心配性の猫は離したくない。
店を出ると、辺りはかなり暗くなっていた。ツルカは夜空を見上げて、明日の魔女会議のことを考えていた。気が滅入るも、乗り越えなくてはいけないことだ。
「待たせたか?」
木の上に着地したラムルが、上から話しかけてきた。
「ううん。全然」
「……そうか。お前、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。全然大丈夫」
ツルカはそう言うも、ラムルはそうは思わない。あの男と話しをしていたのだ。この魔女会議前日にである。歓迎できない話なのは想像ついた。
「お前が大丈夫でも。お前がいくら大丈夫と言おうとも。……俺はずっと、お前が心配なんだよ」
「おおう、素直だ……」
「なんだよ、悪いか」
「ううん。おいで」
ツルカが腕を広げると、ラムルも飛び込んだ。猫を抱っこしながら、ツルカは告げた。
「私、頑張るよ。明日も乗り越えてみせるから」
「なあ、ツルカ」
ラムルが何か言いたそうなので、ツルカも聞く姿勢をとった。
「その、勤め先には明日休むって伝えてきた。明日まで学院で待機させてほしい」
「え……」
「俺がいてもたってもいられないんだ。何があってもすぐに動けるようにいたいんだよ。……気、悪くしただろうけど。お前がどうこうじゃない。俺がそうでもしないと」
「ラムル」
ツルカはラムルをもっと抱きしめた。彼の頬に自分の頬も寄せた。
「……私もね、心強い。嬉しいよ、ラムル」
「……そうか」
ツルカも素直な気持ちになった。どれだけ強がろうと、不安な気持ちは消えてはくれなかった。
「それでだけど、ラムル。……泊まった方がいいよね」
「いや、野宿でいいぞ。俺はそれでいい」
「いやいや、それはさすがに。うん、お互いちゃんと体を休めないと」
「それは、まあそうだけどな。……でもな?」
「じゃあ、帰ろうか……?」
ギクシャクはしてしまうものの、昨日も何も無かったのだ。ツルカは抱っこ状態で、ラムルを連れて帰る。
「俺、絶対に猫のまんまだから。絶対にな。そこはちゃんとしろよ、俺」
ツルカに抱っこされたまま、ラムルは言い続けていた。自分に暗示をかけ続けているようなものだった。
「明日か」
明日も乗り越えなくては、魔女として終わってしまう。
ツルカは朝を迎えた。ろくには眠れていないが、気合を入れて起きた。
ツルカは身支度を済ませ、部屋で朝食をとる。ツルカが纏ったのは、学院の制服。一般生徒用のローブだ。鏡の中の自分を見た。自分はまだ、ローゼの学院生だ。
「ツルカ」
洗面所を出ると、猫のラムルが足元にまとわりついてきた。ツルカはしゃがんで、彼に言う。
「いってきます」
「……ああ」
「……ラムル」
ラムルは返事をする。今度はしっぽまで巻きつけてきた。中々ツルカを解放してくれない。
「?」
ラムルに側につかれている中、部屋の呼び鈴が鳴った。誰かが部屋を訪れてきたのだ。
「お出迎え、だね。……ラムル」
「……ああ。じゃあ、またな」
ラムルは名残り惜しそうに、ツルカから離れた。解放されていた窓から、飛び立っていく。