった。

「……はあ」

 次々と模範生達が退室していく。部屋に残る数は限られてきた。溜息をついたハルトは着席したままだ。頬杖をついて、思いに耽っているようだ。

「魔女です、だってさ」

 ハルトは、ツルカとニコラスを交互に見ていた。そして、また溜息。その繰り返しだった。

「……何も知らないくせに」

「!」

 ツルカはギョッとした。確かに事情を知っているのはハルトの方だ。表面上、ニコラスは知らないで肯定派に回った。そう認識されていた。

 ニコラスがリハーサルの日、決め手になる現場に立ち会っていた。だが、そのやりとりはこの当事者二人しかわからない。そのニコラスが決して詳細は話さなかった。

 ニコラスが結局、あの出来事は詳しくは知らないで通した。彼女の行い、振る舞いを見てきたから、信じた。そのニコラスの主張に煙に巻かれたようなものだった。

「……ハルト君。僕は確かにそうだね。もしかしたら、リハーサルのあの時、彼女に問い詰めていれば、違ったかもしれない」

「!?」

 今度はニコラスにもギョッとした。あの時、ニコラスは問い詰めていたではないか。ニコラスは堂々と嘘をついていた。

「……は?」

「!」

 先輩相手にもハルトは威圧してきた。

「ひっ!」

 ビビるのはいつものニコラスだ。リア充こわいリア充こわいと連呼している。

「ああ、こわいこわい……。ツルカちゃんの周りは怖い男子ばかりだ。……ともかく、僕は言ったよね。彼女のことを見てきたからって。彼女を信じたいって」

「……」

「誰だって、否定なんてされたくないよ。僕だってそうだ。ちゃんと肯定したい」

 ハルトを怖がりつつも、ニコラスは言葉を向けていた。

「ちっ」

 ハルトが舌打ちすると、また竦み上がっていはいたが。

「……おもしろくない。くっそ、つまんな」

 ハルトも立ち上がった。不機嫌な表情はそのままだが、挨拶だけはちゃんとする。

「……あー、居座ってすみません。オレも帰ります。お疲れ様でした」

 最低限の挨拶をして、ハルトも会議室をあとにしようとした。

「お前もお疲れ。……オレも、色々と考えるわ」

 ツルカを横目でだけ見て、ハルトも去っていった。

「―お話は以上でよろしいでしょうか。ニコラスさん、あなたにご確認したい事があります」

「え、なんだろ」

「まずは。……私情は入れられていませんか?」

 マルグリットは端的に聞いてきた。ニコラスは面を食らうも答える。

「いつも、ストレートなんだよなぁ。仲良くしてくれてるし、そうしたくもなるけど。―魔女会議だよ。僕だって真剣に考えた上での答えだ」

「……失礼しました」

 ニコラスのまっすぐな答えに、マルグリットも今は納得するしかなかった。

「ニコラス先輩……」

 ツルカはツルカでハラハラしてばかりだった。一刻も早く、ニコラスと話がしたかった。それなのに、中々二人になることはない。あまつさえ、マルグリットはまだ話があるようだった。

「もう一つです。ニコラスさん、学業復帰ということでお間違いないですね」

「……あ、うん。僕は明日から、ちゃんと通うから。色々ご迷惑をかけました」

「いえ、あなたが立ち直ってくださったのなら。我々も感無量です」

「マルグリットさん……」

 マルグリットは迎え入れてくれた。ニコラスも感動するが。

「―では、復学に向けて。空白の期間もあります。その間にも新たに取り入れた様式。新たな魔道具の扱い」

「うっ」

「たまりにたまった課題。あなたが不得手な治療魔法学の試験も控えています。他にも模範生としての業務も増えております」

「ううっ」

「本日中に詰め込めるよう、お互い頑張りましょう。いえ、あなたの頑張り次第でありますね。寮の広間で行いますからね。私が納得いくまでは、自室に戻れるとは思われませんよう」

「うううっ!」

 ブランクというブランクがニコラスに振りかかった。彼は頭を抱えたまま、呻き続けていた。

「ああ、ツルカ・ラーデンさん。気を遣われていたならばすみません。退室していただいて結構ですよ」

「はい。お疲れ様でした!」

 急に話を振られたが、この分だとニコラスと話せそうもない。ツルカは大人しく自室に戻ることにした。あの心配性の猫も待ってくれている。

「ええ、本当にお疲れ様でした」

「マルグリット先輩……」

 マルグリットが向けてくれたのは、労いの表情だ。ニコラスへの奮闘を見守り、助力もしてくれたマルグリットだ。

「……うん、ありがとうね。ツルカちゃん」

 ニコラスも笑顔を見せた。その後、マルグリットに連行されてしまったが。

「へへ……」

 こうして無事、会議を乗り切ることは出来たのだ。ツルカはお辞儀をして、退室した。

 本校舎を出ると、太陽が頂点に上っていた。お昼時とあって、生徒達は昼食をとっているだろう。

 日差しの眩しさに、ツルカは目を薄めた。季節はもう、初夏を過ぎようとしていた。

「……来たか」

 ツルカの前に着地したのは、おなじみの猫だ。

「その顔は、乗り切ったんだな」

「うん!」

 ツルカはとびきりの笑顔を見せた。ラムルも頷いた。

「……はあ、呑気に笑いやがって。っと!」

「わあっ」

 ラムルからツルカの腕に飛び込んできた。猫はすっぽりと収まる。

「といってもね、今回は、こう。あまり私がどうこうとかじゃなくて」

 今回はどちらかというと、模範生達のドタバタ。そして、ニコラスの一声があった。それに尽きた。

「いや、元はお前がどうこうだろ……」

「うん、それもそうだね……」

「話は聞きたい、聞きたいんだけどな……」

 ラムルは腕の中でうとうとしていた。やたらと眠そうだった。それもそのはず。

「ほとんど寝てないんだよ……」

「うん」

「つうことで、夜になったら起こせ。さすがに帰る……」

「うん、おやすみ」

 どこまでも心配性な猫はそうだった。ツルカが背中を撫でると、猫は寝息を立てて熟睡していた。ツルカも共に昼寝をすることにした。色々と疲れていた。

「うん、帰ろうか」

 日差しが強い、そう感じられる。ツルカは生きている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ