保留でいいんだ。それ以上は贅沢だ。
「……あたくしは」
「カタリーナ、いかがでしょうか」
保留派のカタリーナの番だ。
「……ひとまずは、だけれど。あたくしも保留かしらね。マルグリットと同じ理由よ。あたくしは、いたずらに命を無碍にはしたくない」
「……」
私情を挟まずにそう判断してくれた。カタリーナへの感謝と共に、ツルカは尊敬せずにはいられなかった。
「おいおい、お姫様よォ。王族としちゃァ、随分とお優しいじゃねえかァ?」
またこの男だ。茶々を入れてきた。とことん横やりをいれてくる。
「なんですって……!?」
「お、ご立腹か。非情にならないとやってられねェだろうが。あの王子様みたくよォ!」
「くっ……!」
カタリーナは腹立たしく思うも、顔を背けるだけで済ました。相手にはしないと、自分を抑えているようだ。ただ。
「……あたくしは、王族として。あたくしは」
「カタリーナ様……?」
カタリーナは保留派でいてくれた。ただ、暗い表情になっていたのが、ツルカは気になってしまっていた。
「……ああ、オレね。オレの番ですね」
ハルトは機嫌が悪いまま、手を上げた。ニコラスからツルカに視線を移す。より、目つきが悪くなっていた。そこにいるのは、みんなのハルト君ではない。
「……まあ、こっちも保留でいいですよ。保留でも贅沢だって。オレたち優しいくらいでしょ」
「ハルト君!」
贅沢とツルカは確かに言っていた。それをわざとらしく引用してきたのだ。
「おう、ハルトォ?オメーもこいつにハニトラされたのかァ?」
「オレが?こいつにハニトラされた?ないない、ないですって」
ハルトはわざとらしく手を振って、嫌そうな顔で否定していた。
「ふん、好きにいってろォ。オメーもこいつと仲がいいもんなァ」
「そういうのやめてくださいってー。つか、さっきからうざ絡みし過ぎ」
隣席同士でもあった二人。ハルトは先輩に肩を掴まれ、絡まれ続けていた。ハルトは遠慮がちに拒み続けていた。
「オメーはな、あまっちょろ過ぎなんだよ。だから、保留とか抜かしてんだろォが」
「……甘くもちょろい考えでもないけど」
ハルトは真顔でそう言った。相手を威嚇さえしていると思えるほどだ。隣の模範生はそっと手をどかした。
「先輩にどうこう言われるものじゃないんで。―お前にもね」
「!」
冷たい眼差しは、ツルカにも向けられた。彼の瞳はこう語っていた。
―お前を魔女だと認めたわけではない。
そんな彼が保留派でいてくれるのは、温情か同情なのか。
「残すは。―ニコラスさんですね」
「!」
集中するのは、ニコラスへの視線だ。ここまで半々であり、ニコラスの意見によって決着がついてしまう。当のニコラスはまだ震えたままだ。顔も下に向いている。
「……」
淡い期待かもしれない。それでももし、ニコラスが保留派でも回ってくれたなら。それで十分だと思っていた。自分は魔女を騙っている。それ以上は望まないと。
「ニコラスさん?お考えがまとまっておりませんか?」
「……ううん、僕の答えは決まっている」
「……ああ、そういうことですか。それも致し方ないかもしれませんが」
マルグリット。そして他の模範生達も想像ついた。先程のはやはり、この魔女騙りを庇ったのだと。なら、出す答えは保留派だと。
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